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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

パレート効率的とはどういう状態か

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本ページでは、パレート効率的とはどのような状態をいうのかについてまとめたい。

 

資源配分の効率性についての言葉であるが、一言でいえば「他のどの人の効用も下げることなく、誰かの効用を上げることができない資源配分の状態」ということができる。逆に、「他のどの人の効用も下げずに誰かの効用を上げることができる」ことをパレート改善という。

 

a,b,cという3 通りの配分を考えてみる。そして、個人1、個人2という2人の個人が存在しているとする。

 

それぞれの配分における個人1、個人2の効用は、

a=(10,15)

b=(11,15)

c=(0,20)

であるとする。

このとき、cの配分はパレート効率的だが(aまたはbに変更しようとすると個人2の効用が必ず下がるので)、個人1にとっては最悪の配分となってしまう。

 

aの配分については、bに変更する事で、個人2の効用を下げる事なく、個人1の効用を上げることができる。その意味で、aはパレート効率的ではない。配分bは、パレート効率的となる。

 

よって、この例においてパレート効率的なのはbとcということになる。


この例から何が分かるだろうか。
現状パレート効率的でない配分 (上記の例でいえばa) となっている場合、資源配分を調節することにより、他の誰の効用も損なわずに一部の個人の効用を向上させることができる(上記のb)。

 

では、パレート効率的な状態が必ず最善の状態かと言えば、必ずしもそうではない。

 

上記の例では、cの配分もパレート効率的であるが、個人2の効用が20であるのに対して個人1の効用はゼロである。ここに、絶対的な"不平等"が存在している。

このように、パレート効率的な配分は、誰の効用も下げることなく誰かの効用を上げることができないという効率性を満たしたものであるだけで、その配分の平等性については何も語っていない。一般的に、パレート効率的であっても、大多数の個人にとっては極めて不公平であり、望ましくないと考えられる配分は存在しうる。政策によりパレート効率的になるよう誘導したとしても、その結果不平等が加速することも考えられる。効率性と平等性は分けて考えなければならない。

 

完全競争市場(市場に多数の消費者と生産者が存在し、個々の経済主体は価格への影響力を一切持たない、つまりプライステイカーとなる市場)における均衡点で達成された資源配分はパレート効率的である(厚生経済学の第1基本定理)。

 

(参考):

Kaushik Basu(2011)"Beyond the Invisible Hand: Groundwork For A New Economics"

 

 

SOFRとは何かーLIBORからの移行ー

本ページでは、SOFRとは何かについてまとめたい。SOFRとは、Secured Overnight Financing Rateの略称で、担保付翌日物調達金利を意味する。ニューヨーク連邦準備銀行が2018年4月から公表を開始した指標で、後述するようにLIBORという金利指標に代替するものとして米国にて用いられている。

 

レポ取引について

SOFRを理解するにあたり、まず初めにレポ取引について概説したい。

 

レポ取引とは、国債などの証券と引き換えに資金を借り入れ、金利をつけて返済する、というものである。短期的に資金調達を行う手段として主に金融機関の間で用いられる。

 

資金の借り手をA、資金の貸し手をBとすると、取引開始時に、A が持っている債券をBに貸し出し、その対価としてBから資金を得る。取引終了時には金利(厳密には借入金に対する金利と債券の貸借料の受け取りの差分)を加えて借りたお金を返済し、 逆に債券を返してもらう。これがレポ取引の一連の流れとなる。

 

SOFRとは

SOFRは、金融機関どうしで取引されるレポ取引において、特に米国債を担保としたもののうち、翌日物(翌日までに返済する必要がある)の金利レートをもとに算出される指標である。

 

米国においてSOFRは、OIS(Overnight Index Swap)における変動金利として使用される。OISは、翌日物の変動金利と固定金利を交換する金利スワップの一種である。OISにおける固定金利はOISレートと呼ばれる。OISの名前にはオーバーナイト(すなわち翌日物)とあるが、参照する変動金利が翌日物であって、取引自体は数ヶ月から年単位で行われることもある。それぞれの期間のレートは翌日物の変動金利を出発点に、金利の期間構造を通じて決定される。OISレートは金融政策の動向を踏まえてマーケットの中で決定される。

 

LIBORの代替指標

従来、こうしたスワップ取引等における変動金利の参照指標としては、LIBORが用いられてきた。

 

LIBOR(London InterBank Offered Rate、ロンドン銀行間取引金利)とは、ロンドンのインターバンク市場(銀行間で行われる取引の市場)において各銀行が短期資金を調達する際の金利を平均して算出された金利指標である。

 

