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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

バーゼル規制における暗号資産(仮想通貨)の取り扱いについて

本ページでは、バーゼル規制における仮想通貨の取り扱いについてまとめたい。

 

バーゼル委員会は2021年6月、銀行の暗号資産へのエクスポージャーの規制上の取り扱いに関して市中協議を実施した。これは、暗号資産関連のマーケットが継続的な成長し、技術革新もめざましい中で、今後銀行が暗号資産へのエクスポージャーを増やしていく場合、金融システムへの影響が懸念されるためである。 

 

今後、市中協議を重ね、規制が最終化されていくことが見込まれるが、2022年現在でバーゼル規制の枠組みにて具体的に合意された規制内容がある訳ではない。


21年6月に公表された提案内容では、暗号資産を大きく2つのグループに分類している。具体的には、既存のバーゼル規制の枠組みに基づいて規制が適用されるものと、ビットコインのように新たに保守的な規制が適用されるものに分かれている。それぞれの概要は以下の通りである。

 

グループ 1 資産

伝統資産を裏付けとした資産(デジタル社債といったトークン化された証券、ステーブルコイン等)


グループ 2 暗号資産

上記以外の資産(例えばビットコインのように、伝統資産の裏付けのない資産)

 

そして、グループ1資産については、既存の枠組みの中で、裏付けとなる資産の所要水準に準拠する形でリスクアセットを算出する。一方グループ2資産については、リスクウェイト1250%が課される。つまり暗号資産エクスポージャーに1250%をかけた値がリスクアセットとなり、これはすなわち自己資本比率(=自己資本/リスクアセット)が8%の下では、暗号資産のエクスポージャーと同額の自己資本が求められることを意味し、非常に厳しい水準であるといえるだろう。

 

今後、市中協議を経てどのように最終化されるかが注目される。

 

(出典):

Press release: Basel Committee consults on prudential treatment of cryptoasset exposures

バーゼル委、ビットコインに厳しい規制案 | ロイター

弁護士を利用したマネーロンダリングについて

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本ページでは、弁護士を利用したマネーロンダリングの手口についてまとめたい。2021年8月に国際組織「金融活動作業部会」(FATF)が8月に公表した日本のマネーロンダリング対策に対する審査では、弁護士等の金融機関以外の対策が不十分との指摘がなされた。

 

マネロンの基本的な考え方

マネーロンダリングとは日本語に訳せば「資金洗浄」である。麻薬取引などの非合法の手段で手に入れた「汚れたお金」を、合法的な(ように見える)「綺麗なお金」に変えることを意味する。

 

例えば麻薬取引などで大金を手にしたとき、それが麻薬取引によって手にしたお金だと気付かれないようにする必要がある。これこそがマネーロンダリングの本質であり、「綺麗なお金」に変えるということの意味である。

 

ここで、弁護士とのやり取りがマネーロンダリングに利用されることがある。

 

資金の出所を分かりづらくする

マネロンで重要なことは、その資金がどこから来たのかを分かりづらくすることである。そのための一つの手法として、金券や金融商品、あるいは車などの現物といった換金性の高い商品を汚れたお金で一旦購入し、すぐに売却するなどを繰り返す、というものがある。

 

弁護士とのやり取りを利用して資金の出所を分かりづらくする手口も存在する。まず、顧客として弁護士に架空の案件の依頼をし、「汚れたお金」を諸々の費用として弁護士の「預かり金口座」に入金し、預かってもらう。その後、その案件をキャンセルし、預かり金口座に入っているお金を引き出す。こうすることによって、弁護士の預かり金口座を媒介したお金のやりとりが資金の出所を分かりづらくすることができる。

 

弁護士に求められる対応

マネーロンダリングを防止するための規定が定められた犯罪収益移転防止法(犯収法)に基づき、日弁連(日本弁護士連合会)の規定によって、弁護士等による依頼者の本人特定事項の確認、および記録保存等が定められている。

 

これらの確認を依頼者が拒めば、身分を偽って取引を行っている必要があり、マネロンの可能性が強く疑われることになる。

 

(参考):

