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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

雇用統計における季節調整とは?

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本ページでは、雇用統計等の経済統計に用いられる季節調整の考え方についてまとめたい。

 

経済や景気の動向を分析するために、雇用者数や消費額、売上高といった経済データは非常に有用である。例えば米国の雇用統計などは、その発表と共にマーケットの相場が大きく動くほど影響力が大きく、景気の動向を占う指標として認識されている。

 

ただし、月次でデータの推移を見たり異なる月で比較したりする際に、留意しなければならないことがある。それが「季節性」である。

 

経済データにおける「季節性」

例えば消費について見れば、一般にボーナスが支給される時期(7月、12月)に増える傾向がある。この傾向について考慮せず、7月と8月のデータを比較して「8月の消費が減った!景気が悪くなっている!」と結論付けるのは、実態と乖離した分析であるといえるだろう。

 

あくまで見たいのは「経済動向の移り変わり」である。そこで、上記のような、特定の月に数値が高くなる(あるいは低くなる)といった季節性を取り除いてあげる必要がある。これが「季節調整」である。

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季節性の例(赤丸部分(11月)に数値が高くなっている)

 季節調整にあたっては、元のデータが①季節によって変動する部分②景気動向によって変動する部分③不規則に変動する部分、の3つから構成されると考える。

 

①は上記の例のように特定の季節・月によって変動する部分、②は経済成長などに伴う趨勢的な変動、③は突発的な要因や極めて短期的な要因等による不規則な変動、ということになる。「季節調整」とは、元のデータから①を取り除く作業のことを指す。

 

移動平均

季節調整に当たっては、典型的には「移動平均」という方法を用いる。移動平均とは、文字通りある一定区間の平均値を、区間をずらしながら求めていくというものである。例えば、2020年1月~2020年12月の平均、2021年2月~2021年1月の平均、…というように、1年間の平均値を1か月ずつずらしながら求めていく。(※注)

 

この移動平均によって、特定の月に起こる変動分や、不規則に動く部分を均すことができ、結果的に②の景気動向によって変動する部分のみを抽出できると考えられる。つまり、原データから移動平均を差し引けば、①と③のみが残ると見なすことができる。

 

次に、③を取り除くため、同一月の①+③のデータを年ごとに並べ、数年分を移動平均することで③を均し、①が残る。①を元データから取り除けば、季節調整後の値を得ることができる。

 

官公庁等による実際の統計では、X-12-ARIMAといった高度な季節調整法が用いられているが、以上が基本的な考え方となる。

 

移動平均法の留意点

移動平均による季節調整には留意点がある。典型的なものは「異常値」の存在である。ある月に異常値に高い値あるいは低い値が存在すると、季節調整値が過大または過小に推計されてしまう恐れがある。

 

例えば一時的な経済的なショック(災害や金融危機など)により、ある月に消費量が急落したとする。移動平均をとる区間にその月が含まれると、平均値は当然下がる。この下がった値を原データから差し引いたものを季節変動分と不規則要因(①+③)とみなす訳だから、一時的なショックにより季節調整値が大きく推計されてしまうことになる。2008 年のリーマンショックや 2011 年の東日本大震災の際に、激しい変動を確認することができる。

 

2021年の米国の雇用統計では、新型コロナウイルス感染拡大による経済の落ち込みからの回復局面にあると考えられた4月の雇用者数(季節調整後)が、市場の予想よりも大きく下回る26万人であった。一方、季節調整前の原データでは、100万人を超えていたという報道もあった。新型コロナウイルス感染拡大の際には、雇用者数が極端に落ち込んだ月もあり、こうした「異常値」によって、移動平均を取るプロセスで季節調整値が過大に推計された可能性もある。

 

季節調整に関するより厳密かつ詳細な方法については、例えば以下のページを参照されたい。

 

参考:

日本銀行「季節調整法について」

https://www3.boj.or.jp/josa/past_release/chosa199605e.pdf

 

総務省統計局「労働力調査における季節調整法のRegARIMAモデルの適用」

https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/2-2-712.html

 

(※注)基準となる時点より後方の区間で平均する方法を後方移動平均、基準となる時点の前後の区間で平均する方法を中央移動平均という。例えば、20年1月について、前者では19年2月~20年1月の平均を取る。一方後者では19年7月~20年6月の平均をとる、といったイメージである。