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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

トータル・リターン・スワップ(TRS)とは何か

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本ページでは、トータル・リターン・スワップとは何かについてまとめたい。

 

一言でいえば、原資産による損益と、金利を交換する契約のことである(スワップとは「交換」を意味する)。以下の例に基づいて取引の概要と、この取引を行う目的について説明する。

 

A社が、ある資産(株や債券など)を保有していたとする。A社がB社とトータル・リターン・スワップ契約を結ぶとき、B社はA社から、A社が保有する資産から生じる、配当、利払い、資産価値の増減等のあらゆる損益(トータルリターン)を受け取る。一方、B社はA社に対し、定期的に金利支払いを行う(手数料のようなイメージ)。金利の水準は、ベンチマーク(従来はLIBORが一般的)となる金利+α、と言う形で、契約毎に定められる。

 

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TRS概念図(リターンがプラスの時)

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TRS概念図(リターンがマイナスの時)

資産によるリターンがプラスの際には、B社はA社からそのリターンを享受できる訳だが、反対に、リターンがマイナス(損が出た)のときには、B社はA社に対して損失分を支払わなければならない

 

A社は損失をB社から補償してもらっている、という意味で、A社はプロテクションの買い手、B社はプロテクションの売り手、とも呼ばれる。

 

トータル・リターン・スワップの目的

スワップ取引は、取引する双方の思惑が合致した際に初めて成立する。トータル・リターン・スワップ契約が成立するとき、双方にどのような目的があるのだろうか。

 

①プロテクションの買い手(A社)

プロテクションの買い手である企業Aにとっては、資産価値の下落などによって損失を被ることを防ぎたいという目的がある。保有している資産が社債であれば信用リスク、株であれば市場リスクの回避ということになる。

 

つまるところ、プラスのリターンを全て受け渡すのと引き換えに、金利の受け取りと損失が発生した際の補償を享受できる、ということである。

 

保有資産のリスクを回避したくても資産の売却が難しい場合にリスクヘッジとして利用されたり、金融機関が投資家からの金利収入のために利用することもある。

 

②プロテクションの売り手(B社)

金利手数料と引き換えに、資産を保有することなく、資産から生じた利益を受け取ることができるというメリットがある。もちろん損が出るリスクはあるが、それは実際に資産を持った場合でも同じことである。ポジションを持たずに株式等からのリターンを得たいヘッジファンドなどが利用することもある。