<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

バーゼルⅢ 信用リスクの標準的手法におけるデューデリジェンスについて



本ページでは、バーゼルⅢにおける信用リスクの標準的手法における外部格付の有無に応じた対応と、標準的手法で求められるデューデリジェンスについてまとめたい。

 

バーゼル規制において、リスク資産に対して一定の自己資本を求めている(自己資本比率規制)。リスク資産額の算定には、信用リスクアセット、マーケットリスク相当額、オペレーショナルリスク相当額の3つがある。

 

このうち、信用リスクについて、標準的手法と、各金融機関の内部モデルを利用した内部格付手法の2通りが存在する。

 

信用リスク算出にあたり標準的手法を採用する際、対象となる与信先が有格付(外部格付が付与されているか否か)かどうかに応じて対応が変わる。有格付の場合は、外部格付けに応じてリスクウェイトが定められる。リスクウェイトが高ければ、より多くの額を「リスクアセット」として算入しなければならず、よって必要な自己資本の額も大きくなる。格付が高い場合(AAAなど)、例えば事業法人向け債権の場合では、最小でリスクウェイトが20%となる(よって与信額の20%の額のみをリスクアセットとして算入すれば良い)。格付けが低い場合(BB -未満)、150%のリスクウェイトが求められる。

 

一方、外部格付が付されていない与信先の場合、例えば事業法人向けの債権については、一律でリスクウェイト100%となる。

 

そして、バーゼルⅢにおいては、外部格付を利用する場合、その格付けによるリスクウェイトの決定が適切かどうかを検証するために、内部分析または第三者機関の分析を通じたデューデリジェンス分析を行う必要がある。デューデリジェンスの結果、外部格付が示唆するリスクよりも実際のリスクが大きいと判断された場合(つまり外部格付が"甘い"と判断された場合)は、リスクウェイトを少なくとも1段階高くしなければならない

 

(参考):

吉井一洋、金本悠希、小林章子、藤野大輝(2019)『詳説 バーゼル規制の実務 バーゼルⅢ最終化で変わる金融規制』

証券会社のビジネスモデルとは?

本ページでは、証券会社のビジネスモデルについてまとめたい。

 

証券会社のビジネスモデルは、教科書には以下の4つに大別される。

 

①有価証券の発行の引き受け・売り出し(アンダーライティング業務)

企業や国などが新たに発行する有価証券を証券会社が買い取り、これらの販売を行う業務。もし売れ残った場合、証券会社が責任を持って引き取る必要がある。

 

②有価証券の募集・売り出し(セリング業務)

新たに発行する有価証券あるいは既に発行された有価証券を預かり、投資家に販売する業務。アンダーライティング業務に似ているが、こちらは売れ残った場合でも証券会社が引き取る必要はない。

 

③仲介業務(ブローカー業務)

投資家からの注文を受け付け、有価証券の売買を仲介する業務。顧客資金で取引を行い、仲介手数料により収益をあげる。

 

顧客にレバレッジを提供する信用取引も行われている。

 

④自己勘定取引(ディーリング業務)

自己資金を用いて市場取引を行い、収益をあげる。リーマンショックを受けて制定された米国のボルカールールをはじめ、自己勘定取引は厳しく制限される方向にある。

 

 

証券市場はプライマリーマーケット(発行市場)、セカンダリーマーケット(流通市場)に大別される。大きく分けて、①・②は前者、③・④は後者に関連する。これらの業務を通じて、証券市場における円滑な資金供給に貢献している。

 

その他、M&Aのアドバイザリーを行う業務(いわゆる投資銀行業務の一つ)も、主要な収益源になっている証券会社も存在する。

 

 

(出典):

齋藤祐(2016)「第4版金融業界大研究」産学社

回帰係数の仮説検定(有意性の検定)について平たく説明



本ページでは、有意性を判定するための回帰係数の仮説検定についてまとめたい。

 

回帰分析は、標本(サンプル)を抽出し、母集団分布の性質の一つである回帰パラメーター(変数間の関係)を推測するものであり、統計的推論の一つである。

 

回帰分析により推定した回帰係数が有意であるかについて、仮説検定により検証する。

 

仮説検定の考え方

「AがBである」ことを示したいとする。このとき、「いったん『AがBで"ない"』という仮説を立て、その仮説が正しい確率が十分に低い」ことを示すことで、「AがBである」ことを確かめる、というのが、仮説検定の基本的な流れとなる。

 

仮説検定の考え方については、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

有意性の検定

回帰分析において知りたいのは、説明変数Xが被説明変数Yに影響を与えているのか、という点である。そこで、仮説検定の際には、その反対の仮説(帰無仮説)として「XとYには関係がない」という仮説を立てる。

 

