日本における金融機関の破綻処理について。
金融機関の破綻で生じた損失を誰が負担するのか
破綻処理について考える上での前提として、金融機関が破綻に至る中で生じた損失をだれが負担するのか、という問題がある。金融機関の破綻に際して預金が全額保護されない場合、預金者が損失を負担したことになる。破綻処理に際して損失吸収のための資本増強に公的資金が注入された場合、一義的には納税者が損失を負担したことを意味する(後に金融機関が返済)。一方、銀行の資本やローンの元本削減のみによって破綻処理が行われた場合、株主または債権者による損失負担に抑えられたことになる。
預金保険機構による預金の保護
それでは、金融機関が破綻した際に預金はどうなるのか?日本では、政府・日銀から出資を受け、金融機関から保険料を徴収している預金保険機構によって、一定の預金の保護は保証されている。
(参考):預金保険機構HP
預金保険法における金融危機時の2つの枠組み
通常の金融機関の破綻における上記の預金保護は、預金保険機構の一般勘定(金融機関からの保険料が中心)に基づいて行われる。一方でシステミックリスクの発生が懸念されるような状況においては、以下のような枠組みが適用される。なお、その際に行われる資金援助等の措置においては、いわゆる公的資金が投入される場合がある。
(参考):
以下、金融機関の破綻によるシステミックリスクを防止するための枠組みについて概要をまとめる。
金融危機対応措置
「わが国または対象金融機関が業務を行っている地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがある」と認められる場合に、内閣総理大臣・金融庁長官・日本銀行総裁等が参加する「金融危機対応会議」の審議によって発動。
第1号措置
まだ破綻・債務超過に陥っていない金融機関に対して資本増強を行う。具体的には、預金保険機構が株式の引き受けを行うことで、金融機関の自己資本比率を上昇させる。
第2号措置
金融機関が破綻または債務超過に陥った場合に、特別資金援助によって預金等を全額保護。
第3号措置
預金保険機構が破綻した金融機関の株式を全て取得し(一時国有化)、受け皿となる金融機関に株式を譲渡。
金融機関の秩序ある処理
2008年のリーマンショックを契機として、2013年の預金保険法改正によって「秩序ある処理」を可能にするための枠組みが整備された。これは国際的な議論に呼応したもの。秩序ある処理の対象は、預金取扱金融機関、保険会社、金融商品取引業者、金融持株会社を含む金融業全体に拡張。
特定第1号措置
過小資本(債務超過ではない)の金融機関に対する、預金保険機構による特別監視、資金の貸付または債務保証、自己資本の充実。
特定第2号措置
債務超過または支払い停止(そのおそれがある場合も含む)に陥った金融機関に対する預金保険機構による特別監視、資金援助(詳しくは後述)。
特定第2号措置に基づく破綻処理
ベイルイン
特定第2号措置の下では、破綻時に発生した損失を吸収するために株式・無担保債権の元本削減または無担保債権の株式転換が行われる(ベイルイン)。
(参考):
バーゼルⅢにおける「その他 Tier 1」および「Tier 2」に算入するための条件として、ベイルインの条項が必要となった。
SPE
SPE(Single Point of Entry)に基づき、特定第2号措置の下で金融機関に対する破綻処理が行われる。SPEとは、単一の破綻処理当局が金融機関グループで最上位に位置する持株会社、親会社に対して破綻処理を行使することでグループ全体を一体的なものとして処理する方法。子会社で発生した損失は、持株会者等の株式や無担保債権の元本削減や無担保債権の株式転換を通じて吸収される。
TLAC
上記のSPEアプローチを実現させるために、G-SIBs(Global Systemically Important Banks)に対して一定の損失吸収力を求めたものがTLAC。(外部)TLACに含まれるのはバーゼル規制に定める資本や「その他適格負債等」。G-SIBsに対して一定のTLACの水準を求めている。TLACの考え方及びTLAC適格負債については以下を参照。
(参考):
破綻時に子会社で発生した損失は、持株会社の①Tier1資本、②その他Tier1資本+Tier2資本(ベイルイン条項あり)③外部TLAC適格負債、を通じて吸収される。このように、なるべく公的資金の注入を必要としないような仕組みが整えられている。
(参考):
鈴木利光(2016)「本邦 TLAC 債、ベイルイン条項は不要
【金融庁:TLAC に係る枠組み整備の方針】リスク・ウェイトは未定」大和総研 金融システムの諸問題
前原信夫(2021)「わが国における金融機関グループの破綻処理に関する一考察」産大法学53巻3・4号
飯塚徹(2021)「現行の銀行破綻処理法制の考察 ―破綻処理事例と基本的な考え方、論点・課題の整理―」地域総合研究第22号
日本銀行金融機構局、金融庁監督局、預金保険機構調査国際部(2022)「巨大金融機関の破綻処理制度改革の軌跡 ─10 年目の節目を越えて─」日銀レビュー