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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

先物を用いたヘッジ取引の考え方

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本ページでは、市場取引で行われる「ヘッジ取引」の概要についてまとめたい。ヘッジ取引とは、将来の価格変動のリスクを、先物取引を用いることで排除または軽減することをいう。そのため、まずは「先物取引」の特徴について詳記した後、実際にマーケット参加者の間で行われているヘッジ取引の概要について述べることとしたい。ここでは、マーケットの変動による株価の変動のリスクに対応したヘッジ取引について紹介する。

 

先物取引とは

先物取引とは、価格が変動する商品等の将来における売買において、現時点で取引価格を事前に決める取引のこと。日本では江戸時代より、米の取引価格の変動に備えて将来の取引価格をあらかじめ決める取引が行われていた。この取引を行うことで、例えば米の販売者にとっては、収穫時の取引価格が大幅に下落することによる売上高の減少というリスクを防ぐことができた。これは先物取引の原型とされる。

 

現代の先物取引は、以下のような特徴を有しており、これらが今回のテーマである「ヘッジ取引」を可能としている。

 

先物取引の特徴①:先物価格は現物価格に連動する

先物取引は「一定期間後にある価格で取引する」ことであり、現時点で取引を行う際の価格(現物価格)と基本的には似た動きをする。理論的には、

 

先物理論価格=現物価格×〔1+(金利などの調達コスト-配当金などの収入)×(決済までの日数÷365)〕

 

で求められる。

この式の導出方法・考え方については、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

先物取引の特徴②:「売り」から始められる

通常、モノや株など現物の売買の際には、まず現物を「買って」、それから「売る」ことで、利益(あるいは損失)を確定できる。しかし、先物取引の場合、現物の受渡しを行わずに、売買により生じた価格差に相当する金額の授受のみでの取引が可能である。これを「差金決済」という。

 

例えば、Aさんが10日後X株を100円で購入する約束をBさんとしていたとする。10日後、株価が120円になっていたので、Aさんはその株をすぐさまBさんに売却したとする。このとき、Aさんは20円の利益を確定できた。ここで、現物であるX株のAさん、Bさん間の引き渡しは行われず、差額である20円をBさんがAさんに支払うだけで、取引を終了させることができる

 

X株についての取引なのに、X株の現物それ自体は取引には登場しないまま、取引を行うことが可能なのである。

 

この特徴により、先物取引においては、「売り」から取引を始めることができる。通常何かを「売る」には当然モノを保有してないといけないが、先物の場合はまずモノを買って保有する必要がなく、最後に差金決済を行えば良いからである。売りから始めたければ、上記と逆の動きをすれば良いというわけだ。

 

 

先物取引の特徴③:「指数」を売買する

先物取引において、TOPIXや、日経225など、「株価指数」の売買が可能である。「指数を売買する」というのは直感的にイメージしづらいかもしれない。株価指数を構成する数百・数千種類もの現物株の受け渡しをいちいち行うのは、非常に困難である。しかし、上述の「差金決済」を行うことで、現物の引き渡しをせずに取引を成立させることができる。結果として、この「株価指数」の売買が盛んに行われている。

 

具体的なヘッジの考え方

以上、先物取引の特徴を概観したが、具体的にはどのようにして、「ヘッジ取引」により、マーケットの変動によるリスクを抑えているかについてまとめたい。

 

マーケット参加者は、株などの金融商品を安値で買って(あるいは高値で売って)、高値で売る(あるいは安値で売る)ことにより利益を得ようとしている。ここで、例えばある個別株Aの売買による利益は、マーケット(市場)全体の連動分(β)と、その株独自の価格変動要因(α)分解することができる。

 

景気が良くてマーケット全体が好調なときには、βの値がプラスで、A株もあわせて上昇する傾向にある。そのA企業独自の企業努力により業績が改善した場合、市場の連動とは無関係に企業Aの株価が上昇する。これがαである。

 

この株Aを取引するとき、たとえ企業Aの業績が今後上がりそう(つまりαが生まれそう)だと思っても、マーケットが落ち込んでしまうと、株価の市場の連動分(β)が下落し、投資が損に終わってしまうおそれがある。

 

そこで、市場(β)が落ち込むと見込まれたときには、A株を買うのと並行して、マーケットを代表する指数先物(例えばTOPIXをまず売り市場が下がったところで買い戻せば、A株の市場変動による価格下落を、先物取引により得た利益(※高値で売って安値で買っているので)をカバーすることができる。個別銘柄のマーケット連動による減少(β)を、指数先物を売る(そして買い戻す)ことでヘッジできる訳だ。

 

反対に市場が上がりそうな時(かつA株を空売りによって儲けたいとき)は、まず先物指数を買って、値段が上がった時に売れば、マーケット連動による損を相殺することができる。

 

これらは、先物価格(指数)が現物の価格(指数)と似た動きをすること②「売り」から取引を始められること③「指数」を売買できること、により可能となる。まさに先物取引の特徴を活用したものと言える。