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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

証拠金規制とは何か

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本ページでは、証拠金規制とは何かについてまとめたい。一言でいえば、店頭デリバティブ取引において証拠金の授受を求めるものである。

 

以下、証拠金規制そのものについて議論する前に、まずこの規制が導入される背景についてから記述したい。

 

店頭デリバティブ規制の概要

2008年の金融危機において、一部のマーケット参加者の破綻が店頭デリバティブ市場を通じてシステミックリスクの拡大を引き起こしたと指摘されている。これを踏まえ、2009年11月のG20ピッツバーグサミットにおいて、一連の店頭デリバティブ規制について合意がなされた。さらに、2011年11月のG20カンヌサミットでは、清算集中を行わないデリバティブ取引における証拠金規制の導入について合意がなされた。これを受け、2013年にバーゼル銀行監督委員会(BCBS)と証券監督者国際機構(IOSCO)が共同で、証拠金規制の枠組みに関する最終報告書を共同で公表し、この報告書に基づいて各国で証拠金規制の導入が進められてきた。

 

カウンターパーティリスクとは

そもそも店頭デリバティブとは、取引所を介さずに、取引の当事者同士が相対で行うデリバティブ取引である。金利・通貨スワップや、CDSクレジット・デフォルト・スワップ)などが中心で、OTCデリバティブともいう。

 

そして、店頭デリバティブにおけるリスクに「カウンターパティリスク」があり、上述のG20の合意もカウンターパーティリスクを意識したものになっている。

 

店頭デリバティブで取り扱うスワップ取引においては、取引相手が契約通りに支払いを行うことが前提となる(スワップとは“交換”を意味するのだから、当然相手から貰うべきものを貰わなければ、“交換”は成立しない)。しかし、取引相手の財務状況が苦しく、契約通りに支払いができない可能性があり、それによって損を被る恐れがある。これこそがカウンターパーティリスクであり、取引相手の信用リスクということもできる。


店頭デリバティブは、取引所を介さずに当事者間で行われる取引であるため、その実態・全体像が見えにくいことが特徴である。一方で、このカウンターパーティリスクが顕在化し、実際に取引相手からの支払いが受けられなくなった際、例えばこの返済をもって別のデリバティブ取引における支払いに充てようと考えていた金融機関がいるとすると、この支払いも滞ってしまうということになる。

 

このように、一つのカウンターパーティリスクの顕在化が、他の取引参加者(典型的には金融機関)にも連鎖して広がっていくことで、金融システム全体に影響が広がる可能性がある。

 

清算集中義務

上述のカウンターパーティリスクへの対処のため、2009年のピッツバーグサミットでは、「集中清算機関を通じて清算されるべきである」との声明が発表された。日本では、2010年の金融商品取引法改正により、一定の店頭デリバティブ取引について、清算集中を義務付けることとされた(金融商品取引法156条の62)。

 

清算集中とは、取引を当事者間で終始するのではなく、中心に清算機関を置き、直接的なお金のやり取りを取引参加者と清算機関の間で行うことであり、清算機関がカウンターパーティリスクを吸収することが期待される。これによって、たとえある取引参加者が破綻しても、その影響を清算機関が吸収し、他の取引参加者に連鎖しないようにすることができる。

 

証拠金規制の概要

ただ、中央清算されない取引は依然として存在し、こうした取引を行う場合には、取引参加者間で証拠金を授受することを求める証拠金規制の導入が2011年のG20サミットで合意された。

 

日本では、この証拠金規制について、金融商品取引業等に関する内閣府令と、金融庁の監督指針で規定している。

 

具体的には、当初証拠金(IM, Initial Margin)と変動証拠金(VM, Variation Margin)の2種類がある。

 

AとBがデリバティブ取引を行っているとして、現時点でAがプラスのポジション(取引終了時に損をせず収益を得られる)を持っていたとする。このとき、取引が確定する前にBが破綻してしまうと、得られたはずの利益を得られなくなってしまうので、その分の担保をBからあらかじめ受け取っておく。これが変動証拠金である。

 

しかし、Bが破綻した時点から、ポジション処理が完了するまでにはタイムラグがあり、マーケットの変動によりポジションのプラス分が大きくなる可能性がある。このため、この部分の担保としてBから受け取るのが当初証拠金である。当初証拠金の算出にあたっては、数理モデルを用いて推計を行う必要がある。

 

これらの証拠金の導入により、マーケット参加者の破綻の影響が取引相手に連鎖し、金融システム全体に伝播していくのを防ぐことが期待される。

 

 

(参考):

証拠金規制対応支援 | PwC Japanグループ

大和総研(2010) 「店頭デリバティブ取引の清算集中」