<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

支払手段の全体像を概観する

 

本ページでは、主な支払手段にはどのようなものがあるかについて概観したい。

 

現金

紙幣または硬貨による支払い。

 

銀行振込

金融機関(銀行)の口座にある預金に資金を払込むこと。異なる銀行間の振込の場合、全銀システム、日銀ネットといった決済システムを通じて決済が完了することになる。

 

電子マネー

事前にICカードやにスマホ等に入金し、その範囲内での買い物が可能である。上記の3つと違い、銀行口座と紐付いていない。日本では交通系ICカード(PASMOなど)が代表的。法律的には「前払式支払手段」と呼ばれる。

 

クレジットカード

クレジットカードは、利用者の「信用」に基づき、商品・サービスの代金を支払った段階では引き落とされず、翌月以降の定められた支払日に引き落とされる。銀行口座と紐付いており、支払日に銀行口座から引き落とされる。よって、買い物時に必要な額が揃っていなくても買い物が可能である。しかし、利用者が一定の信用に足る必要があるため、カードの使用開始前に年収や資産等の審査があり、利用枠(買い物できる額)もあらかじめ決まっている。現金の借り入れができるキャッシング機能がついたものもある。

 

デビットカード

クレジットカードと似ており、キャッシュレシュでの決済が可能であるが、引き落としまでタイムラグのあるクレジットカードとは異なり、カードを利用すると同時に、口座から代金が引き落とされる。よって、個人の「信用」には依拠しないため、基本的にカードの利用開始にあたって審査は必要ない。口座を管理する銀行が発行するケースが多い。

 

小切手

小切手は、財の決済時に、購入者が現金の代わりに差し出す証書であり、受け取った側はこの小切手を銀行に提示することにより、銀行から支払いを受けることができる。10万円の商品を購入した時、「10万円」とかかれた小切手を渡し(このことを振り出しという)、小切手をもらった側はそれを持って銀行に行けば、10万円を受け取ることができるというものである。

少額の取引であれば直接現金を渡すだけで良いが、金額が多くなると多額の現金を持ち歩くのは危険なので、紙一枚で支払いを証明できる小切手は利便性が高く、日本では主に企業間の取引でよく用いられる。(アメリカでは、個人間の取引でも小切手がよく用いられる。)

小切手を使った支払いを行うためには、銀行に当座預金口座を開設し、小切手用紙がつづられた小切手手帳の交付を受ける必要がある。そして、基本的に前もって小切手によって支払う金額以上の額を銀行に預けていなければならない。小切手を受け取った側は、その小切手を発行している金融機関に加えて、自分が口座を持っている金融機関の窓口に行くことによっても、換金を行うことが可能である。個人間の取引においても小切手(チェック)が頻繁に使われるアメリカでは、オンラインアプリを通じた小切手の換金も普及している。

 

約束手形

約束手形も小切手と同様、購入者が現金の代わりに差し出す証書であり、受け取った側は約束手形を銀行に提示することにより、銀行から支払いを受けることができる。小切手と約束手形の違いは、小切手は受け取った側が直ちに換金することが可能なのに対し、手形の場合は基本的に支払期日にならないと現金化ができないという点である。そして、小切手は振り出すときにその金額以上の預金がある必要があるが、手形の場合は振り出しの時点では預金額が不足していても問題ない。そのかわり、定められた支払い期日までに確実に預金を必要額まで積めば良い。

 

電子記録債権

電子記録債権は、従来の手形取引のように紙媒体を必要としない金融債権であり、「電子債権記録期間」への電子記録を要件とする。

 

収納代行

事業者が提供するサービスや商品に対する支払を、コンビニ等で行うことができる仕組みである。顧客がコンビニで支払いを行なった後、コンビニ決済代行会社を通じて事業者に振り込まれる。

 

 

 

 

以上、主要な支払手段について概観したが、近年、新たな決済手段、例えば暗号資産や中央銀行デジタル通貨(CBDC)などが発展しつつある。しかし、現時点ではまだ日常の決済に用いられているわけではない。今後、これらの新しい決済手段が伝統的な支払手段に取って代わっていく可能性はある。

 

(参考):

https://www.fsa.go.jp/ordinary/densi02.pdf

 

