<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

IPOにおける公開価格と初値の乖離に関する問題

f:id:hongoh:20210316222216j:plain


 

 

本ページでは、IPOにおける公開価格と初値の乖離に関する問題についてまとめたい。

新規上場(IPO、Initial Public Offering)において、主幹事証券会社により決定される売り出し価格である公開価格と、その後上場して初めて決まった市場価格である初値が乖離しているのでは、という問題である。

 

より具体的には、公開価格<初値という傾向があり、公開価格決定の際に発行企業の価値が過小評価されているという懸念である。日本証券経済研究所のレポートによると、これは日本に限らず世界中で観察される事象であるという。

 

公開価格の決定方法

現在、公開価格の決定に際しては、多くの国でブックビルディング方式という手法が導入されている。これは、証券会社が機関投資家等からのヒアリングをもとにまず仮の価格を決定し、その後投資家に提示して投資家の需要を勘案し、最終的な公表価格に反映させる、というものである。

 

公開価格と初値の乖離が意味すること

投資家にとっては、公開価格で買って初値が出たタイミングで売れば利益が出るのでうれしいかもしれない。しかし、売出を行う既存株主や資金調達の手段として新たに株を発行する企業の立場からすれば,公開価格と初値の差だけ、調達できた資金額が小さくなったことを意味する。市場では効率的な価格形成がなされているという前提に立つとすると、公開価格は過小に値付け(アンダープライシング)されていることになる。

 

公開価格と初値の乖離の理由

乖離が生じる理由については様々な仮説がある。代表的なものに、「新規上場会社に関する情報の不透明性」が挙げられる。新規公開企業の価値がどの程度であるか、多くの投資家は十分な情報を得ることができないため、当該銘柄を購入しようとはしない。購入したはいいものの、ふたを開けたら劣悪な企業だった、ということを防ぐためである。そこで、証券会社は、投資家が安心して購入できるように(もっと言えば、多少損しても許容してもらえるように)公開価格を意図的に低く設定する、というものである。

 

他にも様々な仮説があり、詳しくは例えば以下の参考文献を参照されたい。

 

以上、公開価格が異常に低く値付けされているという観点を中心に紹介したが、近年、むしろ初値が異常に高くつけられている可能性を指摘する研究もある。いずれにしろ、この公開価格と初値の乖離の理由について、唯一絶対の見解がある訳ではない。

 

(参考)

証券経営研究会編(2015)『資本市場の変貌と証券ビジネス』 

金子隆(2009)『IPO の過小値付け現象─新しい解釈の試み─』三田商学研究第52巻第 2 号