つまり、XとYの母集団においてY=βX+αという関係を想定した時、β=0が帰無仮説となる。

 

今、XとYの標本を抽出し、回帰分析を行った結果、β'=0.3という値が得られた。もし帰無仮説が正しかった場合、β'=0.3という数字はどれだけ珍しい(確率的に低い)ことなのだろうか。もしその確率が十分に低い(例えば5%以下)であるとするならば、β=0という仮説設定に無理があると考えるのが妥当であり、よって帰無仮説は棄却され、Xと Yの間に何らかの関係があるとみなすことができる。

 

β'の有意性の検定にあたっては、t分布に従うt統計量を計算する必要がある。具体的には、β'から母集団における真の値βを引き、β'の標準誤差で割ることでt統計量が求められる。βは帰無仮説より0とする。母集団から繰り返し標本を抽出し、β'を計算すると、取り出したサンプルによって様々なβ'が求められる。このβ'の散らばり具合が標準誤差である。

 

このようにして計算したt値から確率(p値)をもとめ、これが有意水準(例えば5%)以下なら、帰無仮説を棄却することができる。

 

(参考):

回帰分析を理解しよう!-回帰分析の由来と概念、そして分析結果の評価について- |ニッセイ基礎研究所

秋山裕(2009)「Rによる計量経済学オーム社

回帰分析における仮定が成立しない場合とその対処法

f:id:hongoh:20220422004412j:image

本ページでは、回帰分析における仮定が成立しない場合と、その対処法についてまとめたい。

 

最小二乗推定量とは

回帰分析は、標本(サンプル)を抽出し、母集団分布の性質の一つである回帰パラメーター(変数間の関係)を推測するものであり、統計的推論の一つである。

 

回帰係数を求める方法に「最小二乗法」がある。最小二乗法は、説明変数と被説明変数の関係を線形の式で表す際、実測値との誤差の二乗和が最小になるようにパラメーターを定める方法である。最小二乗法によって推定された回帰パラメーターを最小二乗推定量と呼ぶ。

 

回帰分析における仮定

回帰分析においては、一般に以下が仮定される。

 

標本抽出についての仮定

①標本は母集団から無作為に抽出されている。

 

被説明変数についての仮定

②被説明変数(y)は、説明変数(x1,x2,…)と誤差項(ε)による線形の式によって表すことができる。

 

説明変数についての仮定

③説明変数xに変動がある。

④説明変数間に完全な共線関係がない(ある説明変数が別の説明変数を完全に決定してしまうことがない)。

 

誤差項についての仮定

⑤誤差項(ε)の期待値は0。誤差項と説明変数xは平均独立(つまりxの値が分かってもεを知ることはできない)。この2つより、E[ε|x]=0。

⑥εの分散はどの標本についても一定(分散均一)。たとえばXの値が大きくなるほどεの値が大きくなる、といったことがない。

⑦εは正規分布に従う。

⑧誤差項どうしに相関がない(系列相関がない)。

 

とくに、①,②,③,④,⑤の仮定は、最小二乗推定量が不偏性を持つために必要な仮定である。①〜⑤に加え、⑥の分散均一の仮定を満たしている時、最小二乗推定量は、不偏性を持ちかつ最も効率的(分散が小さい)な推定量である。これをガウス=マルコフ定理という。このときの最小二乗推定量はBLUE(Best Linear Unbiased Estimator)と呼ばれる。

 

以下、上記の仮定が成り立たない代表的な理由と、その対処法についてまとめたい。

 

サンプルセレクションバイアス

上記の①が満たされていない場合。サンプルの抽出方法に問題があり、何らかのバイアスが発生する可能性がある。無作為に抽出するよう注意する必要がある。

 

モデルの定式化

モデルの定式化が間違っている場合。例えば回帰式に二乗項を含めたり、対数直すなど、モデルの定式化を工夫することが考えられる。

 

欠落変数

上記の⑤が満たされない場合。被説明変数に影響を与える説明変数を正しく抽出できていないケースである。欠落変数によって最小二乗推定量にバイアスが生まれる場合の条件は以下の二つを満たすことである。

(1)省略された変数が被説明変数と相関関係がある

(2)省略された変数が説明変数と相関関係がある

(1)が認められるということは、その欠落変数が誤差項の中に含まれているということである。そして(2)が認められるということは、誤差項と説明変数に相関がある、すなわち⑤が満たされていないということである。

 

対処法としては、まず多めに変数を追加してから、有意でないものを順次外していくことが考えられる。

 

同時方程式バイアス

上記の⑤が満たされていない場合。これは、説明変数が内生的で、説明変数と被説明変数が相互に依存している(=連立方程式の解として同時に決定される)と、回帰式の誤差項と説明変数に相関が生まれてしまい、正しく推定できなくなる。一般に、誤差項と説明変数が相関している状態を内生性があるという。内生性がある状況は、要するに回帰モデルで捉えられない「何か」が、説明変数(や被説明変数)に影響を与えていることを示している。

