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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

仕組債の手数料は高い?

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本ページでは、仕組債の手数料についてまとめたい。仕組債とは、一言でいえば、債券にスワップやオプションなどのデリバティブの要素を加えたものである。

 

仕組債の代表的な商品である「EB債」について、以下のページで紹介しているので、仕組債のイメージを掴みたい方はこちらを参考にされたい。

EB債とは何か - 金融アトラス

 

仕組債の構造

まず、仕組債にはどのような「仕組み」が組み込まれているかというと、デリバティブの一種であるプットオプションである。

 

プットオプションを含めたオプション取引の概要は以下のページにまとめている。

 

端的に言えば、投資家は仕組債購入時に、額面の支払いに加えて、プットオプションの売却を行なっているということになる。

 

プットオプションとは、「売ることができる権利」であった。そして、

プットオプションの売り手=売ることができる権利の売り手

→買う義務がある(買い手が権利行使した場合)

 

と整理できる。プットオプションの買い手は、市場の株価が安い時に、それよりも高い価格で売って儲けようとしている。その基準となるのが「権利行使価格」となる。権利行使価格よりも市場の株価が下回れば、プットオプションの買い手は権利を行使して権利行使価格で株式を売る。プットオプションの売り手は、それに応じなければならない(買う義務)。仕組債の中でもEB債において、対象株式が一定価格を下回るときに株式の形で償還されるのは、投資家側がプットオプションの売り手であり、株式を買う義務が生じたためである。

 

そして、プットオプション(売る権利)の売り手の損益について考える。

買う義務に基づき、権利行使価格で買って現物価格で売るので、満期において、

「現物価格―権利行使価格+プレミアム価格」が損益になる。

 

権利行使価格<現物価格の場合、買い手は権利を行使しないので、利益の上限はプレミアム価格(プレミアム)になる。逆に、現物価格が下がれば、それだけ損失は拡大し続けることになる。

 

仕組債券は、まさに上記のようなプットオプションの仕組みを組み込んだ債券といえる。

 

仕組債の手数料について

前置きが長くなったが、仕組債の手数料はどのようになっているのだろうか。

 

仕組み債は通常、購入単価のみの支払いでよく、一見すると手数料が無いように感じられる。しかし、"実質的な手数料"が存在することに注意しなければならない。

 

仕組債は、リスクがある代わりに通常の債券よりも高い利回りが期待できる商品だが、この一見高水準の金利の原資は、上記で説明したオプションのプレミアムである。仕組債を組成する金融機関がプットオプションを売り、そこから得たプレミアムを、投資家への金利の支払いに充てる。

 

しかしながら、このプレミアムは仕組債の投資家が受け取る額より高くなっている。その差額(サヤ)は、金融機関の儲けになるのだが、サヤがあまりにも大きく、投資家にとって不利な条件になっているのでは、という声がある。

 

金融市場におけるプレミアムは、リスクに対する対価として受け取るものである。リスクが高ければ、それに見合った高いプレミアムを受け取ることが金融市場における原則である。仕組債においては、リスクは全て投資家が負っている。プットオプションで生じる損失は、投資家に元本棄損という形で転嫁されるからだ。にも関わらず、金融機関が本来投資家が受け取るべきプレミアムの相当部分を中抜きしているのではないか、という懸念がある。

 

さらに、もう一つの観点として、債券の金利は、その発行体の信用リスクに見合った水準となっている。信用力の低い発光体の債券は利率が高く、 「ハイイールド債」と呼ばれる。しかし、仕組債の場合、発行帯である金融機関の信用リスクに見合った金利が設定されていないのではないかということが言われている。つまり、本当は2%分金融機関の信用リスク対する対価として上乗せしなければならないところ、1%分しかない、といった具合である。

 

このように、オプションプレミアム、信用リスク部分でサヤをそれぞれ抜かれると、"実質的な手数料"は相当高くなることとなる。

 

個人投資家にとってはこうした仕組債の実態が分かりにくく、必要以上にコストが高くなっている場合があるので、注意が必要となる。

 

(参考):

仕組み債、実質手数料高く――利回り、リスクに見合わず(増やす&得する)」2022/02/05  日本経済新聞