日本弁護士連合会:依頼者の本人確認-年次報告書の提出を!-

バーゼルⅢにおけるリスクアセット算出方法の全体像

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本ページでは、バーゼルⅢにおけるリスクアセット算出方法の全体像についてまとめたい。具体的な算出方法の詳細は本ページでは立ち入らないので、金融庁の告示文書や各種参考文献等を参照されたい。

 

バーゼル規制においては金融機関の健全性確保のために、リスク性資産に対して一定程度の自己資本の確保を求めている。これが自己資本比率規制である。リスクの種類には大きく分けて信用リスク、マーケットリスク、オペレーショナルリスクがある。

 

そして、基本的に、各種リスクの算出方法は標準的手法と内部モデル手法に分かれる。後者は、銀行独自のモデルにより算出する方法で、使用するには金融庁長官の承認が必要となる。

 

①信用リスク

信用リスクは、与信先のデフォルト等により資金回収ができないリスク、デリバティブ取引における相手方の支払い不能により得られたはずの収益が得られないリスク(カウンターパーティリスク)などである。

 

○与信

標準的手法

信用リスクが存在する取引の額を計算し、各種取引において信用リスクの高さに応じて決定される「リスクウェイト」を乗じたうえで、リスクアセットとして算入する。

 
内部格付手法(IRB)

定められた数式に、各銀行が独自に推計した変数を入力することで信用リスクアセットを算出する。

 

 

デリバティブ取引

SAC-CCR

Standardised Approach for measuring Counterparty Credit Risk Exposures の略語で、日本語では「カウンターパーティ信用リスクの計測に係る標準的手法」となる。

 

期待エクスポージャー方式(IMM)

デリバティブ取引における与信相当額を銀行の内部モデルを使用して算出する方法。

 

 

②マーケットリスク

標準的手法

金利リスク、株式リスク、外国為替リスクといったリスクカテゴリーに分かれており、それぞれのポジション額に一定の数字を乗じた値をリスクアセットとして算入する。

 

内部モデル方式(IMA)

銀行内部のモデルを使用してマーケットリスクを算出する。

 

※「内部モデル」に関しては、それぞれのリスクについて微妙に名前、略称が異なるので注意(IRB、IMM、IMA)。

 

③オペレーショナルリスク

新しい標準的手法

今までオペレーショナルリスクには複数の算出方法が存在したが、バーゼルⅢの適用によりこれらは廃止となり、「新しい標準的手法」が導入された。

 

金利・配当の額、サービス、金融取引、の3つについて、その規模と過去の損失実績を踏まえた乗数(ILM)を掛け合わせることでオペレーショナルリスクを算出する。

 

(参考):

吉井 一洋、 金本 悠希、 小林 章子、 藤野 大輝(2019)『詳説 バーゼル規制の実務―バーゼルIII最終化で変わる金融規制 』

 

 

 

 

マネーミュールとは何か

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本ページでは、マネーミュールとは何かについてまとめたい。

 

「マネーミュール」とは、お金(マネー)と動物のラバ(ミュール)を組み合わせた造語で、不正資金の運び屋を意味する。マネーロンダリングの手法として、たくさんのマネーミュールを利用し、犯罪で得た収益を海外に送金するというものがある。

 

マネーロンダリングの基本的な考え方

そもそも、マネーロンダリングとは日本語に訳せば「資金洗浄」である。麻薬取引などの非合法の手段で手に入れた「汚れたお金」を、合法的な(ように見える)「綺麗なお金」に変えることを意味する。

 

例えば麻薬取引などで大金を手にしたとき、それが麻薬取引によって手にしたお金だと気付かれないようにする必要がある。これこそがマネーロンダリングの本質であり、「綺麗なお金」に変えるということの意味である。


マネロンで重要なことは、その資金がどこから来たのかを分かりづらくすることである。そのための一つの手法として、金券や金融商品、あるいは車などの現物といった換金性の高い商品を汚れたお金で一旦購入し、すぐに売却するなどを繰り返す、というものがある。あるいは、複雑に送金を繰り返すことで、その出所を追跡しづらくするという方法もある。マネーミュールを用いたマネロンはこの手法をとっている。

 

マネーミュールを用いたマネロンの具体的方法

 

