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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

信用創造とは何か?–信用創造とシステミックリスクの関係–

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本ページでは、信用創造とは何かについてまとめたい。信用創造とは、一言でいえば、「銀行が預金を何倍にも膨らますことができる仕組み」である。

 

信用創造のしくみ

銀行は、預金者から集めた資金を、一部中央銀行への準備金を除いて基本的には貸出に回す。

銀行からの貸出を受け、資金を調達した企業は、その資金を使って設備投資を行ったり、諸々の支払いを行う。こうして、資金は市中に出回ることになる。そしてそのお金を受け取った人や企業は、それを銀行に預ける。ここで、初めに預けられた預金(本源的預金)が引き出されることなく、新たな預金が「産み出された」ことが分かるだろう。そしてこのプロセスが繰り返され、預金がどんどん産み出されていく。

 

この信用創造の仕組みによって、本源的預金よりもはるかに多い資金が市中に供給され、それだけ経済活動が活発になることが可能となる。

 

信用創造とシステミックリスク

以上のことで分かるのは、ある銀行における預金が、貸出を通じて市中に出回り、別の銀行の預金になる…というように、銀行どうしが同じシステムの中で連関しているということである。

 

そのため、ある一つの銀行において予期せぬ多額の預金の引き出しが発生すると、その影響が他の銀行にも広がり、金融システム全体に波及する可能性がある。

 

ある銀行において多額の預金引き出しが発生した場合、その銀行はそれに対応するため、企業に貸出していた資金を回収する必要が出てくる。

 

企業がその要求に応じるためには、企業が別の銀行に預けていた預金を引き出す必要がある。このように、一つの銀行による予期せぬ引き出しが、他の銀行へと連鎖していく。こが「システミックリスク」である。

 

銀行が多額の預金引き出し要求に応じられなくなれば、預金者はお金が戻って来なくなる。さらに、銀行は資金繰りの悪化によって企業に貸出しができなくなる。こうして、システミックリスクが実体経済に大きな悪影響を与えることになる。

 

このように、信用創造という銀行の機能が、システミックリスクを引き起こしうることが分かる。信用創造が機能するのは、想定される範囲での預金の引き出しが行われるという、いわゆる「大数の法則」が当てはまることが前提となる。

 

(出典):

福田慎一(2014)「金融論 市場と経済政策の有効性」有斐閣

間接金融から直接金融にシフトするべきなのか?

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金融とは読んで字のごとく「金を融通する」という意味である。当然、融通する人がいて、融通される人がいる。


融通の仕方は大きく分けて2通りあり、融通する人と融通される人の間に銀行がおり、銀行が融通先を決定する仕組みを「間接金融」、融通する人が市場を通じて直接融通する相手を選ぶのを「 直接金融」という。


日本の金融システムは伝統的に、間接金融つまり銀行が主体であったということができるだろう。 一方で、近年はその間接金融の比重を見直し、直接金融をより発展させるべきとの声もある。
果たして間接金融から直接金融へのシフトは必要なのだろうか。
 
初歩的な経済学の教科書に必ず出てくる「生産関数」 という概念がある。一国の生産量(GDP)は、資本投入量、労働投入量、そして全要素生産性(いわゆる技術進歩と解釈できる)によって決定される、というものだ。


その国で生産活動を行う企業において、以上の3要素が上昇すれば、ひいては国全体が成長できることになる。


日本の高度経済成長時は、 継続した人口増加に伴う労働投入量の増加、多額の設備投資による資本投入量の増加が、企業の成長の鍵であった。このようなフェーズにおいては、銀行を中心とした金融システムが効果的に機能する。


将来の成長の見込みがある企業に対して銀行が融資をし、企業はそれを受けて設備投資や人員の増加を実施し、着実に事業規模を増加させていく。 銀行は過度なリスクテイクに陥ることなく、着実に収益をあげることができる。
 
