本ページでは、誤方向リスク(Wrong Way Risk)とは何かについてまとめたい。誤方向リスクとは、一言でいえば、デリバティブ取引において、エクスポージャーの増大に伴って取引相手の信用力が悪化し(デフォルト確率の増大)、想定される損失が大きくなることである。言い換えれば、エクスポージャーとカウンターパーティの信用力との間に負の相関関係があるときに、誤方向リスクは発生する。
デリバティブにおけるエクスポージャー
まず、デリバティブ取引における「エクスポージャー」とは何か。
デリバティブにおける時価は、将来に発生するキャッシュフローを無リスク金利で現在価値に割り引いたものである。この将来キャッシュフローは価格の変動のリスクに「さらされている 」ため、「エクスポージャー」と呼ばれる。
株などの他の資産は保有額そのものが価格変動のリスクにさらされているためエクスポージャーと呼ばれるが、デリバティブは差金決済による取引であり、将来キャッシュフローがエクスポージャーとなる。
カウンターパーティリスクとは
デリバティブにおいては、取引相手(カウンターパーティ)が将来時点で取引を履行してくれるという「信用」に基づいている。 カウンターパーティリスクとは、カウンターパーティとの間のデリ バティブ取引等によるキャッシュフローが正である場合、このカウンターパーティが破綻したときに、正の価値の金額を取り損なってしまうリスク(信用リスク)である。
カウンターパーティリスクの概要については以下でもまとめているので、あわせて参照されたい。
エクスポージャーとカウンターパーティの信用力の間に負の相関がある場合(誤方向リスクの具体例)
前置きが長くなったが、誤方向リスクとは、デリバティブ取引において、エクスポージャーの増大に伴ってカウンターパーティの信用力が悪化し、想定される損失が大きくなることであった。それでは、どういった取引の際に負の相関は発生するのだろうか。
スワップ取引において、金融機関が固定額のキャッシュフローを受け取り、原油価格に連動した支払いを原油生産者に対して行う場合。原油価格が下がるとき、金融機関は支払い額が小さくなるので取引によるエクスポージャーは大きくなる一方、カウンターパーティである原油業者の業績は悪化する。よって、エクスポージャーとカウンターパーティの信用力との間に負の相関が見られる例ということができる。
誤方向リスクは、①エクスポージャーの増大と②デフォルト確率の上昇、が同時に起こるリスクであるが、これはデリバティブ取引におけるCVAを増加させることになる。CVAについては、以下のページを参照されたい。
(参考):富安弘毅(2014)『カウンターパーティリスクマネジメント』