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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

サポートベクターマシン(SVM)とは何か

 

本ページでは、サポートベクターマシンSVM)とは何かについてまとめたい。サポートベクターマシンとは、機械学習機械学習の中でも教師あり学習に分類される手法である。データ群を2つのクラスに分割するような境界(線・超平面)を見つけるアルゴリズムである。

 

サポートベクターマシンでは、「マージン」を最大化しようとする。マージンとは、境界線とサポートベクターの距離を意味する。サポートベクターとは、境界線から最も近いデータである。要するに、境界とデータの距離の最小値がマージンである。このマージンが最大となるような境界線を決めることで、データ群を2つのタイプに分類することが可能となる。

 

境界をw・X+b=0で表す。yをXのタイプによって1または-1を取るものと定義すると、マージンmはm≦yi(w・Xi+b) / ||w||になる(||w||はn種類のwの2乗和の平方根)。ここで、1≦yi(w・Xi+b)となるようにw、bの値を取りなおす(標準化)。新たなwの下では、||w||=1/mとなる。このmが最大になるような||w||を求めるが、この問題を1/2||w||^2を最小化する問題に置き換える。以上の説明を示したのが以下の図である。

Cano, Alberto. (2018)より抜粋

ラグランジュ未定乗数法によってwを求める。

 

以上の例は、データセットを線形に分離できる場合であったが、それが難しい場合もある。一つの対処法としては、分類の違反度を示す変数ξを導入し、この和(にパラメータCをかけたもの)を損失関数とし、これも含めて最小化問題を解くというものである(ソフトマージン)。

 

もう一つの対処法は、カーネルトリックという手法を用いることである。この手法を用いてデータを高次元にマッピングし、データを分類しやすくなるようにする。具体的な方法やカーネル関数については例えば以下の参考文献を参照。

 

(出典):

Cano, Alberto. (2018). A survey on graphic processing unit computing for large-scale data mining. Wiley Interdisciplinary Reviews: Data Mining and Knowledge Discovery. 8. e1232. 10.1002/widm.1232. 

(参考):

高野祐一(2020)「サポートベクトルマシンとカーネル法オペレーションズ・リサーチ 2020 年 6 月号

axa.biopapyrus.jp

CBDCについて

 

CBDC(Central Bank Digital Currency,中央銀行デジタル通貨)について。本ページではCBDCの類型についてまとめる。

 

①リテール型vsホールセール型

個人や企業が利用する一般利用型(リテール型)と、主に大口取引における金融機関間の決済に用いられるホールセール型に分けられる。リテール型はさらに直接型と間接型に分けられる。直接型では、中央銀行はCBDCを発行するのみならず取引の処理を行う。一方で間接型では、中央銀行はCBDCの発行を行い、金融機関・決済サービス事業者が取引の処理を行う。

 

②口座型vsトークン型

台帳の記録方法に基づく分類である。口座型では、ユーザーごとに残高を記録する。トークン型では、金銭的価値の塊であるトークンごとにユーザーを紐づけて記録する。例えば1万円相当のトークンを保有するのは誰々、といった具合である(実際には公開鍵暗号方式という暗号技術により紐付けが行われており、匿名性は確保されている)。

 

③台帳の中央管理型vs分散型

台帳の管理主体が誰か、で分類を行うことも可能である。中央管理型では、単一の主体が取引の検証や記録を行う。一方、分散型においては、複数の主体が同一の台帳を保有し、各主体が取引の検証や記録を行う。分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology, DLT)を用いることが一般的である。

 

 

(参考):

杉江次郎、鳩貝淳一郎(2022)「分散型台帳技術を活用した決済の改善の取り組み― 各国のホールセール型 CBDC の実証実験を中心に ―」日銀レビュー

日本銀行(2020)「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」

K近傍法とは何か

 

本ページでは、K近傍法とは何かについてまとめたい。K近傍法(KNNとも呼ばれる)とは、機械学習アルゴリズムの一つであり、「教師あり学習」に分類される。

 