しかしながら、経済が成熟し、成長率がフラットになり、人口減少が続く昨今においては、資本蓄積や労働投入を増やしていくのは容易ではない。 こうした段階において、経済成長の重要な要素となるのは技術進歩、さらに言えばイノベーションである。


そのため、イノベーションを起こす企業にお金が集まる環境が整備されることが重要であるが、銀行がこの担い手になるのはハードルが高い。銀行からの借入金は、基本的には将来必ず返さなければならない。ただし、企業が将来確実に顕著な技術革新を達成できるかどうかは不透明であり、どの企業が技術革新を成し遂げられるかを予測するのは難しい。


このように、「将来うまくいけば大成功となるけれども、うまくいかない場合もある」といった企業に貸し出しを行うの銀行にとってはリスクである。こうしたいわゆる「リスクマネー」の供給の担い手は、銀行ではなくマーケットを通じて株式等に投資する投資家である。具体的には、大規模な資産運用会社・機関投資家や、ベンチャーキャピタルプライベートエクイティなどである。


彼らは、投資したお金が戻ってこない(=損失を出す)可能性があることを承知の上で、リスクを伴うものの高いリターンを求めて、 自己責任で投資を行う。
 
成熟した経済において経済成長を実現させるには、イノベーションが不可欠であり、そのためには市場を通じて投資家が直接投資先を決定する「 直接金融」の仕組みの方が適している。
 
以上のように、経済成長の観点からは、直接金融の発展をを一定程度促すことはメリットが大きいと考える。しかしながら、今の日本において間接金融・ 直接金融の比重をどうするのが良いか、その適切なバランスを探っていく必要がある。


イノベーションと一口に言っても、 画期的な技術革新だけではなく、作業フローの改善を通じた生産性向上も成長に大きく寄与するわけで、そのような着実な生産性向上を行う企業に対しては、銀行は引き続き有力な資金供給主体となり得るだろう。


個人的には、経済の安定と成長に資する金融システムの設計に当たって、この論点は重要なリサーチクエスチョンなのでは、と考える。

資産運用ビジネスにおける利益相反について

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本ページでは、資産運用ビジネスにおいて発生する可能性のある利益相反の類型についてまとめたい。なお、以下に示す類型は金融庁が審議会にて示したものに基づいている。 

 

基本的にどの利益相反の類型も、顧客利益よりも自社の利益、あるいは会社が属する金融グループ全体の収益を優先する、という構造となっている。

 

①販売会社が商品提供会社から手数料を受け取るケース

投資信託などの金融商品を販売する販売会社は通常、商品提供会社(つまり資産運用会社)から手数料を受け取っている。「商品を売ってあげる対価」ということだ。その手数料は、投資信託ごとに別々に定められている。

 

そうすると、販売会社にとっては、資産運用会社からもらえる手数料が高い投資信託を顧客にたくさん売るインセンティブが生じる。本当は、顧客にとっては別の投資信託が最適だったとしても、販売会社の利益を優先して商品を売ってしまうと、それは利益相反となる。

 

投資信託の販売・運用が同一グループで行われているケース

「〇〇フィナンシャルグループ」といった同じ金融グループの中に、販売会社と運用会社が属する場合。顧客利益よりもグループ収益を優先して、同じグループの運用会社が作る投資信託を優先して販売会社が売る可能性がある。あるいは反対に、顧客の利益に関わらず、販売会社が売りやすい商品を運用会社が優先して組成することも考えられる。これらも、グループの収益を顧客利益よりも優先している点で利益相反であるといえる。

 

③法人営業を行う親会社等と運用会社が同一グループに存在するケース

資産運用会社は当然たくさんの株を保有しており、議決権を有する。適切に議決権を行使し、経営を改善させることを通じて企業の業績が上がれば、それはリターンとして資産運用会社にお金を預ける顧客に還元される。

 

