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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

「疑わしい取引」とは?ーマネロンの防止ー

本ページでは、金融機関が金融庁に届出が必要とされる「疑わしい取引」とは何かについてまとめたい。届出は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法、犯収法)に規定されている。

 

マネーロンダリングの防止

「犯罪収益移転」、つまりマネーロンダリングの防止が犯収法の主要な目的である。

 

マネーロンダリングとは日本語に訳せば「資金洗浄」である。麻薬取引などの非合法の手段で手に入れた「汚れたお金」を、合法的な(ように見える)「綺麗なお金」に変えることを意味する。

 

例えば麻薬取引などで大金を手にしたとき、それが麻薬取引によって手にしたお金だと気付かれないようにする必要がある。これこそがマネーロンダリングの本質であり、「綺麗なお金」に変えるということの意味である。

 

どのようにして、汚れたお金を綺麗に見せることができるのか。まずは、汚れたお金を預金等の金融システムの中に組み込む必要がある。ひとつの方法は、ある店を買収し、そこで得た収益と裏取引によって得たお金を混ぜ、全てのお金がその店の収益であるように見せるという手法である。例えば洗車店を買収し、毎月の利益に少しずつ「汚れたお金」を足し合わせて計上することで、最終的には麻薬により得た全てのお金が、洗車店の収益であるように会計処理を行う、などである。または、カジノで大儲けしたことにすることもある。中には、ディーラーと裏で繋がっている場合もあるようだ。


合法的な手段に偽って汚れたお金を預金等に入れるのに加え、そもそもこの資金がどこから来たのか分かりづらくするために、海外の銀行口座等に送金を繰り返し、資金の出所を特定しづらくする。

 

犯罪収益移転防止法の内容

こうしたマネーロンダリングを防ぐために、犯罪収益移転防止法では金融機関等に対して規制を課している。

 

具体的には、取引の際の本人確認である。資金の出所を明らかにし、取引を行った者を特定できるのに加え、他人名義や、架空名義での取引によるマネーロンダリングを防ぐことができる。同時に、取引の記録・保存も求められる。

 

さらに、マネロンと疑われる取引が見つかった場合、国(金融庁をはじめとする行政庁)への届出を行う必要がある。これがページ冒頭に述べた「疑わしい取引」の届出ということになる。

 

「疑わしい取引」の事例

では、具体的には何が疑わしい取引に該当するのだろうか。

 

金融庁のHPにて、その具体例が紹介されている。

www.fsa.go.jp

 

マネーロンダリングが強く疑われるような取引、すなわち、一度に多額の入出金があったり、短期間のうちに頻繁に行われる取引などが該当する。

 

「疑わしい取引」として届け出た後は?

「疑わしい取引」として金融庁に届出でられた後は、金融庁国家公安委員会に対して届出情報の通知を行う。そして、国家公安委員会が各捜査機関に対して情報提供を行い、実際に刑事事件として捜査が行われる。

 

給付金の誤給付の事例

2022年4月、山口県自治体で、新型コロナウイルス対策関連の給付金4630万円が、同一人物に誤って給付されたという事件が起こった。このとき給付を受けた人物は、短期間のうちに複数回にわたり、多額のお金を銀行口座から出金し、ネットカジノに使用したとされる。

 

この事例では元のお金は「自治体に振り込まれた公金」なので、もともとマネロンで想定されるような犯罪資金とはやや性格の異なるものであるが、それでもこの4000万以上の大金が誤給付であることを知りながらネットカジノに資金を移動したということもあり、自治体の弁護士が銀行に対して「疑わしい取引」として金融庁に届け出るよう要請したと伝えられている。

 

カジノにお金を移した後、別の場所に資金を移動させた可能性もあり、そうであればまさしくこれはマネーロンダリングの手口である。