LIBORについては、以下で詳しく説明している。

hongoh.hatenablog.com

 

LIBORの算出にあたっては、ロンドンのインターバンク市場に参加する主要行(リファレンス・バンクまたはパネル行という)が、マーケットの状況を踏まえ、無担保で資金調達をする際に適切と考えられるレートを、LIBORの運営機関に提示する。これを受け、LIBOR運営機関は、各行の提示レートを一定の算出方法に基づき指標化し、公表する。


金融取引における重要なインフラとなっていたLIBORだが、その算出においては各パネル行が正しく調達金利を自己申告することが前提となっていた。しかし、2008年のリーマンショックによって銀行の信用力の低下が懸念された際、一部のLIBORのパネル行が、提示する調達金利が高いと市場参加者から信用力が低いと受け止められるのではないかと考え、実際の取引レートよりも低いレートを提示するという問題が生じた。さらに、銀行トレーダーが、自らが行うデリバティブ取引を有利にするために、提示するレートを意図的に操作した事例も報告された。

 

こうした問題を受け、世界各国はLIBORに代替する指標への移行を行なっている。米国では、LIBORに代替するリスクフリーレートとして、 SOFRを採用している。

 

SOFRはあくまで翌日物であるが、LIBORは3ヶ月物や6ヶ月物など期間が設定されている。そのため、SOFRの将来のレートの予測を織り込むことでそれぞれの期間について算出したターム物のSOFRであるCME Term SOFRが開発された。

 

 

(参考):

SOFR(担保付翌日物調達金利)入門 -米国のリスク・フリー・レートおよび米国レポ市場について- : 財務省

LIBOR特設ページ | 一般社団法人 全国銀行協会

古典派の二分法とケインズ派

本ページでは、古典派経済学とケインズ派経済学の考え方の違いについてまとめたい。

 

古典派

古典派の経済学では、財の価格や賃金は伸縮的に変化し、需要と供給が均衡するように実物変数の水準が決まっていくと考える。また、価格が伸縮的に変化する状況では、貨幣量の変化は実物変数(生産、消費、投資など)に何ら影響を与えず、単に価格や賃金といった名目変数の水準を決定するのみであると考える(この考え方を古典派の二分法という)。

この仮定の下で、貨幣と価格について以下の関係が仮定される。

MV=PT

Mは名目貨幣量、Vは貨幣の流通速度、Pは物価水準、Tは実質取引量(これを実質GDP:Yと同等とみなすこともできる)を表す。

 

以上を踏まえたマクロ経済モデルは嶋村(2004)を参照。ここでは、労働需要と労働供給が一致する点で実質賃金(W/P)が決定され、常に完全雇用の状態となる。そして、貨幣供給は名目変数である名目賃金と物価水準のみに作用し、実物変数には何ら影響を与えない。

 

ケインズ派

一方ケインズ派は、名目賃金は硬直的(つまり伸縮的に動かない)と考える。さらに、流動性への選好を仮定する。つまり、流動性を持つ貨幣を保有することで人々は効用を得るが、その流動性を放棄し、債券等を保有することで、その対価として利子を得ると考えた。よって、人々の貨幣需要は利子率の減少関数(利子率が高ければ貨幣の保有を減らし、逆に利子率が低ければ流動性への選好のために貨幣保有を増やす)であるとした。

貨幣市場の均衡条件を数式に表すと

M/P=L(Y,r)

である。Lは貨幣需要関数で、貨幣需要は利子率の減少関数であると同時に生産量の増加関数である。

 

以上を踏まえたマクロ経済モデルも嶋村(2004)を参照。このモデルの下では、名目賃金が硬直的であり、仮に労働に超過供給(労働供給>労働需要)が発生しても、名目賃金は即座に調節されないため、失業が発生する。そして、古典派とは違い、貨幣は名目変数のみならず実質変数にも影響を与える

 

 

一般に、長期においては価格が伸縮的であり、短期においては価格が硬直的であるとの仮定のもと、経済分析が行われることがある。

 

(参考):

嶋村紘輝(2004)「マクロ経済学の発展一古典派とケインジァンー」早稲田商学第401号

価格弾力性とは何かについて平たく説明

本ページでは、価格弾力性とは何かについてまとめたい。ここではとりわけ、需要の価格弾力性について取り上げる。

 

基本的に、価格が上昇すると財の需要は減少する。それでは、価格が1%上昇した時に、需要は何%変化するのか。需要の価格弾力性とはこれを表す指標となる。

 

