<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

負債の節税効果とは

本ページでは、負債の節税効果とは何かについてまとめたい。企業が最適な資本構成(負債による調達と株式による調達の比率)を決定するにあたって考慮されるのが負債の節税効果である。

 

企業価値の定義

まず、企業の資本構成について議論するにあたり、企業価値の定義を明確にしておきたい。榊原(2013)では、企業価値は、「当該企業に対する資本提供者(中略)にとっての価値」と定義されており、「将来キャッシュフローの現在割引価値としての企業価値と言ったときのキャッシュフローは、普通株主と負債権者に支払い可能なキャッシュフローであり、フリーキャッシュフローと呼ばれる(企業フリーキャッシュフロー free cash flow to the firm, FCFF とも呼ばれる)。」と説明されている。よって、株主と債権者に還元される将来キャッシュフローの現在価値が、企業価値であると考えることができる。

 

ベンチマークとしてのMM命題

最適な資本構成に関するベンチマークとなるのがモディリアーニ・ミラーの命題(MM命題)である。MM命題は、「取引コストや税金が存在しない完全資本市場において、資本構成は企業価値に影響を与えない」というものである。つまり、負債100%にしようが株式100%にしようが、それによって企業価値はいっさい変化しないということである。

 

負債の節税効果

それでは、税金(法人税)が導入された場合、MM命題はどのように変更されるのだろうか?ここでは、以下の2種類の企業を例にとって考えてみる。どちらも営業利益が100で、法人税が30%とする。

 

企業1:負債なし

営業利益:100

支払利息:0

税引前利益:100

税引後利益:70

株主帰属:70

債権者帰属:0

 

企業2:負債200(利子率10%)

営業利益:100

支払利息:20

税引前利益:80

税引後利益:56

株主帰属:56

債権者帰属:20

 

冒頭で触れた通り、企業価値は株主と債権者に帰属するキャッシュフローの和であった。企業1ではその和が70+0=70だが、企業2では56+20=76であり6だけ企業価値が増加していることが分かる。

 

これは、負債の支払利息が損金算入され、課税対象とならないためである。これが負債の節税効果となる。上記の例では1時点のみの節税効果を表しているが、将来にわたっての節税効果を数式で表すと、以下の様になる。

tは税率、rは利子率、Dは負債額である。これは無限等比級数の公式から導くことができる。

 

この節税効果の分だけ、負債を持たない企業よりも企業価値がプラスされる。それでは、企業は負債を増やせば増やすだけ良いのかというと、そうではない。負債を増やせば当然企業の金利負担は増加し、ビジネスの状況によっては、債務不履行に陥る可能性がある。最適資本構成は、負債による節税効果と、財務的困難によるコストのバランスによって決定されるという考え方をトレードオフ理論という。

 

(出典):

榊原茂樹(2013)「企業価値評価へのフリーキャッシュフロー法」商学論究 61 (2), 105-116

glossary.mizuho-sc.com