<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

レバレッジとは?てこの原理の様なものとは言うけれど…

f:id:hongoh:20210330124344j:image

本ページでは、「レバレッジ」の考え方についてまとめたい。レバレッジについて解説している文章ではしばしば、「レバレッジとは『てこの原理』のようなもので…」という説明がなされるが、あまりピンと来ない人も多いのではないだろうか。

 

レバレッジは、一言で言えば「少ない自己資金でその何倍もの金額を取引するしくみ」と言うことができる。具体的には、例えば100万円持っていたとしたら、200万円を証券会社から借りてきて、300万円の株を買う、といったイメージである。

 

なぜそんなことをする必要があるのか。その根底にある考え方は、「元手が多い方が、変化の幅も大きくなる」というものだ。

 

具体例を用いて考えてみる。A株がある期間中に10%上昇したとする。100万円をA株に投資していた場合、10%株価が上昇すると110万円になるので、上昇幅は10万円だが、300万円投資していた場合は330万円となり、上昇幅は30万円である。

100万から10%上昇→110万 増加額:10万

300万から10%上昇→330万 増加額:30万

 

このように、同じ上昇率でも元手が多い方が上昇額は大きい。至極当然のことである。

 

よって、上記の例に基づいて考えると、100万円持っていたとしたら、200万円を証券会社から借りてきて、300万円をA株に投資し、330万円になったところで売却した後、借りていた200万円を証券会社に返せば、手元には元々持っていた自己資金の100万円と、利益の30万円が残る。A株自体は10%の上昇であるが、結果的に30%の利益を上げられたことになる。

(実際は証券会社にお金を返す際には利子が発生し、これが証券会社の信用取引サービスにおける収益源となっているが、ここでは簡略化のため割愛している)

 

一方で、損した時のダメージも大きい。300万円で投資したA株の株価が10%下落すると、270万円となる。借りた200万円は返さなければならないので、手元に残るのは70万円。元々持っていたのは100万円なので、30%の損を被ったことになる。

 

このように、証券会社から借入を行なって、より大きな元手で行う取引を信用取引という。また、取引の際に用いる自己資金(上の例では100万円)を、保証金という。保証金は、現金または上場株でも受け入れられる。

 

レバレッジをかけられる比率は決まっており、保証金の額に対して、3.3倍までの金額を取引することができる。実際は証券会社を通じて取引をするので、投資家は保証金を証券会社に差し出すという形となる。

 

以上のように、レバレッジによる取引は、自分の持っているお金に加えて借りたお金を加えることで元手を大きくし、利益を大きくしようとするものである。しかし同時に、損をした時の金額も大きくなってしまうので、まさにハイリスク・ハイリターンの取引と言える。

 

トレーディングにおける「ポジション」「アンワインド」とは何か

f:id:hongoh:20210329232056j:image

本ページでは、株式やデリバティブ商品等のトレーディングにおいてよく使われる「ポジション」や、「アンワインド」といった用語の意味について、できる限り日常用語を使ってまとめてみたい。

 

ポジションとは

ポジションとは、簡単に言えば、ある金融商品を「買っている」・「売っている」・「何もしていない」のどの状態なのかを示したものである。この3つの状態について、「ロングポジション」、「ショートポジション」、「スクエア」とそれぞれ名前がついている。

 

○ロングポジション

「A株がロングポジションである」とは、A株を買っている状態(=保有している状態)を意味する。利益あるいは損失を確定するためには、いずれかの段階でA株を売却する必要がある。しかしながら、「A株がロングポジションである」間は、それを保有している状態である訳だから、まだ売却は行っていない、ということになる。

 

○ショートポジション

「A株がショートポジションである」とは、A株を売っている状態であることを意味する。「売っている状態」って何?一度売ったらそれっきりじゃないの??というツッコミが入りそうだが、要はA株を空売りした後の状態(つまり誰かから株を借りてきてそれを市場に売却した後の状態)ということである。

 

借りてきた以上は返さないといけないし、そもそも利益・損失を確定させるためにも、もう一度市場においてA株を買い戻す必要がある訳だが、「A株がショートポジションである」間は、まだその買い戻しは行われていないということになる。