 

同時方程式バイアスへの対処法に、「2段階最小二乗法」がある。元の回帰式の右辺にあった内生変数を被説明変数とし、外生変数のみを説明変数とするように導いた誘導形を回帰分析し、内生変数に関する推定値を求める。この推定値を、元の回帰式に代入した式についてもう一度回帰分析を行う。

 

(参考)操作変数法

被説明変数Yと説明変数Xに相関がある場合、両者にどちらとも作用するなんらかの要因Uがある場合、見せかけの相関が生じる可能性がある。この時、説明変数が誤差項と相関していることを意味するので、内生性が生じていることになる。

 

そこで、Xには相関するが、Uには無相関かつYと直接的に関係のない変数Zを設定し、Zが変動した際にYも変動するのであれば、それは(Uではなく)Xを通じた効果であり、よってXとYには関係があると見なすことができるのである。この考え方を操作変数法という。操作変数法は、2段階最小二乗法の特殊ケースとして位置付けられる。

 

 

多重共線性

上記の④が満たされない場合。説明変数同士の相関が強いと、回帰係数の推定が不安定になってしまう(t値が小さくなる、決定係数が大きな値となる、回帰係数の符号が本来なるべきものとは逆の符号となるなど)。

 

上記のような症状が出たら、変数間で相関が高そうなものを回帰してみて、相関の高い変数のどちらかを除外することが対処法として考えられる。

 

分散不均一

上記の⑥が満たされない場合。例えば、説明変数の値が大きくなるほど分散が大きくなる傾向があれば、それは均一な分散とは言えない。

均一分散の仮定が満たされていなくても、それだけをもって推定値の不偏性と一致性は崩れない。よって、不均一分散の状態でも、推定値は変化しない。

しかし、標準誤差の値にはバイアスが生じる。仮説検定で用いるt値が推定値/標準誤差で算出されるため、標準誤差にバイアスが生じれば、仮説検定は信頼できなくなる。言い換えれば、本当は有意でないのに有意である(またはその逆)という結果が導かれる可能性がある。

 

分散不均一かどうかを検証する方法に、ブルーシュ=ペーガン検定やホワイト検定がある。基本的な考え方は、誤差項の分散が均一であるということ、つまり分散は説明変数に依存しないことを利用し、誤差項の二乗を説明変数で回帰して、説明変数のどれか一つでも有意に誤差項の二乗に影響を与えているかどうかについてF検定を行う。

 

分散不均一の対処法として、変数の対数化などの定式化の工夫が挙げられる。

 

系列相関

上記の⑧が満たされない場合。隣接する誤差項間に相関関係がある状態であり、典型的には時系列データで、ある期の誤差が前の期の誤差と相関している場合があげられる。分散不均一と同様、系列相関があると標準誤差の値にはバイアスが生じるため、仮説検定は信頼できなくなる。ダービン・ワトソン(DW)統計量を算出し、2に近ければ系列相関なし、0あるいは4に近ければ系列相関ありと考えられる。対処法として、前の期との階差を取るなどが考えられる。

 

(出典):

秋山裕(2009)「Rによる計量経済学オーム社

田中隆一(2015)「計量経済学の第一歩 実証分析のススメ」有斐閣ストゥデイア

 

リバースモーゲージとは何か

f:id:hongoh:20210316221444j:plain



本ページでは、リバースモーゲージとは何かについてまとめたい。

 

リバースモーゲージの概要

リバースモーゲージとは、一言でいえば、住宅を担保に金融機関から生活資金を借り入れることのできる仕組みである。資金を借り入れている間も自宅には住み続けることができるが、借入人が亡くなった際、相続人が担保である住宅を売却することなどにより借入金を返済する、という仕組である。(契約期間中にまとまった資金が手に入れば、住宅を売却することなく繰り上げ返済が可能である)

 

老後資金の足りない高齢者にとっては、自宅という資産の一部を現金化することができれば非常に有益である。リバースモーゲージは、それを自宅直ちに売却することなく可能にする仕組みであり、老後資金の有効活用に資すると考えられている。

 

リバースモーゲージは、金融機関や全国の社会福祉協議会住宅金融支援機構などがサービスを提供している。一般に、50代以上のシニア層を対象としている場合が多い。

 

ローン返済が残っていても良いのか

住宅購入時のローン返済が残っていても、リバースモーゲージを活用することで、返済に充てることも可能である。これは、実質的には「住宅ローンの借り換え」といっても良いだろう。

 

