本ページでは、VaR(Value at Risk、バリューアットリスク)とは何かについてまとめたい。VaRは、金融機関のリスク管理において、リスク量を計測する手法である。
VaRの基本的考え方
金融機関は、貸出や株式投資など、資産を様々な形式で運用することにより収益をあげているが、市場の動向や取引相手の財務状況等により、損失を被るリスクを抱えている。金融機関にとって、将来起こり得る損失のリスクを定量的に推計することは、リスク管理を行う上で極めて重要である。
VaRとは、一言でいえば「起こり得る最大損失額」ということができる。リーマンショックなど、日常的には起こらないもののいざ起こった時に大きな損失が発生するようなイベントに備え、将来こうした低確率ではあっても発生すれば大きな損失をあらかじめ推定し、それを「リスク」として捉える、というのがVaRの基本的な考え方である。
そして、VaRの定義をより正確に言えば、「(過去のデータをもとに、ある一定の確率の範囲内で、将来のある一定期間のうちに)起こり得る最大損失額(の推計値)」ということができる。
ここで重要なのは、
①過去の統計データを元にしていること
②一定の確率の範囲内での値であること
③将来の一定期間(保有期間)に限定していること
④統計的手法を用いた推定値であること
である。
確率分布と信頼区間
それでは、将来に起こり得る損失をどのように推定するのか。これを理解するために、まず確率分布と信頼区間の概念について概説したい。(以下の記述は市場VaRを一例としている。)
まず、ある定まった確率に従って値が変動する数を「確率変数」という。例えばサイコロの目(1〜6)の値は1/6という確率に従って変動する。同様に、株価や金利、為替といったいわゆる「リスクファクター」の変化率も確率変数として捉えられる。
それでは、リスクファクターの変化率は、どのような確率に従って変動するのか。その変動のし方は、「正規分布」にしたがうと仮定されることが多い。正規分布は、左右対称で釣鐘型の確率分布であり、平均(μ)を中心に左右に分布する。また、標準偏差(σ)の大きさによって裾野の大きさが定まる。
そして、ある確率変数X(例えば株価の変化率)が平均0、標準偏差σの正規分布に従うとき、Xの値の範囲と確率との間に以下のような関係があることが知られている。
X ≦ σとなる確率: 84.1%
X ≦ 2σとなる確率: 97.7%
X ≦ 2.33σとなる確率: 99.0%
X ≦ 3σとなる確率: 99.9%
つまり、変化率Xは99.0%の確率で±2.33σの範囲に収まるということであり、-2.33σが最も大きな損失である確率は99%ということである。さらに言い換えれば、確率99%の範囲で考えられる最大損失率は-2.33σである。
このように、確率分布を設定して、その中である信頼区間の範囲の最大損失を求める、ということが、VaRの最も重要なポイントであると言える。
VaRの求め方
VaRは、将来起こり得る最大損失額の推計値のことであった。よって、信頼区間99%の下でのVaRは、資産保有額に-2.33σをかければ求めることができる。
ここで、今一度VaRの算出において重要な点を並べると、
①過去の統計データを元にしていること
②一定の確率の範囲内での値であること
③将来の一定期間(保有期間)に限定していること
④統計的手法を用いた推定値であること
であった。
このうち、②については、「信頼区間99%」の部分のことであり、④については確率分布を用いて推計していることを指していると分かるだろう。①③に関しては、具体的に過去のデータから特定期間のσを算出し、それを将来の特定期間のσに当てはめて考えているということである。
具体例として、1億ドルを1ドル=100円で購入する場合を考える。 1億ドルを円に換算すると100億円になる。
過去のデータから推計した、保有期間1年とした時のドル円の為替レートのσが10%だったとする。このとき、「保有期間1年、信頼区間99%のVaR値」は、100億円 × 10% × 2.33 = 23.3億円、と求めることができる。
実際の算出過程はより複雑であり、詳しくは以下を参照されたい。
(参考):
日本銀行金融機構局金融高度化センター(2015)「VaRの計測と検証」
日本銀行金融機構局金融高度化センター(2011)
「【補足資料】 確率・統計の基礎知識」