一般化モーメント法(generalized method of moments、GMM)について。操作変数法によるパラメータ推定に際してGMMが用いられる。
モーメント法の基本的な考え方については以下を参照。
次に、操作変数法の基本的な考え方については以下を参照。
そして、以下では行列の演算が登場するので、行列の基本的な計算方法等については以下を参照。
まず、以下の回帰式を考える。
ここで、未知のパラメータβの数はKであるとする。そして、操作変数をzとする。操作変数は誤差項εと独立でなくてはならず、E[zε]=0となる。これはモーメント条件であり、操作変数の数をLとすると、L個のモーメント条件が得られることとなる。
モーメント条件の数とパラメータの数が同じ場合(L=K)、未知数と方程式の数が等しくなるので、連立方程式を解くことによってK個のパラメータを一意に定めることができる。
では、パラメータの数よりモーメント条件の方が多い場合(L>K)はどうなるか?このとき、L個のモーメント条件すべてを同時に満たすようなパラメータは存在しない。このケースを過剰識別という。通常のモーメント法では、L個の条件のうち、いずれかK個の条件を満たすようにパラメータを求める(このときL=Kとなる)。よってL個のうちK個だけ条件を選択することになる。
しかし、全てのモーメント条件を用いてパラメータを推定することはできないか?GMMは、過剰識別の場合に用いる推定方法ということができる。以下、GMMの推定方法について考える。
モーメント条件は以下の通りである。(※添え字のiを省略)
E[z(y-x'β)]=0
操作変数がL個ある場合、モーメント条件がL個作られることになる。
このモーメント条件を標本平均で置き換えたものをg(b)=Z'(Y-Xb)/n(=0)とする。
それぞれ、Yはn×1、Xはn×K、Zはn×Lの行列である。(nはサンプル数を表す)
そして、GMM推定量を求めるにあたり、以下の目的関数を考える。
Q=g(b)'Wg(b)
ここで、Wは荷重行列と呼ばれ、対称かつ正定値である。Qを最小にするようなbがGMM推定量となる。
このQはどのような意味を持つのか?例えばL=3で、Wが単位行列の場合を考えてみる。すると、
モーメント法はそれぞれのモーメント条件(g(b)=0)を満たすようなパラメータを求める方法であった。しかし、上記の通り、モーメント条件の数がパラメータ数よりも多いとき、モーメント条件すべてを同時に満たすパラメータは存在しない。それでも、なるべくそれぞれのg(b)が0に近づくようにパラメータを選ぶことができないか?というのが基本的な考え方である。上記の式で分かるように、Qは各g(b)の2乗和になっている。これが最小になるようなパラメータを選ぶとき、それぞれのg(b)をなるべく0に近づけようとしていることを意味する。
最小となるQを選ぶには、1階条件(右辺をbで微分した値が0)を求め、これをbについて解けばよい。
荷重行列Wは、g(b)の分散共分散行列E[zz'e^2]^-1を選ぶとよいとされている。
(参考):
上武康亮、遠山祐太、若森直樹、渡辺安虎(2021)「実証ビジネス・エコノミクス 第 3 回 プライシングの真髄は代替性にあり: 消費者需要モデルの推定[基礎編2] 補足資料 1: 一般化モーメント法 (GMM) に関するノート」経済セミナー2021年8・9月号、日本評論社