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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

ベクトル自己回帰(VAR)モデルとは何か

 

本ページでは、ベクトル自己回帰(VAR)モデルとは何かについてまとめたい。

時系列データ分析における基本的な考え方である定常性や自己相関、ARモデル等については、以下の2つのページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

hongoh.hatenablog.com

VARモデル

ベクトル自己回帰モデル(VAR, Vector autoregression)とは、ARモデルを複数の変数に拡張したものである。

例えば、2つの変数(y,x)から成るVAR(1)モデルは以下のように表現できる。

行列を用いて表現すると以下のようになる。

2行目はx,yからなるベクトルをZを用いて書き直した式となる。3行目は自己共分散行列である。

推定にあたってはこれら2つの方程式をOLSによって推定することとなる。

 

ラグ次数の選択においては、情報量基準が用いられることが多い。

 

グレンジャー因果性

時系列データyの将来値を予測することを考える。このとき、現在までのyの値のみからyの将来値を予測するよりも、別の時系列データであるxも加え、xとyに基づいて予測した方が精度が高くなるとき、xからyへのグレンジャー因果性があると言われる。

 

以下のVAR(2)モデルを例にとって考えてみる。

xからyへのグレンジャー因果性が存在しないとき、β11=β12=0となるはずである。よって、グレンジャー因果性が存在するかどうかを検定する際、帰無仮説をβ11=β12=0として、F検定を行えばよい。

F検定の基本的な考え方については以下を参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

ただし、通常のF検定とは異なり、VARにおけるグレンジャー因果性の検定の場合にはF統計量にq(帰無仮説における制約数、上記の例では2)を乗じた数が漸近的に自由度qのχ2乗分布に従うことを利用する(沖本2010)。

 

単位根、共和分とVARモデル

VARモデルは、単位根過程に従う系列同士を回帰したときに、全く両者に関係がなくても有意な関係が存在するように見えるという"見せかけの回帰"を対処する有効な手段である。もっとも、単位根過程に従う系列に関してVARモデルを用いる場合、グレンジャー因果性の検定等を行えないなどの制約はある。実際に単位根過程についてVARを用いる場合には、差分系列にVARを適用する場合が多い。

 

一方で、推定を行う系列同士が共和分の関係にある場合、差分系列にVARモデルを当てはめることができないことが知られている。この場合、代わりにVECMという別のモデルを使うことになる。

 

 

単位根、共和分に関する説明については以下の2つのページを参考にされたい。

hongoh.hatenablog.com

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(参考):

沖本竜義(2010)「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」朝倉書店