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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

ベイルインとは何か

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本ページでは、ベイルイン(Bail-in)とはどのような考え方なのかについてまとめたい。ベイルインは、金融機関の破綻時に、政府による公的資金の注入ではなく、金融機関の株主や債権者等に救済にかかる費用を負担させることをいう。具体的には、債務の元本削減や、株式転換を行う。

 

公的資金注入が必要となるとき

大規模で金融システムの中核をなす金融機関が破綻すると、この金融機関と取引のある多くの金融機関において連鎖的に資金繰りの悪化や信用不安が広がり、金融システム全体が機能不全となり、実態経済全体に悪影響を与える恐れがある。そうすると、金融当局は公的資金を投入してでもその金融機関の破綻を回避し、経済の深刻な冷え込みを防ごうとするだろう。その金融機関が潰れることで、経済全体が影響を受けるため、潰すことができないのである。すると銀行はどうせ政府が助けてくれるだろうと考え、過剰なリスクをとってしまうおそれがある。そうなると、多額を税金を投入しなければならない可能性が高くなってしまう。

 

公的資金注入の回避

しかしながら、公的資金の注入は多くの税金を必要とし、国民からの反発も大きい。そこで、世界的に公的資金の注入を回避する方法が検討されることとなった。公的資金の注入による救済・破綻処理をベイルアウトというが、ベイルアウトからベイルイン、すなわち金融機関 の株主・債権者の損失負担による救済・破綻処理への転換が模索されるようになった。

 

ベイルインとは

損失を株主や債権者に負担させる枠組み、と述べた。要は、損失吸収力の十分な確保である。

 

例えば、一万円の貯金をはたいてギャンブルをし、全額負けてしまっても、貯金がなくなっただけなので特に問題はない。一万円の貯金は「損失吸収力がある」といえる。一方、一万円を誰かから借りてきてギャンブルをし全額失った場合、借りた一万円は返さないといけないので、どこかから何とかして一万円を調達しなければならない。そのため、借りてきた一万円は「損失吸収力がない」と言える。

 

バランスシート上、資産の損失に対して、返済する必要のない資金である自己資本は損失吸収力を持つ。さらに、負債の中でも、金融機関の破綻時に①元本削減可能、あるいは②株式に転換可能な負債は、損失吸収力があると見なすことができる。この債券をベイルイン負債という。要するに、債権者が損失を負担してくれる債券ということである。

 

概念図を以下に示す。一部は損失の補填として、また一部は株式に転換する機能を持つベイルイン負債の存在によって、破綻時にも公的資金を注入することなく、損失をカバーすることが可能になっていることが分かる。

 

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国際的な動き

納税者負担の回避は世界的な潮流となっている。2010年の金融安定理事会(FSB)の勧告を受けて、欧米を中心に、当局が実施する金融機関の破綻処理において、株主に加えて債権者にも損失を負担させることを可能にする法整備が進められている。これがいわゆる法定ベイルインの導入である。日本では法定ベイルインは導入されておらず、社債やローン等に損失を吸収する条件を含める「契約上のベイルイン」が導入されている。

 

バーゼルⅢの自己資本比率規制においては、自己資本に参入できる一部の要件(「その他 Tier 1」および「Tier 2」)として、金融当局によって破綻の認定を受けた際に、元本の消滅または株式への変換が可能となることが、債券の発行時に契約されていることが必要となった。

(参考)

伊豆 久(2015)「金融危機と公的資金─ベイルインをめぐって─」証券経営研究会編『資本市場の変貌と証券ビジネス』 日本証券経済研究所(第2章)