「運び屋」であるマネーミュールであるが、怖いのは、罪の意識のない一般の人が、知らず知らずのうちにマネーミュールとしてマネロンに加担してしまう恐れがあるという点である。

 

犯罪組織が不特定多数の人に、求人メール等の形で、「お金を海外に送金するお仕事」としてたメールを送り、その募集に応募してしまうと、本人が気づかないうちに、犯罪によって得た収益を海外へ送金してしまうこととなる。

 

 送金した本人は、犯罪行為に加担したという意識はなく、アルバイトをしただけというつもりだが、結果的には犯罪を手助けしたことと同じである。

 

犯罪組織は、こうした「マネーミュール」を大人数集めて、複雑に送金を繰り返し、資金の出所を隠そうとするのである。

 

 

(参考):

NO.2 KANTO金融サービスinfo 平成26年5月27日:財務省関東財務局

金融機関におけるブッキングについて

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金融機関がトレーディングによってポジションを保有するとき、どの拠点にポジション計上(ブッキング)するか、という問題がある。

 

ブッキングの集約

グローバルな金融機関では、世界中の拠点において取引が行われているが、その取引が会計上どの拠点にブッキングされているかは、各社の戦略によって様々である。  

 

例えば、東京においてトレーダーが実際の取引を行なっていても、ブッキングは海外で行うといったこともあり得る。要するに、各拠点の取引を集約してブッキングする「ブッキングセンター」の存在がある。アジアでは香港やシンガポールがイメージしやすいだろう。

 

ブッキングセンターへの集約のためには、まずは当然直接その拠点にブッキングする方法が挙げられる(リモートブッキング)が、他の方法として「Back-to-Back(バックツーバック)取引」というものがある。これは、マーケティング拠点(実際に取引を行う拠点)がブッキングセンターのトレーダーと反対取引を行うことで、事実上ポジションをブッキングセンターに移行する方法である。

 

ブッキング集約の目的

ブッキング集約の主要な目的は、リスク管理の高度化である。例えばデリバティブ取引であれば、取引によって信用リスク(カウンターパーティリスク)とマーケットリスクが生じるが、これらを世界各地の拠点で個別に把握するのではなく、ブッキングセンターに集約することができれば、リスク管理を行いやすくなる。

 

さらに、人的なリソースが豊富(例えばリスク管理に明るい人材が多いなど)な拠点にリスクを集約させることで、より健全なリスク管理の実現が期待できる。あるいは、金融規制の軽重は国によってことなり、自らのビジネスに有利な規制が敷かれている地域にブッキングを集中させるというインセンティブも考えられる。

 

ブッキングについては、例えば以下のような文献を参考にされたい。

 

(参考):

Deloitte LLP.(2015)「グローバル銀行のブッキングモデル 構造改革を成功させるために」
向井佑樹(2018)「グローバル・トレーディングにおける課税問題―独立企業原則の限界と定式配分方式の検討―」

Back-to-Back Swaps Explained in 3 Minutes | Chatham Financial

レバレッジ比率規制とは何か

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本ページでは、レバレッジ比率規制とは何かについてまとめたい。

 

レバレッジ比率規制の概要

端的に、レバレッジ比率規制は以下の算式で求められる。

 

レバレッジ比率

= Tier 1 /エクスポージャー額≧ 3%

※G-SIBs(国際的な金融システムにおいて重要な金融機関)においては、さらに上乗せして自己資本を積むことが求められるなど、追加的な上乗せも存在する。

Tier 1とは、自己資本の中でも、普通株式内部留保など、事業を継続しながらの損失吸収が可能な資本を指す。

 

分母のエクスポージャー額は、①オンバランス(バランスシート上の総資産)、②デリバティブ取引、③証券金融取引(SFT)、④オフバランスのエクスポージャーの合計として算出する。

 

エクスポージャーとは、価格変動のリスクに「さらされている」資産である。貸出であれば貸出額そのものがエクスポージャーどし、株などの他の資産は保有額そのものが価格変動のリスクにさらされているためエクスポージャーと呼ばれる。デリバティブは差金決済による取引であり、将来キャッシュフロー(勝ちポジション)がエクスポージャーとなる。

 