 

○スクエア

上記2つのいずれでもなく、特にA株について何もしていない状態、ということである。あるいはロングポジションとショートポジションの金額が等しく、プラスマイナス0になっている状態である。

 

アンワインドとは

ポジションという概念において重要なのは、まだ利益・損失確定のための反対売買を行っていないということである。ロングポジションであれば今後保有している株式を売却する必要があるし、ショートポジションであれば今後借りた株を返すために市場で買い戻す必要がある。

 

アンワインドとは、各ポジションにおいて反対売買をする、つまり利益・損失を確定するための決済を行うことを意味する。ポジションを解消する、と言ったりもする。

CDSとは何か

f:id:hongoh:20210316222216j:plain


本ページでは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の概要についてまとめたい。

 

CDSとは

CDSは、簡単に言えば、取引先企業や保有している社債国債の発行者等の破綻や支払い不能といったリスク(信用リスク)に対して、補償(プロテクション)を受けられるという金融商品で、クレジット・デリバティブ商品の一種である。

 

ある当事者(プロテクションの買い手) が別の当事者(プロテクションの売り手)に対してプレミアムと呼ばれる費用を支払う代わりに、対象となる企業や国(参照組織)の、倒産やデフォルト、不払い等のクレジット・イベントが発生した場合に、損失の補償を受けることができると いうものだ。

 

CDSの価格であるプレミアム(スプレッドと呼ばれることもある)が高いほど、一般的に参照組織の信用リスクが高いと考えることができる。

 

以下の図をもとに具体例を示す。

f:id:hongoh:20210328010656p:plain

CDS概念図(平常時)

f:id:hongoh:20210328010823p:plain

CDS概念図(クレジット・イベント発生時)

企業Aが企業Bの社債を1億円持っていたとする。企業Bの経営状況に疑問を持っている企業Aは、万が一の倒産リスクに備え、金融機関CとCDS契約を結び、金融機関Cに対して年率2%のプレミアムを支払う。1億円の社債保有しているので、年間200万円の支払いだ。

 

ここで、企業Bが経営破綻してしまったとする。このとき、企業Aは、金融機関Cから1億円の補償を受ける権利を持つ。

 

ここでは、「参照組織」は企業Bということになるが、民間企業に限らず、国であっても以上の例は成り立つ。企業AがB国の国債保有していて、デフォルト等の懸念がある場合、B国を参照組織として金融機関CとCDS契約を結ぶことができる(これをソブリンCDS)という。

 

CDSの目的

リスクヘッジ

CDSの最も典型的な特徴は、信用リスクをプロテクションの売り手(上の例では金融機関C)に移転することができる点である。現物である債券やローンを移転しないまま、リスクだけをプロテクションの売り手に移転できるのは特筆に値する。

 

○投機

CDSの大きな特徴は、必ずしも参照組織の債券を持っていたり、取引関係を結んでいなくても、プロテクションの買い手となることができる、という点である。上の例で言えば、企業Aは企業Bと何の関係がなくても、金融機関Cから企業BについてのCDS契約を結ぶことができる(!)。よって、様々な企業や国の信用リスクに応じて、CDSを自由に売ったり、買ったりすることで、利益を得ることができる。

 

CDS市場に関する取引参加者などの具体的な状況については、三菱UFJ信託銀行のレポート(以下の参考文献)に詳しい。

 

参考:

全国銀行協会 金融法務研究会「金融取引における信用補完に係る現代的展開 第5章 クレジット・デフォルト・スワップ

三菱UFJ信託銀行(2013)「日本における CDS 市場について」

 

 

ABS、CDO、CLO、MBS…証券化商品の違いについて

f:id:hongoh:20210316221444j:plain

本ページでは、ABSやCDO、CLO、MBSといった金融商品の分類についてまとめたい。これらは、すべて「証券化商品」にカテゴライズされる。「証券化」の基本的な概念については、以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

 

