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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

金融機関における「利益相反」とは?

f:id:hongoh:20210316221706p:plain金融機関のコンプライアンスを考える際、「利益相反」は重要なキーワードの一つである。しかし、この「利益相反」が何を指すのか、法律上の明確な定義を見つけることは難しい。本ページでは、「利益相反」の基本的な考え方についてまとめたい。

 

利益相反の類型

利益相反」とは、文字通り解釈すれば「誰かと誰かの利益が対立すること」ということになる。もっと平たく言えば、一方の利益を優先することで、もう一方の利益が損なわれる状態、と言うことができる。では、具体的に誰と誰の利益が対立することが考えられるのだろうか。

 

基本的に、①顧客の利益と金融事業者の利益が対立する場合と、②ある顧客の利益と他の顧客の利益が対立する場合、の2パターンに整理できる。

 

①については、顧客利益よりも自分の会社の収益を優先する場合、ということができる。典型的には、本当は顧客の利益を考えると推奨すべきでない、手数料の高い金融商品を推奨する、などの例がある。

 

銀行、証券、資産運用など複数の機能を持つ金融グループの場合には、この問題がより顕著になる。グループ収益を優先するあまり、顧客の利益が蔑ろになることが考えられる。例えば法人融資を行う銀行を親会社に持つ資産運用会社があったとする。資産運用会社が、親会社が融資を行うA社に議決権行使を行う場合、親会社とA社との関係を重視してA社への議決権行使を手加減する(例えば全部提案に賛成するなど)恐れがある。顧客へのパフォーマンスの還元ということを考えると、本当は反対票を投じた方が良いのに、親会社の関係性の方を優先してしまうというのは、れっきとした利益相反であるといえる。

 

②については、例えば、競合関係あるいは対立関係にある顧客に対し、資金調達やM&Aといったことに関し助言などを提供する場合、ある一方の利益のために行うサービスはもう片方の不利益につながるので、やはり利益相反が生じる。

 

利益相反が生じる構造

このような利益相反が生じる背景には、基本的に本人-代理人(プリンシパル-エージェント)の関係が存在する。ここで、「代理人」は、「本人」の厚生を増大させるために「本人」に代わって裁量的に役務を担っているのに加えて、本人は情報が十分にないために「代理人」の行動をコントロールできないことが重要である(いわゆる情報の非対称性)。いわば「代理人」の方が優越的な立場にあるため、顧客の利益よりも自らの利益を優先させることが可能になってしまう、ということである。

 

 

金融ビジネス(に限らず全てのビジネスで共通であるが)では、顧客と金融機関双方が利益を享受できる状態、いわばwin-winであることが理想である。しかし、利益相反が生じているとき、それが達成されておらず、顧客の利益が蔑ろにされている、ということである。

 

(出典)

金融商品取引法研究会(2011)『金融商品取引業における利益相反 ―利益相反管理体制の整備義務を中心として―』研究記録第 32 号