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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

銀行における健全な競争と経営の安定のジレンマ

 

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少子高齢化や人口減少の影響で、特に地方銀行において、経営が厳しくなっている。地方経済の縮小により、融資先が少なくなり、さらに長引く低金利環境により利鞘も縮小している。

 

進む地銀同士の経営統合

収益悪化に苦しむ地方銀行が大きくなると、一つの選択肢として「経営統合」が考えられるだろう。事務コストやシステム費用といった固定費を削減するなど、経営の効率化により収益の確保を期待できる。

 

実際、近年地銀の経営統合が相次いでいる。2010年から2020年の10年間で、持株会社による経営統合や、持株会社の傘下にある地域銀行同士の合併が20例ほど見られる。

 

地銀はその地域の経済の土台となる存在であり、地銀の経営悪化、不安定化は、地域全体に悪影響を与えかねない。その意味で、地銀同士の経営統合による経営の安定化は、地域経済安定のための一つの有力な選択肢と言えるだろう。当局も、この経営統合を後押ししている。

 

「競争政策」との矛盾

しかし、経営統合が進み、例えばある県に地銀が一つしかない、という状況になれば、それは「独占禁止法」が目指す「公正かつ自由な競争」と矛盾するのではないだろうか。

 

基本的な経済学の理論によれば、独占が起きている状態では、完全競争の場合よりも企業側に有利な価格設定が行われ、最適な資源配分が実現されない。

 

県に一つしかない地銀は、競争相手もおらず、いわば「殿様商売」ができる状態となる。その地域の住民にとって、最適な環境であると言えるのだろうか。

 

競争政策を重んじる人にとっては、そもそも政府が地銀の経営安定に口を出すこと自体が、理解できないことかもしれない。市場原理に任せて、経営体力のない地銀は淘汰されれば良い、と考えることもできる。

 

現在の政府の方針

経営の安定か競争政策か、異なる2つの考え方のどちらを取るか、簡単に答えが出るものではない。しかし、現在、政府の方針としては、前者を重視しているといえるだろう。

 

地銀という存在の公益性、地域社会における影響の大きさから、このようなスタンスが取られていると考えることができる。

 

地域銀行経営統合については、統合により生じる余力に応じて、地方におけるサービス維持への取組みを行うことを前提に、シェアが高くなっても特例的に経営統合が認められるよう、10年間の時限措置として 独占禁止法の適用除外を認める特例法が制定されている」、とされている。

 

以下が、独占禁止法の特例法の概要である。

独占禁止法 特例法(2020年11月27日施行)
○ 乗合バス事業者及び地域銀行(「特定地域基盤企業」と総称)の経営力の強化、生産性の向上等を通じて、将来にわたる サービス提供の維持を図ることにより、地域経済の活性化及び地域住民の生活の向上を図り、もって一般消費者の利益を 確保するとともに、国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
○ 合併等(合併、持株会社の設立、株式取得等)の認可を受けようとする特定地域基盤企業または親会社は、基盤的サービ ス維持計画を主務大臣に提出。
○ 主務大臣は、基盤的サービスに係る競争状況の変化により、利用者に対して不当な基盤的サービスの価格の上昇その他の 不当な不利益を生ずる恐れがあると認めるときは、不当な不利益の防止のための方策を求めることができる。
○ 主務大臣は合併等を認可(公正取引委員会に協議)。
1 合併等に係る特定地域基盤企業が基盤的サービスを提供する地域の全部または相当部分において、特定地域基盤企業 の全部または一部が提供する基盤的サービスに係る収支の悪化(需要の持続的な減少によるものに限る。)により、 特定地域基盤企業の全部または一部が基盤的サービスを将来にわたって持続的に提供することが困難となるおそれが あること。
2 合併等により、基盤的サービスに係る事業の改善が見込まれるとともに、その改善に応じ、基盤的サービスの提供の 維持が図られること。
3 合併等により、利用者に対して不当な基盤的サービスの価格の上昇その他の不当な不利益を生ずるおそれがあると認 められないこと。
○ 10年の時限措置とする

金融庁資料より

 

競争政策と経営安定のバランスがどの様にとられていくのか、今後も地銀の動向に注目したい。

 

(参考)

金融庁(2020)「事務局説明資料