サステナビリティ開示に関する保証制度の導入へ議論

 

金融庁サステナブル開示に関する保証制度の導入へ議論を行う方針であることを発表した。

 

サステナビリティ情報の開示については、2023年3月期から有価証券報告書における同情報の開示がスタートしている。ただし、現時点で個別具体的な基準はない。


日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)では、2023年6月に最終化した国際基準(ISSB基準)を踏まえ、日本における具体的なサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を開発中であり、今年3月に公開草案を公表予定である。


SSBJ基準の適用対象については、グローバル投資家との建設的な対話を中心に据えた企業(プライム上場企業ないしはその一部)から始めることが検討されている。

 

ただし、2022年12月公表の金融審議会ディスクロージャーWG報告では、「...企業によって社会全体へのインパクトが異なることや様々な業態があ ること、企業負担の観点、欧米では企業規模に応じた段階的な適用が示されていることを踏まえると、 我が国では、最終的に全ての有価証 券報告書提出企業が必要なサステナビリティ情報を開示することを目標としつつ、今後、円滑な導入の方策を検討していくことが考えられる」と提言されており、最終的に適用対象は拡大していくのであろう。


また、サステナビリティ情報に対する保証(監査)のあり方について議論が進んでいる。こうした点も含め、法改正を視野に入れた検討が必要であり、金融庁は、金融審議会において、サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(仮称)を新規に設置して、有識者による議論を開始する方針である。

 

(出典):

第52回金融審議会総会・第40回金融分科会合同会合議事次第:金融庁

企業価値算出(バリュエーション)の全体像

本ページでは、企業価値算出(バリュエーション)の全体像についてまとめたい。

 

何の価値を測るのか

企業に関する価値の測定には、大きく分けて次の3つがある。

企業価値:企業全体の価値

②株主価値:株主に帰属する価値

③事業価値:企業が行う事業の価値

これら3つの価値の関係は、単純化すれば

①=②+有利子負債

③+非事業用資産の価値=①

となる。非事業用資産には、典型的には余剰現金などが該当する。

 

事業(プロジェクト)の価値の測定

次に、上記の③事業価値の価値の測定方法について考える。企業が行う事業の価値を測定する際の基本的な考え方は、「事業から発生する将来のキャッシュフローの総和の現在価値」をその事業の価値とする、というものである。

 

つまり、単純化すれば、「将来のキャッシュフロー/割引率」の総和を求めれば事業価値が求められることになる。

キャッシュフローの現在価値の算定については、以下のページも参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

また、分子のキャッシュフローについて、正確に言えばフリーキャッシュフローという概念を用いる。フリーキャッシュフローについては以下のページを参照。

hongoh.hatenablog.com

分母の割引率は、いわゆる「資本コスト」と呼ばれる。資本コストの算出方法については以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

実際の事業価値の算出に際しては、将来の売上やコスト等を予測することによって将来キャッシュフローを推定することになるが、未来永劫にわたって将来キャッシュフローを正確に推定することは難しい。そこで、ある一定の期間以降はキャッシュフローの成長率が一定になると仮定して、その期間以降のキャッシュフローの総和の現在価値を求める。この価値を「ターミナルバリュー」という。ターミナルバリューの計算の詳細については以下のページ参照。

hongoh.hatenablog.com

 

例えば5期以降は個別にキャッシュフローを予測できないとすると、事業価値は「1期~4期のキャッシュフローの現在価値+4期末におけるターミナルバリュー」で計算される。

 

企業価値の測定

冒頭で述べた通り、事業価値に非事業用資産の価値(余剰現金など)を加えたものを企業全体の価値と評価することができる。

 

株主価値の測定

企業価値から有利子負債の額を差し引いたものは株主に帰属する価値となる。また、株式価値の測定には、将来の配当の現在価値から算出する方法(配当割引モデル)などがある。これについては以下のページを参照されたい。

 

 

以上、企業価値算出の全体像を本ぺージでは概観したが、ここではいわゆるDCF法に基づいた記述となっている。企業価値算出の代替的手法として、マルチプル法が挙げられる。マルチプル法については以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

(出典):