数式で表すと需要の価格弾力性(E)は以下のようになる。

ここで、pは価格、Qは需要量である。この式を変形すると、

となる。実際の計算においては、こちらを使用する方が便利なことが多い。なぜなら、Q(pの関数)をpで微分した値に、p/Qをかければ良いからだ。

 

価格弾力性は、変化率を変化率で除した値である。したがって、単位の取り方に影響を受けない指標であるということができる。対して、需要関数の傾きは横軸、縦軸の単位の取り方(例えばミリリットルなのかリットルなのか)によって変わってしまう。こうしたことから、価格弾力性は便利な指標として広く用いられる。

 

最後に、価格弾力性と財の売上の関係について考えてみたい。価格弾力性を用いることによって、ある財の価格が上昇した時に、その財の売上は増えるのか、減るのか、分析を行うことができる。

 

ある財の売上(Rとする)は、価格に生産量をかけたpQで表すことができる。ここで、Qはpの関数である。そして、価格が変化した時の売上の変化(売上を価格で微分した値)は、

となる。R=pQ(p)の微分は、積の公式(f(x)g(x))'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)を用いればよい。

上述のとおり、価格が上昇すると基本的に需要は減少するため、Eは通常マイナスの値をとる。Eのマイナス幅がー1より小さい場合、微分値はプラスとなり、すなわち価格が上昇すると売り上げが上がることになる。これは価格を上げても需要が大きく減らないような財(インフラ関連など)が該当する。

 

反対に、Eのマイナス幅がー1より大きい場合、微分値はマイナスになるため、価格を上げると売り上げが下がることが分かる。Eがー1の場合は、価格を上げても売り上げに変化はない。

 

(参考):

神取道宏(2014)「ミクロ経済学の力」日本評論社

税効果会計とは何かについて平たく説明

本ページでは、税効果会計とは何かについてまとめたい。税効果会計は、一言でいえば、会計上の利益と税法上の課税所得との差異を調整するための会計処理ということができる。

 

会計上の利益と税法上の課税所得

法人税は会社が産み出した利益に対して課せられるものである。しかし、厳密には法人税は「課税所得」に対して発生する。それでは、会計上の利益と税法上の課税所得にはどのような違いがあるのか。差異が生まれる要因には例えば以下のようなものが存在する。

 

①貸倒引当金

会計上は、貸倒引当金は費用として処理される。しかし、貸倒引当金は会社の見積もりによって決定されるため、貸倒引当金を損金として認めてしまうと、課税所得を不正に低く操作できてしまう。そこで、税法上は貸倒引当金が損金としとして算入できる金額に制限がある。

 

減価償却

会計上は減価償却額は会社の見積もりに基づいて個々に決定されるが、上記と同様の問題意識から税法上は法定の耐用年数を適用しなければならない。

 

このように、会計上の利益と税法上の課税所得には差異が生じうる。

 

差異が生じることによる弊害

会計上は、税引前当期純利益法人税率を乗じることで税額を求めることができる。しかし、上述の理由から、会計上の利益と税法上の課税所得には違いがあるため、会計上算出された法人税額と、実際に納付しなければならない法人税額に差異が生じてしまう。

 

税法に則って計算された法人税額は、絶対的に支払わなければならない額なので、それは確実に費用として計上しなければならない。しかしその額は、会計上導き出される法人税額とは異なる。

 

そもそも会計の主要な目的は、会社がその期間にどれだけ収益を上げたかを的確に把握することにある。しかし、(会計上の方法とは異なる方法で計算された)法人税額のせいで、会計上の利益が過大に見えたり、あるいは過小に見えたりする可能性がある

 

例えばある会社における会計上の税引前純利益がt期、t+1期共に100であるとする。しかし、課税所得はt期に150、t+1期に50だったとする。税率が10%なら、t期には15、t+1期には5だけ法人税が発生する。これを会計上の税引前純利益から差し引くと、税引後の利益はt期に85、t+1期に95となる。税引前の会計上の利益はどちらの期でも変わらず、本質的には会社のパフォーマンスは変わらないのに、法人税のせいで税引後で見るとt+1期の方が儲かって見えてしまう。これでは、会計の主要な目的である「その期における企業の業績を的確に把握すること」が難しくなってしまう

 

一時差異

会計上と税法上で生まれる差異の中でも、最終的には解消される差異を一時差異という。一年の単位ではズレが生じていても、数年のスパンで見た時に最終的にはズレが無くなっているものが一時差異である。減価償却や貸倒引当金は基本的にこの一時差異に該当する。税効果会計は一時差異に適用される。

 

税効果会計

上述の問題点を克服しようとするのが税効果会計である。具体的には、(税法に則って)実際に支払った法人税額を、会計上計算される法人税額に調整する(合わせる)会計処理である。

