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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

投資信託とフィデューシャリー・デューティー(金商法との対応)

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本ページでは、投資信託を取り扱う業者(資産運用会社、販売会社)が顧客に対してどのような義務を負うのかについて、いわゆる「フィデューシャリー・デューティー」や、既存の法令(金商法等)との対応の観点から整理したい。

 

金融機関の「フィデューシャリー・デューティー」の重要性が指摘されるようになってから数年が経つ。

 

金融庁「平成 26 事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」より抜粋

家計や年金、機関投資家が運用する多額の資産が、それぞれの資金の性格や資産保有者のニーズに即して適切に運用されることが重要である。このため、商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関がその役割・責任(フィデューシャリー・デューティー)を実際に果たすことが求められる。

 

ここでは、「フィデューシャリー・デューティー」とは「他者の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広い様々な役割・責任の総称。」と定義されている。あくまで「総称」であり、既存の法令に明記されているものではない。

 

ただ、この「フィデューシャリー・デューティー」と、既存の法令とはどのような対応関係にあるのか。東大の神田秀樹教授の論文「いわゆる受託者責任について:金融サービス法への構想」(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」、2001年)によると、「フィデューシャリー・デューティー」の中でも以下の4つの義務が重要であるとしている(以下、同論文を参考に記述)。

 

①注意義務

資産の運用にあたっては相当の注意を払うことが要求されるという義務。具体的には、「思慮分別ある人だったらするであろう判断をせよ,そういう注意を払って行動をせよ」というもの。

 

②忠実義務

「フィデューシャリー」というのは他人のために仕事をする者であるから,自分の利益または第三者の利益と「その他人」の利益(たとえば年金の場合には加入員の利益)が衝突するような場合には,「その他人」(加入員)の利益の方を優先させなければいけないというもの。

 

③自己執行義務

受託者は「ある他人」のために仕事をすることを引き受けているわけであるから,その仕事をさらに別の他人に任せてはいけないという内容。

 

④分別管理義務

受託者が他人の資産を預かっている場合には,その資産は自分の資産とは分別して管理しなければならないというもの。

 

この①~④の観点から、金商法の条文を参照してみると、投資信託を運用する資産運用会社に対しては、忠実義務と善管注意義務(42条)を課している。一方、投資信託を販売する販売会社に対しては、これらの義務は課されておらず、顧客に対して誠実かつ公正に業務を遂行すべきとする誠実公正義務(36条)、顧客属性に対応した勧誘・販売を行うべきとする適合性の原則(40条)が適用されている。

 

フィデューシャリー・デューティーの中心的な内容である注意義務忠実義務が、販売会社に対しては課されていないのは注目に値する。一方、運用会社に課されている忠実義務、善管注意義務も、その実効性や具体性について疑問視する指摘もある。