株が割安かの目安「株主価値」の計算法を知ろう - 日本経済新聞

株主資本変動計算書とは何か

本ページでは、株主資本変動計算書とは何かについてまとめたい。株主資本変動計算書とは、一言でいえば、貸借対照表の「純資産」の部分について、その変動要因を詳述した表であるといえる。

 

株主資本変動計算書と貸借対照表損益計算書の関係性について、中小企業庁の以下のページにイラストとともに説明されているので、イメージをつかむためにまずは参照されたい。

www.chusho.meti.go.jp

 

「株主資本」の変動を記したものが株主資本変動計算書であるが、その「株主資本」には以下のような種類がある。

資本金

→株主が会社に対して出資した金額。株式発行により払い込まれた金額の2分の一以上は資本金に充てる必要があり、残りは「資本準備金」として蓄えることができる。

資本剰余金

→上記の「資本準備金」と、自己株式処分差益などが該当する「その他資本剰余金」からなる。

利益剰余金

→会社設立以来生じた損益のうち、配当に回されなかった金額。

自己株式

→会社が自社株を買い取った金額。

 

また、新株予約権や少数株主持分といった株主資本以外の項目についても記載が求められる。

そして、当期におけるこれらの増減要因を記入していくのだが、その変動要因として挙げられているのは以下のようなものである。

新株の発行
剰余金の配当
利益準備金の積立
当期純利益(損失)
自己株式の取得

 

 

(参考):

biz.moneyforward.com

advisors-freee.jp

過学習とその対処法について

本ページでは、機械学習における過学習の問題とその対処法についてまとめたい。

 

教師付き学習

機械学習には、大きく分けて「教師付き学習」「教師なし学習」がある。このうち、教師付き学習は、総務省の定義によれば、「特徴を表す情報と正解を表す情報がセットになった状態のデータを用いてコンピュータに学習させる手法」とされる。「特徴を表す情報」は説明変数と呼ばれ、「正解を表す情報」は目的変数と呼ばれる。これらの教師付き学習を行うには、説明変数と目的変数が揃っているデータセット(教師データ)が必要である。まず説明変数と目的変数の関係を教師データによって学習し、そこで学習した関係に基づき、説明変数のデータから目的変数(未知)を予測する。

 

過学習とは

学習を行う際、過学習と呼ばれる問題に留意する必要がある。過学習とは、「教師
データ全てを用いてモデルの構築を行うと、そのデータには適合することができても、その後入ってくる未知のデータには全く合わないモデルが形成されてしまうこと」である(総務省)。例えば説明変数と目的変数の関係を高次式で表現することを考える。教師データへのフィットをよりよくするには、次数を上げていけばよい※。3次式よりも20次式の方が教師データへのフィットが良い。しかし、20式のモデルは、未知のデータには全く合わないものとなっている可能性がある。

 

この過学習への対処法として、交差検証法が挙げられる。交差検証法の代表的なものとしてK分割法がある。

 

K分割法(K分割交差検証)

K分割法では、まずデータセットをK個に分割する。そして、モデル構築と検証をK回分繰り返す。

1回のモデル構築・検証を1セットとすると、各セットにおいて、K個の分割されたデータセットのうち1つは検証用(評価データ)、残り(K-1)はモデル構築用(教師データ)とする。各セットで検証用に使用するデータセットを変えるので、Kセット実施する必要がある。

 

各セットにおいて、構築したモデルの当てはまり具合を検証することになる。例えば、回帰分析においては、構築したモデルで評価データの回帰を行ったときに、モデルの予測値と評価データの実測値の差分の大きさが評価の基準となる。K回モデルの当てはまり具合の測定を繰り返し、その平均値を結果とする。

 

例えば3次式のモデルを使用するか20次式のモデルを使用するかで迷っていたとする。そこで、3次式、20次式それぞれについてK回ずつ上記のプロセスを行い、誤差の小さい方を選択すれば良い。

 

※次数はその項が何乗であるかを示す。紛らわしい概念に次元というものがあり、次元は変数の数である。

 

(出典):

総務省高等学校における「情報II」のためのデータサイエンス・データ解析入門

均一な与信ポートフォリオの損失分布について

本ページでは、均一なローンから構成される与信ポートフォリオの損失分布の推計について検討したい。

 