しかし、もしその資産運用会社の系列に、議決権を保有する企業と親密な関係を持つ親会社(例えば銀行)などが存在する場合、資産運用会社は顧客の利益を優先する代わりに、親会社に配慮した議決権の行使(要するに手加減するということ)を行うかもしれない。これも、グループ収益を顧客利益より優先する利益相反の例と言える。

 

金融グループという形式の他にも、同じ会社内の別部門という形で同じ構図が存在し得る(典型的には法人営業部門と資産運用部門を有する信託銀行など)。

 

 

(出典)

金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第8回)議事次第:金融庁

金融機関における「利益相反」とは?

f:id:hongoh:20210316221706p:plain金融機関のコンプライアンスを考える際、「利益相反」は重要なキーワードの一つである。しかし、この「利益相反」が何を指すのか、法律上の明確な定義を見つけることは難しい。本ページでは、「利益相反」の基本的な考え方についてまとめたい。

 

利益相反の類型

利益相反」とは、文字通り解釈すれば「誰かと誰かの利益が対立すること」ということになる。もっと平たく言えば、一方の利益を優先することで、もう一方の利益が損なわれる状態、と言うことができる。では、具体的に誰と誰の利益が対立することが考えられるのだろうか。

 

基本的に、①顧客の利益と金融事業者の利益が対立する場合と、②ある顧客の利益と他の顧客の利益が対立する場合、の2パターンに整理できる。

 

①については、顧客利益よりも自分の会社の収益を優先する場合、ということができる。典型的には、本当は顧客の利益を考えると推奨すべきでない、手数料の高い金融商品を推奨する、などの例がある。

 

銀行、証券、資産運用など複数の機能を持つ金融グループの場合には、この問題がより顕著になる。グループ収益を優先するあまり、顧客の利益が蔑ろになることが考えられる。例えば法人融資を行う銀行を親会社に持つ資産運用会社があったとする。資産運用会社が、親会社が融資を行うA社に議決権行使を行う場合、親会社とA社との関係を重視してA社への議決権行使を手加減する(例えば全部提案に賛成するなど)恐れがある。顧客へのパフォーマンスの還元ということを考えると、本当は反対票を投じた方が良いのに、親会社の関係性の方を優先してしまうというのは、れっきとした利益相反であるといえる。

 

②については、例えば、競合関係あるいは対立関係にある顧客に対し、資金調達やM&Aといったことに関し助言などを提供する場合、ある一方の利益のために行うサービスはもう片方の不利益につながるので、やはり利益相反が生じる。

 

利益相反が生じる構造

このような利益相反が生じる背景には、基本的に本人-代理人(プリンシパル-エージェント)の関係が存在する。ここで、「代理人」は、「本人」の厚生を増大させるために「本人」に代わって裁量的に役務を担っているのに加えて、本人は情報が十分にないために「代理人」の行動をコントロールできないことが重要である(いわゆる情報の非対称性)。いわば「代理人」の方が優越的な立場にあるため、顧客の利益よりも自らの利益を優先させることが可能になってしまう、ということである。

 

 

金融ビジネス(に限らず全てのビジネスで共通であるが)では、顧客と金融機関双方が利益を享受できる状態、いわばwin-winであることが理想である。しかし、利益相反が生じているとき、それが達成されておらず、顧客の利益が蔑ろにされている、ということである。

 

(出典)

金融商品取引法研究会(2011)『金融商品取引業における利益相反 ―利益相反管理体制の整備義務を中心として―』研究記録第 32 号

 

ドル高に伴う新興国通貨安の影響について

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為替相場の決定要因は様々である。長期的には物価水準により決定されるが、短期的には通貨間の金利差が大きな影響を与える。具体的には、金利の高い通貨の需要が高まり、通貨高となる一方、相対的に需要が下がる通貨に関しては、通貨安となり、資金が流出することになる。

 

こうした中、「ドル高と新興国通貨安」という構図が、近年何度も観察されてきた。連邦準備理事会(FRB)による利上げ観測や、世界的な経済不安による安全通過ドルへの需要増加(有事のドル買い)に伴いドルが多く買われるようになる一方、新興国の通貨への需要が下がり、新興国通貨が軒並み下落する。