レバレッジ比率規制において重要なのは、分母のエクスポージャー額においては、自己資本比率規制のようなリスクウェイトによる調整がない点である。

 

自己資本比率規制の概要については、以下を参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

レバレッジ比率規制において、貨幣や国債などの安全資産も、株等の危険資産も等しくエクスポージャーとして加算されるために、こうした安全資産を多く保有する銀行などの金融機関は、語弊を恐れず言えば「不利」となる。よって、レバレッジ比率規制の導入により、安全資産の保有を減らし、相対的に総資産に占める危険資産の割合を高めるインセンティブが生じるとの研究もある。

 

 

レバレッジ比率規制の意味するところ

一般的にレバレッジとは、「少ない自己資金でその何倍もの金額を取引するしくみ」と言うことができる。具体的には、例えば100万円持っていたとしたら、200万円を証券会社から借りてきて、300万円の株を買う、といったイメージである。このとき、取引額は自己資金の3倍、つまりレバレッジは3倍ということになる。

 

レバレッジの基本的な考え方については以下を参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

レバレッジ比率3%以上とは、言い換えればレバレッジ33倍以下、ということである。

自己資本に比して過度な資産保有(つまり借入れや債券などの多くの負債によってレバレッジをかけること)を防ぐために、本規制は導入されている。

 

自己資本比率規制の補完的位置づけ

レバレッジ比率規制は、リスクウェイトによって調整を行う自己資本比率規制を補完するものという位置づけとなっている。

 

2008年の金融危機において、過度にレバレッジを拡大させていた金融機関が急速にレバレッジを解消させるプロセスを進めたため、資産価格の下落を通じて金融システムに損失が拡大し、危機が悪化する要因となった。

 

一方、このような金融機関のリスクベースの自己資本比率は、十分な水準が維持されていた。そのため、2009年4月のG20ロンドン・サミットにおいて、銀行システムにおけるレバレッジの拡大を抑制することに資する、簡素で透明性が高く、リスク・ベースでない指標によって、自己資本比率規制を補完することが合意された。

 

(出典):

金融庁日本銀行(2010)「バーゼル委市中協議文書 レバレッジ比率規制の概要」

寺西勇生(2015)「レバレッジ比率規制が銀行に与える影響」金融庁金融研究センター

LGD(デフォルト時損失率)とは何か

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本ページでは、デフォルト時損失率 (LGD: Loss Given Default)についてまとめたい。LGDは、信用リスク推定のために使用する指標である。

 

信用リスクとLGD

まず、銀行による貸出について考えてみる。銀行の場合は、企業や個人を信用した結果、お金を貸すのである。貸したお金をきちんと返済してくれる人・企業であると「信用」したからこそ、融資を実行できる。よって、「銀行の与信行動」とは貸出に他ならない。

 

そして、相手を「信用」した結果、相手が債務不履行(デフォルト)となり貸し出したお金が全額戻ってこない可能性がある。これこそが「信用リスク」であり、信用が裏切られたということである。

 

そして、デフォルトした時、貸したお金(もっと一般化すれば信用リスクのエクスポージャー)のうち、どれだけの割合が戻ってこないか、がLGD(デフォルト時損失率)に他ならない。

 

そのため、LGD = 1 − 回収率 

となる。

 

デフォルト時のエクスポージャー(EAD: Exposure at Default)にLGDをかけることで、デフォルト時損失額を求めることができる。

 

そして、融資先のデフォルトが起こる確率(PD: Probability of Default)をデフォルト時損失額に掛け合わせることで、損失額の期待値を求めることができる。

 

まとめると、

デフォルト時損失額の期待値 = PD × EAD × LGD

 

となる。

 

LGDの推定方法

信用リスク量の推定にあたり、PDを推定する必要があるが、PDは一般に、債務者格付の格付区分ごとに推計する。

 

同時に、LGDも推定する必要がある。LGDは、保全の有無、担保の種類、担保カバー率、 債務者特性等により推計する。担保をしっかり取っていれば、デフォルトしてもLGDを低く抑えることができるだろう。

 

 

(出典):

日本銀行金融機構局 金融高度化センター(2016)「信用リスク管理態勢の整備」