共和分について
本ページでは、共和分についてまとめたい。
本ページで登場する定常性や単位根といった時系列データ分析における基本的な考え方については以下のページを参照されたい。
共和分
単位根過程に従う2つの系列、x、y(期を表す添字のtをここでは省略)を考える。そして、この2つの系列x、yについて、その線形和ax+bxが定常過程となるようなa、bが存在するとき、xとyには共和分の関係があるという。共和分の存在は、xとyの間に長期的な均衡関係が存在することを意味している。
検定
以下は代表的な共和分検定の手法である。
Engle Granger検定
xとyの線形和が定常となるということは、yをxで線形回帰したとき、その残差が定常になると考える。そこで、yをxで回帰し、推定された残差に対して単位根検定を行う。
Johansenの手順
この仮説検定の手続きでは、複数の共和分関係に対する検定が可能となる。共和分関係の個数をランクという。詳細な手法については川崎(1993)などに詳しい。
誤差修正モデル
共和分関係にあるデータに関する推定に際して、誤差修正モデルが用いられる。
ここでは、Enders(2015)を参考に簡単なモデルを取り上げる。x、yという2つの時系列データの関係を推定したいとすると、
と表すことができる。
Δytはt期のyとt-1期のyの差分を表す。この式ではラグの次数を1としている。x-βyの部分は、xとyの長期的な均衡からの乖離を示している。つまりある期におけるyの変化は、前の期のxとyの均衡関係からの乖離に影響を受けると考える。x、yともに単位根であるとき、左辺も右辺も定常になっていることが分かる。
時系列データ間の関係の推定にあたっては、VAR(ベクトル自己回帰モデル)がしばしば用いられる。推定する時系列データが共和分関係を持つとき、VARを使った推定ができないことが知られている。代わりに用いるのが、上記の誤差修正の考え方を用いたベクトル誤差修正モデル(VECM)である。
VARモデルについては以下のページでまとめている。
モデルの選択
時系列データx、yの関係を推定したいとき、
①x、yが定常過程か
→定常過程の場合:VARモデル
→単位根過程の場合:②
②x、yが共和分関係にあるか
→共和分関係にない場合:差分系列のVARモデル
→共和分関係にある場合:VECM
と整理できる。いずれのモデルにおいても、ラグ次数の選択は情報量基準を用いることが多い。また、VECMの場合、共和分の個数(ランク)を決める必要があるが、これにはJohansenの手順が用いられる。
(参考):
川崎能典(1993)「Johansenの共和分検定について」日本銀行金融研究所「金融研究」第11巻第2号
田中英敬・木村武(1998)「Vector Error Correction Model を用いた物価の決定メカニズムに関する実証分析」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ
Enders, Walter. "Applied EconometricTime Series, 4th edition". Wiley Publishing. 2015.