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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

CATボンドとは何か

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 本ページでは、CATボンドとは何かについてまとめたい。

 

CATは大災害を意味するカタストロフィー(Catastrophe)の略語で、CATボンドとは、一言でいえば、通常よりも高い利率で投資家から資金を集め、一定の条件を満たす災害が発生したときに、投資家の償還元本が棄損する代わりにボンドの発行者が資金を受取ることのできる仕組みである。災害リスクを証券化し、小口の投資家に分散させる効果を持つ。

 

CATボンドの意義

保険会社は、発生確率が非常に低いもののひとたび起これば大きな損失が想定される災害について、ひとたび保険引受を行えば、災害が生じた際には保険金を支払わなければならず、そのための資金を確保する必要がある。

 

保険会社が支払い能力を超える引受を行う場合には、従来、再保険という仕組みが用いられてきた。再保険とは、保険会社が「再保険会社」に手数料(再保険料)を支払って、自社が引き受けたリスクの一部を再保険会社に移転する契約のことをいう。

 

CATボンドは、再保険に代わるリスクの移転手段として機能する。保険会社は、証券化の仕組みにより、マーケットの投資家にリスクを分散することが可能となった。CATボンドの登場によって、保険会社の引受能力の向上につながったということができる。

 

また、保険会社以外にも、自然災害に大きな影響を受ける会社がCATボンドを発行することで、損失のリスクを回避することができる。過去には、ディズニーランドを運営するオリエンタルランドがCATボンドを発行したことで知られる。

 

証券化とは何か

上述の通り、CATボンドは「証券化」を利用した仕組みである。それでは、この「証券化」とは何を意味するのか。証券化は、一言でいえば「ある資産にたくさんの投資家が小口で投資できる仕組み」ということになる。

 

例えばある投資家がオフィスビルに投資して賃料等の収入を得たいと考えた時、この証券化の仕組みがなければ、投資家はビル一棟を丸々購入しなければならない。財力が十分にあれば可能かもしれないが、多くの投資家にとっては高額で、かつハイリスクである。

 

しかし、ビルの保有者が「ビルの賃料等の収入を得られる権利」を「証券」として発行して、多くの投資家に売却すれば、投資家は少ない金額でビルに投資をすることができる。

 

反対に、不動産やローンなどの資産を持っている会社がこの「証券化」を行いたいと思う理由は、資産売却による「資金調達」と「リスク移転」ということができるだろう。

 

証券化については、以下のページにもまとめている。

hongoh.hatenablog.com

 

CATボンドの仕組み

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CATボンドの概念図

前置きが長くなったが、CATボンドの仕組みについて述べたい。CATボンドにおいて何を証券化するのかといえば、「災害リスク」ということになる。上記に述べたような不動産といった資産と違い、「リスクを証券化する」というのは少々分かりにくいが、個々の投資家は、災害が生じた際に補償しなければならないというリスクを引き受ける代わりに、通常よりも高い利回りを享受できる。証券化によって多くの投資家に小口にリスクを分散させるので、投資家一人当たりのリスクは小さくなる。

 

上図がCATボンドの仕組みとなる。上図には「SPC」と書いてあるが、これは保険リスクの証券化を専ら目的とする「SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)」が、CATボンドを発行して投資家に配る、という形をとる。

 

SPCは保険会社からプレミアムの支払いを受ける。反対に、大規模災害等が発生した際には、SPCに対して保険料を支払う

 

しかしながら、SPCは実態のないペーパーカンパニーであり、取引を行うには担保が必要である。そこで、CATボンドの発行に際して投資家から払込を受けた資金国債等の安全資産を購入し、担保とする。災害の発生時には、これが支払い原資となる

 

そして、保険会社からのプレミアム支払いを元に、投資家に利払いが行われる。

 

なお、図ではリスクの移転者を「保険会社」として表現したが、上記の通り、災害により大きな損失を被ることのある一般企業がCATボンドを発行することもある。

 

投資家側のメリット

保険会社にとってはCATボンドはリスク移転の手段として機能することは既に述べたが、投資家側のメリットは何なのだろうか。

 

ボンドの償還期間までに災害が発生しない限り、投資家は利払いと満期には元利金を受け取ることができる。自然災害の発生はマーケットの動向とは無関係であるため、投資家にとってはCATボンドは伝統資産と相関の低い新たなリターン源泉と位置付けられる。

 

 

損保ジャパン総研レポート(2012)『活況を呈し始めた保険リンク証券への期待
―キャットボンドを中心とした動向―