まず、与信ポートフォリオの信用リスクについて、1ファクターマートンモデルを用いた推計方法を以下のページで紹介している。本ページはこれに基づいており、数式の表記法も同様である。

hongoh.hatenablog.com

マーケットファクターmが与えられた時の企業iにおける条件付デフォルト確率π(m)は

となる。このπ(m)を、以下では便宜的にpとする。

以下、全ての与信先企業のローン残高、デフォルト確率π、デフォルト時損失率が均一な場合を考える。

この場合、ローン数がn、デフォルト数をkとすると、ポートフォリオの中でk本のローンがデフォルトする確率は、以下の二項分布で表現することができる。

なお、この二項分布の期待値(つまりポートフォリオの期待損失率)はnpとなる。以下のグラフは、個々のローンのデフォルト確率が4%、デフォルト相関がゼロ、ローン数500の場合の与信ポートフォリオの損失分布である。

 

横軸はローン総数に占めるデフォルト数の割合(つまりp)である。

以下は、縦軸を累積分布関数にした場合である。

この損失分布から、期待損失やバリュー・アット・リスク(95%や99%水準など)を求めることが可能となる。例えば、信頼水準99%のバリュー・アット・リスク(VaR)を求める際には、累積分布関数の縦軸の値が0.99になる点に対応する横軸の値が、99%信頼水準における最大の損失割合(ローン総数に占めるデフォルト数)であり、ここからVaRを計算することができる。

 

マートンモデルを用いたデフォルト確率の推定について

本ページでは、マートンモデルを用いたデフォルト確率の推定についてまとめたい。

このモデルでは、デフォルトは企業の資産価値が債務額を下回った場合に発生するという前提に基づいている。デフォルト確率は、ブラック・ショールズ・マートンの公式を使って計算することができる。

 

まず、企業価値Vについて、以下の確率微分方程式が成り立つとする。

ここで、μは期待収益率、σはボラティリティである。dWはブラウン運動の増分である。

W=W(t)がブラウン運動であるとは、以下の2つを満たすことである。

(1)W(0)=0であり、

・任意の0<t1<t2<...<tnに対して W(t1)、W(t2)-W(t1)、...、W(tn)-W(tn-1)

は独立

・任意のs,t>0に対して

W(t+s)-W(t)の分布はtに依存しない

(2)任意のt>0に対して、W(t)は平均0、分散σ^2tの正規分布に従う。

 

 

(1)の式に戻ると、企業価値Vは幾何ブラウン運動に従う確率過程と表現することができる。初項はドリフト項と呼ばれ確定的な方向性を示し、第二項は不安定な動きを示す。

 

(1)式は、伊藤の公式を用いることで以下の様に書き表すことができる。

そして、この方程式の解は以下になる。

ただし、V0は初期値である。

以上の部分の導出については以下のページを参照。

hongoh.hatenablog.com

 

株式をE、負債をDとすると、企業のバランスシートは

A=E+D

である。負債は一種類の割引債のみで構成され、T期に償還を迎えるとする。企業がデフォルトする場合、償還期限であるT期にデフォルトが発生する。上述の通り、企業価値が負債額を下回る場合にデフォルトすると仮定する。このような状況化で、T期における株式、負債の価値は以下のように表現できる。

よって、株式を保有することは、企業価値を原資産、負債額を行使価格とするヨーロピアコールオプションのロングポジションを持っていることと考えることができる。同様に、負債は企業価値を原資産、負債額を行使価格とするヨーロピアプットオプションのショートポジションであるとみなすことができる。そして、企業価値Vはブラックショールズモデルにおける危険資産を表現する確率微分方程式と同じ形をしているため、Eはブラックショールズの公式を用いて表すことができる。

ただし、dは

であり、Φは標準正規分布関数である。

 

デフォルト確率は、(3)式より、

となる。

 

(出典):

中川秀敏(2008)「信用リスク・モデルの観望とその新展開-トップダウン・アプローチによるデフォルトの依存関係のモデル化-」現代ファイナンスNo.23

石村直之(2014)「確率微分方程式入門 ―数理ファイナンスへの応用― (数学のかんどころ 26)」共立出版