伊藤の公式を用いて資産価格が対数正規分布に従うことを示す
本ページでは、伊藤の公式を用いて資産価格の水準が対数正規分布に従うことを示す。
ブラウン運動の定義
まず、伊藤の公式を用いる前に、ブラウン運動について定義する。
W=W(t)がブラウン運動であるとは、以下の2つを満たすことである。
(1)W_0=0であり、
・任意の0<t1<t2<...<tnに対して W_t1、W_t2-W_t1、...、W_tn - W_tn-1
は独立
・任意のs,t>0に対して
W_t+s - W_tの分布はtに依存しない
(2)任意のt>0に対して、W(t)は平均0、分散σ^2tの正規分布に従う。
特に、σ^2=1の場合を標準ブラウン運動という。
伊藤の公式
まず、X_tが以下の確率微分方程式を満たすとする。W_tは標準ブラウン運動である。
そして、f(t, X_t)がtとX_tに依存する滑らかな関数であるとき、この関数fの微分は、
で表すことができる(*)。
資産価格の変動
資産価格の変動は、以下の確率微分方程式で表現できるとする。
Vは資産価格、μは期待収益率、σはボラティリティである。そして、Vの自然対数をとった値をXとし(X_t=ln(V_t))、dX_tを求めることを考える。
であるため、(*)式より、
となる。ここで、
(dt)^2とdtdW_tは0、(dW_t)^2=dtと等価であるとみなすことができるので、
となる。つまり、
が成り立つ。
確率微分方程式の解
さて、もともとの確率微分方程式(1)の解を考える。まず、(2)を解くと、
となる。ただし、V0は初期値である。
よって、
を得る。(3)式から、資産価格は、その対数値が正規分布に従う確率過程であることが分かるため、資産価格は対数正規分布に従う。
(出典):
石村直之(2014)「確率微分方程式入門 ―数理ファイナンスへの応用― (数学のかんどころ 26)」共立出版
(参考):