総務省の定義によると、K近傍法とは「分類に使われる手法の一つで、与えられた学習データと入力データとの距離を計算し、距離の近い順に探し出した K 個の学習データと、入力データとの多数決で得られた結果を、分類結果とする」アルゴリズムである。

 

例えば、ランダムに選ばれた人が関西出身か関東出身かを予測することを考える。手がかりとするのは「お好み焼きの年間消費額」と「もんじゃの年間消費額」である。まず、学習データとして100人のサンプルを集め、お好み焼きの年間消費額ともんじゃの年間消費額、そして出身(関西か関東か)のデータを集める。そして例えば、お好み焼きの消費額を横軸、もんじゃの消費額を縦軸とした散布図を作成し、その平面上に100のサンプルをプロットすることができる。そして、関西出身のプロットを赤色、関東出身のプロットを青色にラベリングすれば、出身とこれら2つの食べ物の消費量との関係がどのような傾向にあるかを見ることができる。

 

そして、この学習データを用いて、ランダムに選ばれた人(Aさんとする)が関西出身か関東出身かを予測する。まず、Aさんにお好み焼きともんじゃそれぞれの消費額を聞く。そうすると、Aさんに関するデータも散布図の中にプロットすることができる。

 

ここで、K近傍法を用いる。いったんここではK=1とすると、Aさんのプロットに最も距離が近いサンプルデータを求め(距離の計算にはユークリッド距離を用いることが多い)、そのサンプルが関東出身であればAさんは関東出身であり、サンプルが関西出身であればAさんは関西出身であると予測する。

 

K=3であれば、最も距離が近い3つのサンプルをもとに分類を決定することになる。加重平均を用いて、より距離が近いサンプルを重視して分類を決定することもできる。

Kを増やし過ぎると、モデルの精度が下がるので注意が必要である。

 

 

(出典):

総務省高等学校における「情報II」のためのデータサイエンス・データ解析入門

 

 

RTGSとDTNSについて

 

本ページでは、RTGS(Real Time Gross Settlement、即時グロス決済)とDTNS(Deferred Net Settlement、時点ネット決済)についてまとめたい。

 

RTGS(Real Time Gross Settlement)

RTGSは、取引が発生すると同時に、それぞれの取引を個別にリアルタイムで処理するシステムである。この方法は、大きな金額の取引に特に適しており、高い速度と効率性をもたらす。RTGSでは、取引は即時かつ不可逆的に処理されるため、決済リスクを低く抑えられる。

例えば、銀行Aが銀行Bに大金を送金する場合、その取引はRTGSシステムを通じて処理され、銀行Bの口座にほぼ即座に反映される。これにより、送金は迅速かつ確実に行われる。

 

DTNS(Deferred Net Settlement)

一方でDTNSは、一定期間内の取引を集計し、ネッティングを行い、その差額を基にして決済を行うシステムである。この方法は、小額取引の決済に多く用いられる傾向にある。DTNSでは、取引は一日の終わりなど、特定の時点でネットベースで清算される。これにより、システムの効率化が図られ、取引コストが削減される。

例えば、複数の銀行が一日の間に多数の取引を行った場合、これらの取引は一日の終わりに集計され、各銀行が受け取るべき合計金額または支払うべき合計金額が決定された後、実際の資金の移動が行われる。

 

2つの決済手法の比較

RTGSは、高額取引のための迅速かつ安全な方法であるが、一つ一つの取引ごとに処理する必要があり、取引参加者はより多くの流動性を求められる。一方、DTNSは小額取引に適しており、一日の終わりに合計値をベースに決済を行うため、コスト効率は良いものの、決済の完了まで時間がかかる。また、ある一つの銀行の支払い不履行の影響が他行の決済に及ぶ可能性、いわゆるシステミックリスクの可能性がある。

 

