本ページでは、金融商品取引法が何を目的とした法律なのかについて考えてみたい。
金商法第一条
金商法の目的については、条文の第一条で明示されている。
(目的)
第一条は、究極的な目標とより直接的な目標、そしてそれを達成するための方策、の3層構造となっていることがわかる。
以下では、2つの究極的な目的について、金商法の直接的な目標とその達成のための方策との関係を踏まえて考えてみたい。
①国民経済の健全な発展に資する
金商法が対象にするのは資本市場である。資本市場では、企業の開示情報をもとに、投資者が投資判断を行い、企業に資金が流れていく。そして、公正な市場価格が形成される。成長が見込まれる企業の株価は上昇し、結果多くの資金を集めることができる。一方、成長が期待できない企業の株価は低迷し、資金調達が難しくなる。こうして、資本市場を通じて、真に必要な企業に資金が分配されていく。これが、効率的な資源配分である。
マクロでみると、成長企業に資金が集まり、企業がさらに成長していけば、国全体の経済も成長する。こうして、資本市場が十分に機能することは、「国民経済の健全な発展」に資するのである。
適切な資源配分がなされるには、上記の通り、「公正な価格形成」がなされることが前提となる。本当は成長する見込みがない企業が粉飾決算により表面上は魅力的に見せたことで、多くの資金がその企業に集まってしまったとしたら、それは効率的に資源が分配されたとは言えないだろう。公正な価格形成がなされ、適切な資源配分を通じて成長企業に資金を供給し、経済を発展させるためには、公正な価格形成を阻害するような不適切な情報開示や、不公正な取引は避けなければならない。そこで、金商法では企業に適正な(嘘偽りのない)情報開示を求め、マーケットの参加者に公正な価格形成を阻害するような不公正な取引を禁じているのである。
このようにして透明性の高い市場が実現されれば、より多くの投資家がマーケットに参加し、資金がより市場に多く出回るようになるだろう。そうすると、企業はより積極的に資金調達を行えるようになり、ひいては経済全体の成長につながっていくだろう。
②投資者の保護に資する
投資者の保護とは、何も損失から守り元本を保証するということではない。資本市場での取引は、損を被るリスクがあることを承知の上で行うものであり、自己責任であるのが基本であるからだ。しかし、事実が知らされなかったり、不公正な取引に巻き込まれたりして損を被ることがあると、誰もが公正に(フェアに)資本市場に参加できるという前提が崩れてしまう。投資家がフェアに市場に参加できるという意味で、「投資者保護」という目的が掲げられている。
この目的の達成のために、企業の開示や金融商品取引業者、取引所の規制を通じて、公正な取引を目指している。
(参考):
第1回金融商品取引法を性格付ける3つのキーワードと4つの柱 | 日経クロステック(xTECH)
近藤 光男, 志谷 匡史, 石田 眞得, 釜田 薫子(2018)『基礎から学べる金融商品取引法 <第4版>』、弘文堂