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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

価格はどのようにして決定される?ー19世紀の経済論争ー

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価格はどのようにして決定されるのか―あまりに身近なモノの「価格」という存在であるが、その決定メカニズムについては、様々な考え方がある。

 

現在の経済学の基礎は19世紀に形作られるが、このとき価格が何によって決まるかについて二つの見方があり、対立していた。

 

1つは価値の源泉は生産にかかるコストであるとする「費用価値説」であった。リカードは、労働量が生産費を決め、生産費が商品の価値を決めると考えた。彼は、希少性(限界効用)によって価格が決まる材はごく一部で、表面的な現象に過ぎないとした。この「費用(労働)」が価格を決めるという考え方は、マルクスにも採用された。

 

一方でワルラスやジェボンズは、消費者の効用が価値の源だとする「効用価値説」を唱えた。ワルラスは、価値の源泉はその財から効用が発生すること、および数に限りがあること(希少性)とした。ジェボンズは、現実において投下労働量と交換価値がめったに一致しないことを見出し、やはり価値の源は効用にあると考えた。

 

この2つの対立した見方を統合した形で市場価格の決定を説明したのが19世紀末のマーシャルである。つまり価格は、右上がりの供給曲線と、右下がりの需要曲線の交点において決まる。マーシャルによれば、価格が費用(供給)によって決まるのか需要(効用)によって決まるのか問うことは、「紙を切るのはハサミの上の刃か下の刃か」を問うのと同じで、無意味なことだという。

 

マーシャルが上記のような考え方を導き出した背景には、彼の抱いていた問題意識にあった。それは、経済学の性質に関するものである。経済学は個々の経済的事実の観察で得られた知識を基に分析することが必要であるとした。つまり、方法論的にはまず帰納的なアプローチをとるというものだった。マーシャルは実学志向で、分析対象として現実の複雑な経済社会の一部にまず着目し単純な分析を行い、順次それを周辺に拡張していくことによって、理論的帰結を得るという手法をとった。結果として、市場において短期的には需要側の影響が強く、長期的には供給側の影響が強いことを見出した。こうして、現在まで用いられている部分均衡分析の枠組みが完成した。

 

「市場の価格がどのように決定されているのか」という問いに対して、多くの経済学者がその解決に取り組み、最終的に100年ほどの時間を要したのである。