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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

ERISA法改正に見るESGとパフォーマンスの問題

f:id:hongoh:20210316221706p:plainESG投資はパフォーマンスを向上させるのだろうか。ESG投資とパフォーマンスの関係についてたくさんの実証論文が出されているが、未だに確たるコンセンサスはない状況である。

 

ESGとパフォーマンスの関係について、環境に優しい商品・サービスは今後需要が伸びていくだろうから、ESGに力を入れている企業に投資することで大きなリターンをあげられるかもしれない、という考え方がある。

 

一方、金融の教科書に必ず書いてある「平均・分散アプローチ」は、市場に出回る全ての銘柄を分散させて買うことが最も効率的であると主張する。この観点からみれば、「ESG」という、必ずしも企業の業績と関係するかわからない要素によって取捨選別をすることは、効率性を阻害し、パフォーマンスを押し下げるのではないか、という考え方もあり得る。

 

後者の立場をとったのが、トランプ政権自体の米国の労働省だ。労働省は2020年、企業年金における運用者やアセットオーナーに対する規制であるERISA法において、受託者はあくまで受益者のために金銭的なリターンのみを追求するべきで、ESGという要素が金銭的であるとみなせる場合は限定的だ、という旨を明記した改正案を提案し、大きな議論を巻き起こした。2020年7月30日までに実施されたパブリックコメントでは、1,500件以上の意見が提出され、過半数が改正案に否定的なものであった。

 

こうした意見もあり、最終的には「ESG」の文言は削除され、20年末に改正された。しかしながら、依然として金銭的な要素によってのみ投資判断をするべきであるという内容が明示的になったことにより、年金基金にとってESG投資が難しくなっていることは事実である。

 

とはいえ、21年3月現在では、改正法のさらなる修正を行う予定であり、当面施行はしない見通しであるという。今後、バイデン政権下で方針が軌道修正がされる可能性は十分にある。

(参考記事:https://www.natlawreview.com/article/dol-will-not-enforce-trump-administration-s-erisa-esg-investing-and-proxy-voting

 

以上の動きは、「ESGはパフォーマンスを向上させるか」という本質的な問題を提起している。

 

日本においてはGPIFが2017年より株式や債券など全ての資産でESGの要素を考慮して投資することを表明した。基本的には、年金基金などアセットオーナーは、ESGとパフォーマンスとの関係がどのようであるかに関わらず、責任ある投資家としてESG投資を考量せざるを得ない流れができているように思われる。世界的な潮流として、ESG投資を投資家がどのように位置づけていくのか、注目していきたい。

 

参考:月刊資本市場2020年11月号「ESG投資を減退させる労働省のERISA法改正案」