証券化商品は、以下の図のように分類される。

f:id:hongoh:20210319175142p:plain

証券化商品のうち、資産を裏付けに発行された証券をABS(Asset Backed Securities:資産担保証券という。

 

そして、具体的にどの資産を裏付けにしているのか、で分類することができる。住宅といった不動産ローンを裏付けにしているのものをMBS(Mortgage Backed Securities:不動産担保証券という。

 

企業の債務を裏付けにしているのがCDOCollateralized debt obligation債務担保証券)である。その中でも、銀行等による貸出(ローン)を対象にするのがCLO(Collateralized loan obligation:ローン担保証券であり、社債を対象にするのがCBO(Collateralized Bond Obligation:社債担保証券)である。

 

これらは、複数の社債やローンを束ねて一つの商品として証券化する。

 

 

証券化とは何か

f:id:hongoh:20210316221906j:plain

本ページでは、「証券化」の目的や特徴についてまとめたい。細かで専門的な知識というよりも、「証券化」という概念についての分かりやすい説明を試みる。

 

証券化は、一言でいえば「ある資産にたくさんの投資家が小口で投資できる仕組み」ということになる。概念図は以下のとおりである。

f:id:hongoh:20210319172846p:plain

 

投資家からみた「証券化

例えばある投資家がオフィスビルに投資して賃料等の収入を得たいと考えた時、この証券化の仕組みがなければ、投資家はビル一棟を丸々購入しなければならない。財力が十分にあれば可能かもしれないが、多くの投資家にとっては高額で、かつハイリスクである。

 

しかし、ビルの保有者が「ビルの賃料等の収入を得られる権利」を「証券」として発行して、多くの投資家に売却すれば、投資家は少ない金額でビルに投資をすることができる。

 

当然、発生する賃料等の収入は証券を購入した投資家たちの間で山分けということになるので、ビル一棟丸ごと投資する場合に比べて取り分は少なくなる。しかし、投資のハードルはずっと小さくなるし、資産の多くを1つのビルに投じるというリスクを回避することもできる。これが、「証券化」の投資家にとってのメリットとなる。

 

投資家が投資する「資産」にはどのようなものがあるだろうか。上述の例の通り「不動産」がある。また、住宅ローン、銀行の債権なども対象となる。つまり、企業などの事業者が保有する資産で、キャッシュフローが発生するもの証券化の対象となりうる。例えばローンであれば債務者からの返済金がキャッシュフローとなる。

 

会社(資産の保有者)から見た「証券化

では、不動産やローンなどの資産を持っている会社は、なぜこの「証券化」を行いたいと思うのだろうか。一言でいえば、「資金調達」と「リスク移転」である。

 

新たな事業への投資が必要になる場合など、まとまった資金が必要な場合、保有している資産を売却することで資金を確保することができる。上述の通り、その資産を丸ごと購入するのは投資家にとってはハードルの高いことが多いので、証券という形にして小口に分解して多くの投資家に売却すれば、スムーズに資産を資金に変えることが可能である。

 

さらに、事業者自らが、保有している資産を持ち続けることがリスクだと判断した時、これを投資家に売却することで、そのリスクを移転することができる。

 

また、上図の資産のところに「SPCが保有」と書いてあるが、これは通常、資産の保有者(「オリジネーター」という)がこの資産の証券化を専ら目的とする「SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)に資金を売却し、SPCが証券を発行して投資家に配る、という形をとる。

 

様々な「証券化

このように、資産を裏付けとして発行された証券を「ABS(Asset Backed Securities:資産担保証券」という。このABSの中にも様々な分類があるが、これについては以下のページを参照されたい。

 

hongoh.hatenablog.com

 

 

 

 

「ダークプール」「PTS」の違い-証券取引所を通さない取引方法-

f:id:hongoh:20210316220916p:plain

本ページでは、東証をはじめとする証券取引所を通さずに取引できる仕組みである「ダークプール」「PTS」について、それぞれの特徴と両者の違いについてまとめたい。

 