 

このような状況下で、新興国はどのような影響を受けるのだろうか。通貨安は、新興国にとって痛手である場合が多い。

 

ドル建て債務の膨張

多くの新興国は、ドル建ての債務を抱えている。ドル高になれば、準備しなければならない自国通貨の量が増大するため、負担は大きくなる。

 

ある新興国通貨が1ドル=100というレートだったとする。ドル高新興国通貨安が進み、例えば1ドル=120になれば、債務返済のために準備しなければならない自国通貨量は1.2倍となる。

 

輸入物価の上昇

石油をはじめとする資源の輸出に依存する国にとっては、通貨安は追い風となるが、資源を輸入に頼る新興国も多く、こうした国にとって通貨安は輸入物価の上昇という形で大きな痛手となる。

 

投資資金の引き上げ

グローバルな資金から新興国からドルに移るということは、新興国への投資が減少することを意味する。経済発展の途上にある新興国にとっては、資金供給の主要な主体である外資の引き上げによる影響は大きい。

不偏性と一致性とは何かについて平たく説明

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本ページでは、統計学における不偏性と一致性についてまとめたい。一般に、母集団の性質を標本によって推定する際に、その推定量が不偏性と一致性を持つことが望ましいとされる。以下、母集団の平均を標本によって推定することを念頭に記述する。

 

母集団と標本

まず、母集団と標本の関係について整理する。

ある調査対象(例えば日本人、日本企業など)があり、その全ての要素を含んだものが母集団である。その調査対象で何か(例えば収益の平均など)を調べようと思ったとき、できることなら全数調査をして、すべての要素を集計した方が正確である。しかしながら、技術的に全ての要素を集計するのは難しいことも多いので、いくつか標本(サンプル)を抽出して、そのサンプルの中での平均(標本平均)を調べ、母集団の平均(母平均)を推測する、と言う方法が取られることがしばしばある。

 

例えば、テレビの視聴率は典型的なサンプル調査で、サンプルに選ばれた世帯の視聴状況を調べて、日本全体の(あるいは各地域の)視聴率を推定しているのである。

 

母平均と標本平均の関係

もちろん、サンプルを恣意的に抽出してはならず、あくまでランダムに抽出することで、母平均に近い標本平均を導くことができる。

 

しかし、もちろん、標本平均が完全に母平均に一致するとは考えにくい。どのサンプルを抽出したかによって、微妙に母平均とのズレが生じるのは自然なことだろう。しかしながら、標本平均が以下の不偏性と一致性を持つとき、標本平均は母平均の推定値として望ましいと考えられる。

 

不偏性

不偏性は、一言でいえば「標本平均の期待値をとると母平均と一致する」という性質である。例えば10000の要素からなる母集団があり、そこから100のサンプルをランダムに抽出して標本平均を算出する場合を考える。そして、このサンプルの抽出、標本平均の抽出を何回も(例えば100回)繰り返すとする。

 

ある回では、標本平均と母平均が大きく異なることもある。またある回では、両者が完全に一致しているかもしれない。

 

このとき、何回も標本抽出して算出した標本平均の期待値をとると、母平均と同じになることが知られている。

 

一致性

標本サイズを大きくしていけば、標本平均が母平均に近づいていく。この性質を一致性という。

 

上記の例でいえば、10000の要素からなる母集団から、10のサンプルをとったときの平均と、9000のサンプルをとった時の平均を比べれば、後者の方が母平均と近いことは直感的にイメージしやすいだろう。

 

(出典):

田中隆一(2015)「計量経済学の第一歩」有斐閣ストゥデイア

 

仮説検定の基本的な考え方について平たく説明

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本ページでは、統計分析における仮説検定の基本的な考え方についてまとめたい。

 