金融システムの安定という観点で言えば、RTGSの方が望ましいと考えられる。

ヘルシュタット・リスク、CLS銀行、PVPについて

 

本ページでは、ヘルシュタット・リスク、CLS銀行、PVPの概念についてまとめたい。

 

ヘルシュタット・リスク

鎌田(1990)の定義によると、ヘルシュタット・リスクとは、「外国為替取引において、2通貨の受渡時刻が異なるために、一方当事者のデフォルトにより、他方当事者が被る「一方の通貨を引渡してしまった後に他方の通貨を受け取れなくなるリスク」のこと」である。

 

1974年6月26日、西ドイツのヘルシュタット銀行が破産に至った。その日、多くの他の銀行が同銀行と同日を決済日とする外国為替取引を行なっていたが、米ドルと欧州通貨(ドイツ・マルク等)の取引に問題が生じた。

 

これらの銀行は、米ドルでヘルシュタット銀行から欧州通貨を買う取引を行っていた。まず、ドイツ時間の午前中にヘルシュタット銀行に欧州通貨を支払い、その後米国時間に米ドルを受け取る予定だったが、欧州通貨を支払った後にヘルシュタット銀行の営業停止が発表されたために、米ドルを受け取れなくなってしまったのである。

 

通貨の受渡は発行国の市場が開いている時間に行われる。外国為替取引において2種類の通貨を交換する際に、通貨の受け渡しが同時に行われれば良いが、各通貨の移動のタイミングに(時差による)ラグが生じる時、ヘルシュタット・リスクは存在する。

 

CLS銀行とPVP

ヘルシュタット・リスクを避けるために、金融機関間の外為取引は主にCLS銀行を通じて行われる。CLS(Continuous Linked Settlement)銀行とは、2002年にニューヨークに設立された、米国連邦準備制度の規制監督下にある特別目的銀行である。

 

A銀行がB銀行に日本円を、BがAに米ドルを支払うという外為取引を考えてみる。CLS銀行は、各国中央銀行に預金口座を開設しており、まず日銀当座預金口座振替によってA銀行からCLS銀行に円が移動する。一方、B銀行が保有する米国中央銀行の預金から、CLS銀行にドルの口座振替が行われる。

 

そして、両金融機関はCLS銀行に通貨ごと(この場合日本円とドル円)に預金口座を開設している。各中央銀行内に開かれたCLS銀行の預金口座に入金された通貨(A銀行からは円、B銀行からはドル)は、CLS銀行内のA銀行円口座、B銀行ドル口座にそれぞれ移される。

 

今回の取引ではAからBに日本円、BからAに米ドルという2種類の支払指図が存在することになるが、これらはCLSの中の口座振替という形で行われる(Aの日本円口座からBの日本円口座の振替、Bの米ドル口座からAの米ドル口座への振替)。そして、この2種類の口座振替が同時に行われる。これによって、ヘルシュタット・リスクを回避することができる。

 

一連の決済プロセスの中で肝となるのは、A→Bの円の移動(振替)と、B→Aのドルの移動が同時に行われるという点である。この同時決済の仕組みをPVP(Payment Versus Payment)という。

 

似た仕組みは証券決済においても用いられている。証券決済の場合、証券の引き渡しと代金の支払いが行われるが、これら2つが同時に行われる仕組みをDVP(Delivery Versus Payment)という。

 

(出典):

鎌田沢一郎(1990)「いわゆるヘルシュタット・リスクの概念とその規模の測定について」日本銀行金融研究所 「金融研究」第9 巻第2号

内田昌廣(2012)「外国為替決済におけるCLS:普及の現状と課題, アジア通貨への含意」鹿児島県立短期大学紀要 第63号

 

ダイナミックGMMについてメモ

 

ダイナミックGMMについて。

GMMの概要については以下を参照。

hongoh.hatenablog.com

パネルデータにおいて、一般に個別効果が含まれる際には固定効果モデルや変量効果モデルを用いて推定を行うが、さらに被説明変数のラグ項が説明変数に含まれる場合、ダイナミックGMMの使用が検討される。

