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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

FRTBにおける資本賦課額算出の標準的方式について

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本ページでは、FRTBにおけるマーケット・リスクに対する資本賦課額算出の標準的手法についてまとめたい。ここでは数式は使わず、概念をまとめているのみなので、厳密な定義や数式等の詳細は告示文書や、文末の参考文献等を参考にされたい。

 

FRTBとは

2016年1月、バーゼル銀行監督委員会バーゼル委)は、金融危機を踏まえた規制改革の一環として、バーゼルⅢにおけるマーケット・リスク規制の規則文書(「マーケット・リスクの最低所要自己資本」)を公表。これは、トレーディング勘定におけるマーケットリスクの資本賦課の在り方を抜本的に見直すものであり、FRTB(Fundamental Review of Trading Book)と呼ばれる。その後、 2019年1月、バーゼル委が見直し作業を完了し、最終規則文書が公表された。

 

標準的方式の概要

標準的手法においては、以下①〜③に対する資本賦課額を単純合算する。

①感応度方式による価格変動リスク

金融商品がデフォルトに至るリスク

③その他のリスク

以下、それぞれについて詳述する。

 

①感応度方式による価格変動リスク

ここでは、ある要因(リスク・ファクター)により、取引する商品の価格が変動するリスク(デルタリスク)に対する資本賦課額を計算する。

まずは、取引する商品を以下の7種類のリスククラスに分類する。

①一般金利リスク

②信用スプレッド・リスク(証券化商品以外)

③信用スプレッド・リスク(証券化商品)

④信用スプレッド・リスク(証券化商品のコリレーション・トレーディング・ポートフォリオ

⑤株式リスク

コモディティ・リスク

外国為替リスク

各リスク・クラスにおいて、さらに共通の性質を持つリスク・バケットにグルーピングする。例えば、⑤株式リスクであれば、時価総額の大きさ地域セクターで13個のバケットに分類される。①一般金利リスクであれば、各通貨バケットとなる。

紛らわしいが、要するにリスク・クラス>リスク・バケット という包含関係である。

 

そして、各リスク・クラスにおいて、商品の価格を変動させる変数リスク・ファクター)が定められている。例えば⑤株式リスクであれば、株式のスポット価格やレポレート、⑦外国為替リスクであれば為替レートである。

 

以上を踏まえ、次の手順で資本賦課額を算出する。

  1. それぞれのリスク・バケットにおいて、各リスク・ファクターが変動した場合の商品価格の変動額(感応度)を算出。この感応度に、所定の変動幅(リスク・ウェイト)を掛け合わせることで、各リスク・ファクターに対する資本賦課額が算出される。
  2. 次に、1.で算出した、リスク・バケット内の各リスク・ファクターに対する資本賦課額を合算し、リスク・バケットごとの資本賦課額を算出する。このとき、リスク・ファクターごとの相関関係を考慮するので、単純合算ではなく、リスクファクター間の相関係数を適用して算式に用いる。
  3. 各リスク・バケットの資本賦課額を合算して、リスク・クラスごとの資本賦課額を算出する。ここでも、リスク・バケットごとの相関関係を考慮するので、単純合算ではないことに注意。
  4. 最後に、各リスク・クラスの資本賦課額を単純合算する。

オプション性を有する商品については、追加的にベガ・リスク、カーベチャー・リスクに対する資本賦課も求められるが、ここでは割愛する。

 

金融商品がデフォルトに至るリスク

①に加えて、クレジット系の商品がデフォルトに至るリスク(Jump-To-Default Risk)に対する資本賦課額も算出する。これは、ストレス時に発生するデフォルトによる損失のリスク(テール・リスク)を補足したものとなっている。

  1. ある発行体において、エクスポージャーごとにグロスのデフォルト時の損失額(JTD額)を算出する。JTD額は、額面にデフォルト時損失額(LGD)を掛け合わせ、時価評価損益を加えた額である。
  2. 同一の発行体ごとに、1.で算出したロングポジションのJTD額、ショートポジションのJTD額を相殺してネットのJTD額を算出する。
  3. ある発行体におけるネットのJTD額について、格付けに応じたリスク・ウェイトを掛け合わせることで、発行体ごとの資本賦課額を算出。次に、同じバケット(①感応度方式で登場したバケットと同様のイメージ)に属する発行体の資本賦課額を合算する。合算にあたっては、ロングポジション、ショートポジション間のヘッジ効果が勘案される。
  4. 最後に、各バケットに対する資本賦課額を合算する。

 

③その他のリスク

エキゾチックな金融商品(様々な条件が付与されたデリバティブ資産等)などについて、①②では補足しきれないリスクがあると考えられるため、そうした「残余リスク」について、想定元本に一定のリスク・ウェイトをかけた額を資本賦課額として算出する。(本当に正確にリスクを補足しようとするとあまりに複雑になってしまうため、簡便的な手法により代替しているイメージである。)

 

(出典):

金融庁日本銀行(2019)「「マーケット・リスクの最低所要自己資本
の概要」

吉井 一洋、 金本 悠希、 小林 章子、 藤野 大輝(2019)「詳説 バーゼル規制の実務―バーゼルIII最終化で変わる金融規制 」