ある財の価格が変化すると、その財への需要は変化する。予算制約が変化し、効用を最大化するための条件が変わることに伴い、最適な財の消費量が変化するためだ。この変化について、代替効果と所得効果に分解することができる。
2つの財を消費する個人の消費行動について、以下の3つの状態を設定する。
状態1. 価格が変化する前の、個人の(最適化された)効用水準、各財の消費量
状態2. 財1の価格が変化した後の個人の(最適化された)効用水準、各財の消費量
状態3.財1の価格が変化した後、状態1の効用を維持するような各財の消費量
実際に価格が変化した際に起こるのは状態1→状態2の動きであるが、代替効果と所得効果について考えるために仮想的に状態3を設定する。
状態3は、価格が変化した後であっても、価格変化前の効用水準を維持するようにした時の消費量の組み合わせである。
代替効果
代替効果は、状態3の消費量から状態1の消費量の差を取ることで計測できる。価格が変化すれば予算制約も変化するが、いったんその予算制約を取り払って、価格変化前と効用が同じになるように財の組み合わせを選び直すとどうなるか、ということを考えたのが代替効果である。
代替効果は正の値を取ることはない(価格が上昇したときに需要量が増えることはない)。限界代替率逓減の法則を仮定すると、財1と財2の無差別曲線を考えたとき、財1の消費量が少ない所では無差別曲線の接線の傾き(すなわち限界代替率)は大きいが、消費量が増えていくとこの傾きは小さくなっていく。すなわち、無差別曲線は原点に向かって凸の形になる。この形状によって、価格が上昇したときに需要量が増えることはないことが分かる。
所得効果
所得効果については、状態2の消費量から状態3の消費量の差を取ることで計測できる。現実には価格変化によって予算制約が変わるので、状態3(代替効果だけを見た状態)から予算が減少(あるいは増加)したことによる消費量の変化を捉えたのが所得効果である。
正常材と下級材
所得が増えると消費量が増える財を正常材、所得が増えると消費量が減る財を下級材という。
ある財の価格が上昇した時、その財がそれぞれ正常材、下級材だったケースにおける代替効果と所得効果は以下のように整理される。
正常材
代替効果: 0または負
所得効果: 負
下級材
代替効果:0または負
所得効果:正
正であれば需要量を上げる効果であり、負であれば需要量を下げる効果となる。
価格が変化した時の財の需要の変化は、代替効果と所得効果の組み合わせによって決まる。正常材においては、価格が上昇した時、需要量は減少する。
下級材においては、代替効果と所得効果の組み合わせによって需要量の変化は決まってくるが、基本的には代替効果の方が大きく、下級材においても価格が上昇すれば需要量は減少する。
理論的には、代替効果よりも所得効果の方が大きく、すなわち価格が上昇すると需要が増える財も存在しうるが、現実のケースではほとんど見られない。「価格が上昇すると需要は減る」という需要法則に反するこうした財のことをギッフェン財という。