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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

ヘルシュタット・リスク、CLS銀行、PVPについて

 

本ページでは、ヘルシュタット・リスク、CLS銀行、PVPの概念についてまとめたい。

 

ヘルシュタット・リスク

鎌田(1990)の定義によると、ヘルシュタット・リスクとは、「外国為替取引において、2通貨の受渡時刻が異なるために、一方当事者のデフォルトにより、他方当事者が被る「一方の通貨を引渡してしまった後に他方の通貨を受け取れなくなるリスク」のこと」である。

 

1974年6月26日、西ドイツのヘルシュタット銀行が破産に至った。その日、多くの他の銀行が同銀行と同日を決済日とする外国為替取引を行なっていたが、米ドルと欧州通貨(ドイツ・マルク等)の取引に問題が生じた。

 

これらの銀行は、米ドルでヘルシュタット銀行から欧州通貨を買う取引を行っていた。まず、ドイツ時間の午前中にヘルシュタット銀行に欧州通貨を支払い、その後米国時間に米ドルを受け取る予定だったが、欧州通貨を支払った後にヘルシュタット銀行の営業停止が発表されたために、米ドルを受け取れなくなってしまったのである。

 

通貨の受渡は発行国の市場が開いている時間に行われる。外国為替取引において2種類の通貨を交換する際に、通貨の受け渡しが同時に行われれば良いが、各通貨の移動のタイミングに(時差による)ラグが生じる時、ヘルシュタット・リスクは存在する。

 

CLS銀行とPVP

ヘルシュタット・リスクを避けるために、金融機関間の外為取引は主にCLS銀行を通じて行われる。CLS(Continuous Linked Settlement)銀行とは、2002年にニューヨークに設立された、米国連邦準備制度の規制監督下にある特別目的銀行である。

 

A銀行がB銀行に日本円を、BがAに米ドルを支払うという外為取引を考えてみる。CLS銀行は、各国中央銀行に預金口座を開設しており、まず日銀当座預金口座振替によってA銀行からCLS銀行に円が移動する。一方、B銀行が保有する米国中央銀行の預金から、CLS銀行にドルの口座振替が行われる。

 

そして、両金融機関はCLS銀行に通貨ごと(この場合日本円とドル円)に預金口座を開設している。各中央銀行内に開かれたCLS銀行の預金口座に入金された通貨(A銀行からは円、B銀行からはドル)は、CLS銀行内のA銀行円口座、B銀行ドル口座にそれぞれ移される。

 

今回の取引ではAからBに日本円、BからAに米ドルという2種類の支払指図が存在することになるが、これらはCLSの中の口座振替という形で行われる(Aの日本円口座からBの日本円口座の振替、Bの米ドル口座からAの米ドル口座への振替)。そして、この2種類の口座振替が同時に行われる。これによって、ヘルシュタット・リスクを回避することができる。

 

一連の決済プロセスの中で肝となるのは、A→Bの円の移動(振替)と、B→Aのドルの移動が同時に行われるという点である。この同時決済の仕組みをPVP(Payment Versus Payment)という。

 

似た仕組みは証券決済においても用いられている。証券決済の場合、証券の引き渡しと代金の支払いが行われるが、これら2つが同時に行われる仕組みをDVP(Delivery Versus Payment)という。

 

(出典):

鎌田沢一郎(1990)「いわゆるヘルシュタット・リスクの概念とその規模の測定について」日本銀行金融研究所 「金融研究」第9 巻第2号

内田昌廣(2012)「外国為替決済におけるCLS:普及の現状と課題, アジア通貨への含意」鹿児島県立短期大学紀要 第63号