本ページでは、IRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book)とは何かについて、概要をまとめたい。一言でいえば、「銀行勘定の金利リスク」ということになる。バーゼルⅢでは、この銀行勘定の金利リスクに関する規制を定めている。
銀行勘定の金利リスクとは
銀行の業務は、貸出や預金を中心とした取引に関する銀行勘定と、短期的な売買益を確保するために行う有価証券などの取引に関するトレーディング勘定に大別される。
金利水準が変われば、銀行勘定の資産、負債の価格は変動するし、収益も変わってくる。「銀行勘定の金利リスク」とは、こうした変動により生じるリスクのことを言う。
短期的な取引がメインとなるトレーディング勘定とは異なり、銀行勘定は、基本的に資産の長期保有等を前提とした業務である。このため、規制上では、金利リスクよりも貸倒れのリスク(信用リスク)が重視されてきた。
しかし、銀行勘定の金利リスクを無視して良いかというと、決してそんなことはない。
金利が上昇すると、長期保有の資産、負債の現在価値が低下する。現在価値は、将来のキャッシュフローの和を金利水準で割引いて計算される。分母である金利が上昇すれば、当然より多く割り引かれてしまうので、現在価値は低下する。
また、キャッシュフローの発生時点が先になればなるほど、より割引率も大きくなる。例えば金利が年率10%だとすると、3年後のキャッシュフローXの現在価値は、Xに1.1の3乗を割ったもの、つまりX/(1.1)^3となる。5年後、10年後…と先になればなるほど、分母の金利がどんどん掛け合わされていく。
一般に、銀行は比較的短期的なスパンで資金調達をし、より長期で貸出を行う。そのため、金利の上昇は、資産に対してよりダイレクトに作用し、資産を減少させる。
バーゼル規制の枠組み(3本の柱)
ところで、バーゼル規制では、銀行の健全性確保のための規制として、次の3本の柱を掲げている。
第1の柱:資本賦課
自己資本比率規制。バーゼル規制の最もポピュラーな規制といって良いだろう。銀行が取っているリスクに対して、一定の自己資本の確保を求めるものである。
第2の柱:監督上の取扱い
銀行が自らのリスクを自己管理することを促し、監督当局に対しては、各金融機関のそれぞれのリスク管理戦略について検証・評価を行い、必要に応じて監督上の措置を求めるというものである。
第3の柱:開示
自己資本比率や銀行が抱えるリスク、そしてその管理状況などについての開示を通じて、個々の金融機関のリスク管理を促すものである。
IRRBBの規制上の取扱い
これまで、銀行勘定の金利リスクについては、第2の柱(監督上の取扱い)で対応してきた。一方で、トレーディング勘定における金利リスクは、第1の柱として、自己資本比率の分母としての取扱われた。これは、トレーディング勘定とは違い、銀行勘定の金利リスクを定量的に把握することは実務上難しいこともあり、自己資本比率規制の中に取り込むことが困難であるという事情もある。
こうした中で、トレーディング勘定における金利リスクと取扱いを統一すること、低金利下における金利上昇への備えといった観点から、規制の強化が検討され、引き続き第2の柱としながらも、新たな規制が導入される旨が2016年にバーゼル委員会によって公表された。
IRRBB規制の概要
それでは、IRRBBに対してどのような規制が新たに定められたのだろうか。
具体的には、アウトライヤー比率といって、金利リスクの総量が自己資本Tier1の15%を超えないように、という、基準が示された。アウトライヤー比率を超えた場合、各国の監督当局それぞれのケースに応じて措置を講じることが求められる。
金利リスクの計測にあたっては、市場動向に関するいくつかのシナリオを用いて、その最大損失を採用する。各行で用いられる内部モデルによって金利リスクは計測される。
IRRBBの詳細については、例えば以下を参照されたい。
(参考)
金融庁(2015)「バーゼル銀行監督委員会による市中協議文書「銀行勘定の金利リスク」について」
みずほ総合研究所(2017)「銀行の金利リスクへの規制強化 金融庁は地方銀行にも金利上昇の備えを要求」