ダークプール

ダークプールとは、取引所を通さず、証券会社内で投資家同士の買い注文と売り注文を突合させ、取引を成立させる仕組み。気配情報(買いたい人、売りたい人がそれぞれいくらで買いたい、売りたいと思っているか)を表示させないという特徴がある。証券会社内でうまくマッチングができなかった場合、取引所にて約定を行う。

 

ダークプールのメリット・デメリット

気配値を開示しないため、大口注文を行ってもマーケットインパク(注文が市場価格に与える影響)を抑えられる。また、取引所を介さないため取引コストを安く抑えることができる。さらに、夜間など取引所が閉まっている時間帯も取引が可能である。

 

一方、投資家に十分な価格情報が提供されないことで、健全な価格形成がなされないのではないかという懸念や、ダークプールが増えることで取引が行われる場が分散すると、銘柄の流動性が低下するおそれ(ダークプール1つあたりの取引量が少なくなるため)、取引参加者間での公平性阻害のおそれ(すべての投資家が同じ取引所において同じ条件で行われているのであれば、フェアであるといえる)、などがある。

 

ダークプールを取り扱う業者

メインの利用者である機関投資家向けには、大手の証券会社がサービスを提供している。

個人投資家向けには、SBI証券カブドットコム証券など、ネット証券中心に取扱いがある。

 

PTS

PTS(Proprietary Trading System、私設取引システム)とは、証券取引所を通さず証券会社の運営するシステムにより取引が行われる、文字通り私設の取引システムである。夜間など取引所が閉まっている時間帯でも取引が可能である。この点では、ダークプールと似た仕組みであるといえる。

 

PTSを取扱う業者

日本においては、BIジャパンネクスト証券の「ジャパンネクストPTS」と、チャイエックス・ジャパンの「チャイエックスPTS」がある。

 

ダークプールとPTSの違い

上記の通り、ダークプールとPTSは基本的に似たものであるが、最大の違いはPTSにおいては気配値が公開されているという点だ。そのため価格の透明性はPTSの方が高い。

 

複数の市場から最良の執行条件を見つけるSOR(Smart-Order Routing)

このように、取引ができる場が東証以外にも多数存在するという状態だと、同じ銘柄を取り扱っていても執行条件が異なる可能性がある。そこで、これら複数の市場の株価や流動性等に関する情報を集約し、最良な市場を選択してくれるシステムがSOR(Smart-Order Routing)である。これも、証券会社が提供している。

 

 

 

地銀の収益構造-融資偏重から有価証券運用へ-

f:id:hongoh:20210316221444j:plain

地銀の収益構造の転換が迫られている。伝統的には地銀の収益源は地域企業への融資が中心であった。しかし、都市部への一極集中や地方における人口減少などの社会構造的な問題による融資先の減少に加え、長らく続く低金利環境による利鞘の縮小で、融資に頼るビジネスモデルに限界が訪れつつある。

 

「預貸率」という指標がある。これは預金額に占める融資額の割合であるが、この値が100%に近いほど、預金を融資に回しているということになる。この預貸率の推移を見てみると、長期的にみると減少傾向にあり、預金が「余っている」状態であるといえる。

 

貸出や預金に関する統計については、全国銀行協会の以下のページにまとめられている。

https://www.zenginkyo.or.jp/stats/month1-01/

 

こうした中、余った預金をそのままにしてもお金は増えないので、株や債券、投資信託などに投資して運用することで、収益を稼ごうという流れに必然的になるだろう。上記のように、融資で収益を稼ぎづらい環境にあるのだから、世界経済の成長の果実を取り込むようにうまく資産に投資ができれば、安定的な収益が期待できる。

 

しかし、ここで問題となってくるのは、地銀には運用人材が豊富でないということだ。上述の通り長い融資業務が圧倒的に中心であったので、それだけ人材も融資部門に重点的に割り振られてきた。

 

このため、地銀内部に自己運用をするノウハウが十分に蓄積されていないという現状があるという。こうした地銀に運用コンサルティングを行う業者も登場してきている。

 

地銀に関しては、複数行の統合による業務効率化が近年注目を集めているが、有価証券運用のノウハウ蓄積も、地銀にとって重要な観点だといえるだろう。