仮説検定の考え方

「AがBである」ことを示したいとする。このとき、「いったん『AがBで"ない"』という仮説を立て、その仮説が正しい確率が十分に低い」ことを示すことで、「AがBである」ことを確かめる、というのが、仮説検定の基本的な流れとなる。

 

具体的には、以下のステップで仮説検定を行う。ここでは一例として、「新型の電球の開発により電気の寿命は延びたか」という検証を取り上げる。

 

帰無仮説の設定

「新型の電球の開発により旧来型よりも電気の寿命が延びた」ことを示したいとする。このとき、いったんそれと反対の仮説、すなわち「新型の電球は旧来型と電気の寿命が変わらない」を設定する。これは後に棄却したい仮説であるため、帰無仮説と呼ばれる。いったんは、この帰無仮説が正しいという前提の下、検証を進めていく。

 

旧来型の電気の寿命が1000時間であったとする。新型の寿命の平均をμ時間とすると、

μ=1000

が、帰無仮説となる。μは、母集団の平均である。

 

②標本の抽出

次に、新型の電球の標本を抽出し、その寿命の平均(標本平均)を算出する。標本平均をX(本来であればXの上にバー(―)が付くが、ここでは省略)とすると、ここではX=1200であったとする。

 

③統計量の作成

ここで関心があるのは、この1200という数字が、本当に「新型電球の開発により電気の寿命が延びた」ことを示しているのか、という点である。これをどのように検証するかというと、先ほどの帰無仮説(新型の寿命は旧来型と同じ1000時間)の下、「平均1000時間の母集団から抽出した標本の平均として、1200時間という数字はどれだけ珍しいことか」を確率的に検証するのである。検証の結果、もしあまりに珍しい(確率的に低い)ことが確認されたのなら、やはり新型の電球は旧来型の電球と寿命の平均値が異なると考えるのが妥当であり、よって帰無仮説は棄却される、とみなすのである。

 

何をもって「珍しい」とみなすか、は分析者によって異なるが、一般に「5%以下」であれば帰無仮説は棄却できる、とみなすケースが多い。この水準を有意水準という。

 

では、どのようにして確率的に検証するのか。それは、抽出した標本平均をもとにして、確率分布に従う「統計量」を作成する。母集団が平均μ、分散σ^2の正規分布に従っているとき、標本平均Xは、サンプル数をnとすると、平均μ、分散σ^2/nの正規分布に従う。さらに、標本平均Xからμを引き、σ^2/nで割った数字は、平均0,分散1の標準正規分布に従う。フォーマルには以下のように表される。

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ここで、X=1200を代入した値(統計量)が、標準正規分布の中でどこに位置づけられるのかを確かめる。

 

④確率の検証

統計量と確率は対応している。標準正規分布の場合、統計量が1.96以上、あるいは-1.96以下であるとき、それは5%以下の確率であることを意味する。有意水準を5%と設定するとき、統計量が上記の範囲であれば、それは十分に珍しく、よって帰無仮説を棄却できる、ということになる。

 

σ(母集団の標準偏差)が分かっているとき、X、μ、nが分かっているので、統計量を算出することができる。この統計量から、母平均が1000である中で標本平均X=1200となる確率を算出し、その確率が十分に低ければ、帰無仮説は棄却でき、よって新型の電球は旧来型よりも寿命が長いことを統計的に検証できたということになる。

 

σが分からないとき

以上が仮説検定のステップとなる。しかしながら、現実の分析においては、母集団の標準偏差σが分かっていることはあまり多くない。標準正規分布を使って分析するには、σが分かっている必要がある。

 

しかし、母分散σ^2を標本分散s^2(標本として抽出した値の分散)に代替することができる。このとき、標準正規分布ではなく、t分布に従うことが知られている(正確には自由度n-1のt分布)。t分布における統計量と確率の対応により、上記のように帰無仮説を検証することができる。

 

(参考):

倉田博史、星野崇宏(2009)「入門統計解析」新世社