ERISA法(Employee Retirement Income Security Act)とは、1974年に制定された、企業年金に加入する従業員が有する受給権の保護を目的とする米国の連邦法(州法とは異なり国全体に対して効力を持つ法)で、企業年金を広く規制している。
ERISA法におけるキーワードは「フィデューシャリー・デューティー」である。フィデューシャリー・デューティーとは、「他者の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広い様々な役割・責任の総称。」と一般に定義されるが、エリサ法は企業年金において、フィデューシャリー・デューティーをどのように規定しているのだろうか。
企業年金におけるプレーヤー
その前に、米国の企業年金におけるプレーヤーについて整理してみたい。
大きく分けて、受益者、委託者、受託者、に分類される。
①受益者
退職後年金を受給する従業員。
②委託者
従業員に年金を支払い、現役時に従業員が拠出する年金保険料を預かる年金基金。アセットオーナーとも呼ばれる。
③受託者
委託者より依頼を受け、実際に資金を運用する資産運用会社。
②の委託者(年金基金)は、様々な投資資産を保有し、利益が最大になるようポートフォリオを構築するが、それぞれの投資資産において高度な運用を行うことは一般に困難であり、③の委託者(資産運用会社)に個々の運用を委託する場合が多い。
ERISA法におけるフィデューシャリー・デューティー
ERISA法では、委託者である年金基金と受託者である資産用会社に対して、最終受益者へのフィデューシャリー・デューティーを課している。資産運用会社は、受給者とは接点を持たないにもかかわらず、である。年金基金も資産運用会社も、最終受益者を最優先して業務を遂行しなければならない、ということである。
さらに、具体的には以下の義務を果たすことを年金基金、資産運用会社に対して求めている。
〇忠実義務
専ら最終受益者に利益を与え、年金プランの管理費用を合理的なものとすること
〇注意義務
同等の能力を有し、同様な事情に精通している思慮深い者が、当該状況において用いることとなる配慮、技能、思慮深さ、熱心さをもって職務を遂行すること
〇分散投資義務
リスク回避のために、その行う投資を分散させること
〇規約遵守義務
年金プランに関連する規約を遵守すること
出典:金融庁資料より
以上、ERISA法は、徹底的に最終受益者のために「利益」の追求を求めていることが分かる。特に、「分散投資」をすることを明文化している点は特筆に値する。このように、年金基金、資産運用会社に対して厳格なフィデューシャリー・デューティーを課す法律は日本にはない。