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バリュエーションにおけるフリーキャッシュフローの定義について

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本ページでは、企業価値算定(バリュエーション)におけるフリーキャッシュフローの定義についてまとめたい。

 

榊原(2013)では、企業価値は、「当該企業に対する資本提供者(中略)にとっての価値」と定義されており、「将来キャッシュフローの現在割引価値としての企業価値と言ったときのキャッシュフローは、普通株主と負債権者に支払い可能なキャッシュフローであり、フリーキャッシュフローと呼ばれる(企業フリーキャッシュフロー free cash flow to the firm, FCFF とも呼ばれる)。」と説明されている。よって、株主と債権者に還元される将来キャッシュフローの現在価値が、企業価値であると考えることができる。

 

具体的には、フリーキャッシュフロー(FCF)は以下の式で表せる。

 

FCF=(1-法人税率)×EBIT+減価償却費−総投資額±正味運資本の減少(増加)

 

EBITとはearnings before interest and taxの略であり、金利支払と税を引く前の利益である。これに(1-法人税率)をかけるということは、金利支払い分は差し引かずに残しておくことを意味する。これは、金利支払いは債権者への還元であり、フリーキャッシュフローの概念に含まれるからである。

 

固定資産への投資を行なった時、その購入費をすべて費用として計上せずに、資産の質ごとに定められた耐用年数の間、購入額の一部を少しずつ費用として損益計算書に計上するしくみをとっている。(これが減価償却費である。)よって、実際には固定資産投資によって現金の支出が発生しているので、その額(上記式の「総投資額」)を差し引く必要がある。

 

一方で、損益計算書上では費用として控除される減価償却費は、実際には現金の支出を伴っていないので、足し戻す必要がある。

 

最後に、正味運転資本の当期中の変化分を足す(または引く)。正味運転資本は、余剰資金を除いた流動資産(商品、売掛金)から借入金以外の流動負債(買掛金)を差し引いたものである。現金の増減という観点から見ると、ある期における正味運転資本の増加は、現金が減少していることを意味する。なぜなら、商品、売掛金は現金が形を変えたものと捉えることができるためである。反対に、正味運転資金の減少は、手元の現金が増加していることを意味する。そのため、正味運転資本が増加していればその額を引き、減少していればその額を足す必要がある。

 

 

(出典):

榊原茂樹(2013)「企業価値評価へのフリーキャッシュフロー法」商学論究 61 (2), 105-116

(参考):

先生、運転資本が増加すると現金が減少するってどういう意味ですか? | たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる!会計の教室 | ダイヤモンド・オンライン