留意点

通常の借入と同様に、返済には元本に加えて金利が上乗せされる。そして、変動金利が設定されるケースが多いので、金利上昇リスクがあることに注意が必要である。

 

また、住宅を担保にしているので、資産価値が低下した場合に担保価値が減少するリスクがある。

 

(参考):

リバースモーゲージとは?仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説|りそなグループ

リバースモーゲージ: 三井住友銀行

 

 

t値とp値の違いとは?

f:id:hongoh:20210316221549j:plain



本ページでは、仮説検定におけるt値とp値の違いについてまとめたい。

 

仮説検定の考え方

「AがBである」ことを示したいとする。このとき、「いったん『AがBで"ない"』という仮説を立て、その仮説が正しい確率が十分に低い」ことを示すことで、「AがBである」ことを確かめる、というのが、仮説検定の基本的な流れとなる。このとき、『AがBで"ない"』という仮説を帰無仮説という。

 

仮説検定については、以下で基本的な考え方をまとめている。以降の記述は、この内容が前提となっている。

hongoh.hatenablog.com

 

t値

t値とは、一言でいえば「t検定における統計量」のことである。

 

仮説検定を行うにあたり、抽出した標本平均をもとにして、確率分布に従う「統計量」を作成する。母集団が平均μ、分散σ^2の正規分布に従っているとき、標本平均Xは、サンプル数をnとすると、平均μ、分散σ^2/nの正規分布に従う。さらに、標本平均Xからμを引き、σ^2/nで割った数字は、平均0,分散1の標準正規分布に従う。

 

ただ、現実の分析においては、母集団の標準偏差σが分かっていることはあまり多くない。標準正規分布を使って分析するには、σが分かっている必要がある。

 

しかし、母分散σ^2を標本分散s^2(標本として抽出した値の分散)に代替することができる。このとき、標準正規分布ではなく、t分布に従うことが知られている(正確には自由度n-1のt分布)。このt分布を用いた検定をt検定と呼び、ここでの統計量をt値という。

 

 

p値

統計量と確率は対応している。t分布における統計量と確率の対応により、帰無仮説を検証することができる。例えば、自由度20のt分布の場合、統計量が2.0860以上、あるいは-2.0860以下であるとき、帰無仮説が成立するのは5%以下の確率であることを意味する。有意水準を5%と設定するとき、統計量が上記の範囲であれば、帰無仮説が成り立つ状況は十分に珍しく、よって帰無仮説を棄却できる、ということになる。

 

そして、有意水準5%(0.05)とするときの0.05をp値と呼ぶ。

 

また、言い換えれば、ある統計量が、有意水準をどこに設定すれば帰無仮説を棄却できるのか、を示した値をp値ということができる。p値が大きいということは、相当有意水準を甘く見積もらないと帰無仮説を棄却できない、ということになる。

 

 

 

バーゼル規制における暗号資産(仮想通貨)の取り扱いについて

本ページでは、バーゼル規制における仮想通貨の取り扱いについてまとめたい。

 

バーゼル委員会は2021年6月、銀行の暗号資産へのエクスポージャーの規制上の取り扱いに関して市中協議を実施した。これは、暗号資産関連のマーケットが継続的な成長し、技術革新もめざましい中で、今後銀行が暗号資産へのエクスポージャーを増やしていく場合、金融システムへの影響が懸念されるためである。 

 

今後、市中協議を重ね、規制が最終化されていくことが見込まれるが、2022年現在でバーゼル規制の枠組みにて具体的に合意された規制内容がある訳ではない。


21年6月に公表された提案内容では、暗号資産を大きく2つのグループに分類している。具体的には、既存のバーゼル規制の枠組みに基づいて規制が適用されるものと、ビットコインのように新たに保守的な規制が適用されるものに分かれている。それぞれの概要は以下の通りである。

 

グループ 1 資産

伝統資産を裏付けとした資産(デジタル社債といったトークン化された証券、ステーブルコイン等)


グループ 2 暗号資産

上記以外の資産(例えばビットコインのように、伝統資産の裏付けのない資産)

 

そして、グループ1資産については、既存の枠組みの中で、裏付けとなる資産の所要水準に準拠する形でリスクアセットを算出する。一方グループ2資産については、リスクウェイト1250%が課される。つまり暗号資産エクスポージャーに1250%をかけた値がリスクアセットとなり、これはすなわち自己資本比率(=自己資本/リスクアセット)が8%の下では、暗号資産のエクスポージャーと同額の自己資本が求められることを意味し、非常に厳しい水準であるといえるだろう。

 

今後、市中協議を経てどのように最終化されるかが注目される。

 

(出典):

Press release: Basel Committee consults on prudential treatment of cryptoasset exposures

バーゼル委、ビットコインに厳しい規制案 | ロイター