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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

金融所得課税を見直すべきか?ー分配と成長のバランスー

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2021年10月、岸田政権が発足し、「分配なくして成長なし」と訴えた。そして、分配を重視した施策の一環として、金融所得課税の見直しを検討するとした。 2021年現在、金融所得に対しては基本的に約20%の税率が課せられている。この金融所得課税見直しの是非について、分配と成長の双方の視点から考えてみたい。

 

「分配」の視点

所得の再分配を重視するとしたとき、金融所得に対する税率を引き上げるか、累進性にして金融所得の大きさに比例して税率を上げる仕組みにすることが考えられるだろう。

 

そもそも所得再分配の基本的な考え方は、所得の多い者や資産を多く持つ者から多く税を課し、それを財源として所得や資産が少ない者に対して還元するというものである。新自由主義的な考え方はこれに対立し、市場原理にできるだけ委ねることが重要と説く。

 

この二つの考え方の違いの背景には、個人の所得の多寡、もっと言えば境遇の良し悪しは、その個人の努力や能力に完全に依存すると考えるかどうか、という論点がある。個人の努力や能力に完全に依存すると考えるならば、所得再分配政策には消極的になるだろう。「裕福になりたければ努力しろ!」ということである。いわゆる新自由主義というのはこうした立場に立っていると考えられる。一方で、所得の大きさや豊かさは、生まれ育った環境など、本人の努力ではどうしようも無い外的要因に強く依存すると考えることもできる。そのために所得の再分配を行うことで、「皆が同じスタートラインに立てる」ことを目指すのである。

 

一般に資産を多く持つ裕福な人は、労働による所得だけでなく株などの資産からの所得も多い場合がある。こうした所得に対して高い税を課し、豊かでない人に還元するというのが金融所得課税の見直しの根本的な考え方ということができる。

 

「成長」の視点

一方で、株に対して税を重くすれば、普通に考えたら日本で株を保有するインセンティブは弱くなるだろう。そうすると、日本企業の株式の取引が活発でなくなり、日本企業の資金調達に悪影響が及ぼされる。

 

さらに、所得や資産の多い人は、その国において「稼ぎ頭」である可能性が高い。事実、政府は海外の金融プロフェッショナルを日本に誘致しようとしており、その政策の一環として税制優遇にも着手している。生産性の高い人材にとって、所得課税、資産課税は重要な問題である。日本での重税に辟易して、海外に人材が流れる可能性は十分にある。

(この論点については、勤労所得と金融所得をいっしょくたにして書いている)

 

以上のことから、金融所得の見直しが成長を阻害する恐れがある。

 

分配と成長は容易に両立されうる概念ではなく、その二つの好循環を実現するには高いハードルがある。