以下のモデルを考える。

レベル式:

μは時間を通じて一定な個別効果、εは誤差項となる。この回帰式の1階の階差をとると、以下のようになる。

階差式:

1番目の式をレベル式、2番目の式を階差式と呼ぶことにする。Δy_it=y_it - y_i,t-1である。階差式では個別効果μが消去されている。このとき、Δy_itはμ_i+ε_itと相関を持たず、そしてy_i,t-2, y_i,t-3...はΔε_itと相関を持たない。このとき、εが2階以上の系列自己相関を持っていないことを仮定する。そのため、AR(2)検定を行なってチェックする(帰無仮説は系列自己相関なし)。

 

よって、階差式について、y_i,t-sを操作変数として、以下のモーメント条件が成立する。

E[y_i,t-s×Δε_it]=0

そして、レベル式について、Δy_itを操作変数として、以下のモーメント条件が成立する。

E[Δy_it×(μ_i+ε_it)]=0

 

Arellano and Bond(1991)は階差式に関するモーメント条件のみを用いたGMM推定量、Blundell and Bond(1998)はレベル式、階差式のモーメント条件両方を用いたGMM推定量を示した。後者のGMM推定量は、ダイナミックGMMの中でもシステムGMM推定量という。

 

(参考):

Arellano, M. and S. Bond (1991) “Some Tests of Specification for Panel Data: Monte Carlo
Evidence and an Application to Employment Equations,” Review of Economic Studies, Vol.
58, No. 2, pp. 277–297.

Blundell, R. and S. Bond (1998) “Initial Conditions and Moment Restrictions in Dynamic Panel Data Models,” Journal of Econometrics, Vol. 87, No. 1, pp. 115–143.

Roodman, D. (2006) “How to Do xtabond2: An Introduction to ”Difference” and ”System”
GMM in Stata.” Working Paper 103. Center for Global Development, Washington.

海外送金の仕組みについて(コルレス銀行)

 

本ページでは、銀行間の海外送金がどのような流れで行われるのかについて概観してみたい。

 

国内の銀行間の取引であれば、同じ中央銀行当座預金間の振替によって決済は完了するが、海外送金の場合は中央銀行が2つ存在することになり、中央で決済を行える機関が存在しない。ではどのように海外送金は実行されるのか。

 

例として、「日本にいるAさんから米国にいるBさんへ1万ドル送金を行う」というケースを考える。Aさんは日本に拠点を持つX銀行、Bさんは米国に拠点を持つY銀行に口座を持っているとする。つまり、X銀行からY銀行への送金となる。

 

X銀行は米国中央銀行の口座を持っていないので、米国中央銀行に口座を持つ別の銀行(例えばZ銀行)に決済の代行を依頼することができる。このような契約(コルレス契約)をXとZの間で結んでいる時、ZはXの「コルレス銀行」であるという。

 

X銀行はZ銀行の口座にドル預金を置き(+$10000)、これを決済手段とすることができる。Z銀行はX銀行からの依頼のもと、Y銀行にドルの送金を行う。Zの中央銀行当座預金からYの当座預金に振替が行われ(Z: −$10000、Y:+$10000)、決済は完了する。

 

もしX銀行がY銀行と直接コルレス契約を結んでいれば話はもっと単純で、X銀行が持つY銀行の口座から、Bさんの Y銀行口座への送金(口座振替)が行われることで決済が完了する(米国の中央銀行は介さない)。

 

Z銀行のような中継先となる銀行は場合によっては複数存在しうる。そうするとそれだけ海外送金に際してのコストが高くなる。

 

こうした国を跨いだ銀行間の送金指図といったメッセージングは、SWIFTと呼ばれるネットワークを通じて行われる。

 

(出典):

第7章 決済の実行 : 日本銀行 Bank of Japan