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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

英国トラス首相の辞任に至る経緯について

英国のリズ・ トラス首相が10月20日に辞任を表明した。 英国のタブロイド紙「デイリー・スター」は10月14日、「 レタスの賞味期限を10日過ぎてもリズ・ トラスは首相でいられるか」と煽った。首相就任から実に45日で辞任という、 史上最短の在任期間であった。辞任の主な理由は、大規模な減税政策による財政悪化への懸念を反映した市場の大混乱であった。今回の件は、政府が国民に聞こえの良い政策を発表しても、 市場はその効果を注視しており、市場の反応が政府の政策運営に大きな影響を与える可能性があることを示している。

 

9月下旬、トラス政権は財源が明らかでないまま、大規模な減税を含む一連の経済政策を発表した。当初予定していた法人税率の引き上げを凍結し、 所得税率を引き下げるなど、 総額450億ポンドに及ぶ減税が発表された。税収が減少する一方で国債が増加すれば、 財政悪化の懸念は否応なく高まる。そんな折、イングランド銀行は大型減税発表の前日、 9月22日に利上げを発表した。 英国の金利が上昇圧力にさらされているタイミングでのこの発表は 、財政悪化の懸念に拍車をかけた。

 

こうした財政悪化の懸念に対して、市場は敏感に反応した。英国の流通市場では長期国債が大量に売られ、債券価格が下落し、 流通利回りが急騰した。この月の英国10年国債利回りは1.31% ポイントも急上昇した。また、英国経済への不安から、 多くの投資家がポンドを売り払った。ポンドは9月に対ドルで37年ぶりの安値を記録した。

 

この混乱により、 BOEはさらなる追加利上げや国債の売却などの金融引き締め策を取りづらくなった。9月28日、 BOEは英国国債を無制限に購入する方針を発表し、 10月上旬に予定していた国債の販売開始を月末に延期することも決定した。

 

英国の年金基金の多くは、英国債を担保にした金利スワップ取引を行なっていた。英国債の暴落により、年金基金の多くは追加的な担保の差し出しを余儀なくされた。この支払いのために、多くの保有資産の売却に追い込まれた。

 

政府が市場への干渉を強めるべきかどうかは、 長い間議論されてきた問題である。しかし、いずれの場合も、 政府の経済政策が市場をコントロールできることを前提とした議論になっているように思われる。英国のケースは、市場参加者の行動が政府の政策を逆転させた好例であるが、 そのために多大な経済的コストがかかることを示したものということができる。

 

(参考):

英トラス首相辞任の背景「年金基金で損失25兆円」が他人事ではない理由 | 今週のキーワード 真壁昭夫 | ダイヤモンド・オンライン

英年金基金の損失、最大25兆円に 米証券が試算: 日本経済新聞

Tax cuts are right plan for economy, says Liz Truss - BBC News

UK government: no spending cuts, no reverse on tax cuts | Reuters

UK 10-year bonds see record monthly fall after fiscal upset | Reuters

Bank of England buys 1.195 billion pounds of bonds | Reuters

https://www.cnbc.com/2022/09/28/bank-of-england-delays-bond-sales-launches-temporary-purchase-program.html