 

①会計上の法人税よりも実際の(税法上の)法人税の方が多いとき

この場合、会計上の法人税額に合わせるために、減算調整を行う。具体的には、差額分だけ法人税を減少(法人税等調整額)させるのに対して、資産に「繰延税金資産」を計上する。当期において、会計上の法人税よりも多くの額を実際には支払ったので、将来は逆に会計上の法人税よりも実際に支払う額は少なくて済む。感覚的には先に多く支払ったのでその分後で得するから、その額を資産として計上するイメージである。将来においては、繰延税金資産を解消し、その分の法人税額を費用計上(法人税等調整額)する。

 

②会計上の法人税よりも実際の(税法上の)法人税の方が少ないとき

この場合、会計上の法人税額に合わせるために、加算調整を行う。具体的には、差額分だけ法人税を増加(法人税等調整額)させるのに対して、資産に「繰延税金負債」を計上する。当期において、会計上の法人税よりも少ない額を実際には支払ったので、将来は逆に会計上の法人税よりも実際に支払う額は多くなる。感覚的には今少なく支払ったのでその分後で多く支払う必要があるから、その額を負債として計上するイメージである。将来においては、繰延税金負債を解消し、その分の法人税額を減少(法人税等調整額)させる。

 

最小二乗推定量を行列で表現してみる

本ページでは、最小二乗推定量を行列とベクトルを用いて表現する方法についてまとめたい。具体的には、回帰式

の推定量を行列とベクトルを用いて表現してみる。

 

行列のおさらい

まず、本題に入る前に、行列のおさらいを簡単に行う。

行列の積

行列の積は以下のように計算できる。

ある行列の行(横)の本数をa、列(縦)の本数をbとして、行列の型を(a,b)で表すとする。このとき、A,B2つの行列の積ABを定義できるのは、

A:(l,m)

B:(m,n)

となる場合、すなわち(l,m)×(m,n)=(l,n)となり、Aの列の本数とBの行の本数が等しくなる場合のみである。2つの行列の積によって計算された新たな行列は、Aの行の本数×Bの列の本数となる。

単位行列

正方行列(行と列の数が同じ行列)の対角線上の要素(対角要素)がすべて1で、それ以外の要素がすべて0のものを単位行列と呼ぶ。

逆行列

正方行列Aについて、

 

となるような行列A^-1をAの逆行列という。2×2の場合の逆行列は以下の通りである。

なお、ad-bcの値は2次正方行列における行列式といい、|A|またはdet Aといった表記の仕方がある。3次以降の正方行列においても行列式は存在するが、計算はより複雑になる。行列式がゼロの場合は逆行列は存在しない。常に逆行列が存在するとは限らない。

 

Aの逆行列は、Aの余因子行列を行列式で除すことで計算できる。余因子行列は、以下の手順で求められる。

①Aの(i,j)成分の余因子を求める。余因子は、Aのi列とj列を取り除いた行列行列式に、ー1のi+j乗を乗じたものになる。

例えば、

の(2,2)余因子は、

となる。

②Aの各成分における余因子で行列を構成する。例えば(1,1)成分に(1,1)余因子、(2,3)成分に(2,3)余因子をおく。次に、この行列の行と列を入れ替えると(転置)、余因子行列が完成する。転置については後述を参照。


転置

続いて、行列の転置について簡単におさらいしたい。行列の転置とは行と列を入れ替えることである。行列Xを転置したものはX’と表現される。例えば、

となる。

列ベクトルの転置×列ベクトルは要素の2乗和になる。つまり、

列ベクトル×行ベクトルは行列になる。

回帰式のベクトル表示

以下の回帰式をベクトル・行列を用いて表現する。

なお、i=1, ... ,n である。
まず、n個の観測値が存在するとき、上記の回帰式における各変数とパラメータを、ベクトルを用いて以下のように表現すると、

回帰式は次のように表せる。

Xはn行2列の行列となる。そして、最小二乗推定量とは、残差eの2乗和を最小にするように選んだβの値である。

残差二乗和は、残差ベクトルを用いるとe'eと書ける。

 

射影

最小二乗法を幾何的に考えると、以下の図のようになる。

浅野・中村(2009)を参考に作成

残差の2乗は、ベクトルeの長さの2乗となる。最小二乗推定量は、幾何的には、ベクトルYとベクトルXの定数倍(β倍)の距離が最小になるようなβということになる。(このときのXβは、元の回帰式を思い出すと、Yの推定値(Y^)と等しくなっていることが分かる。)最小になるときのeは、上記の図の通り、Xの定数倍と直交(垂直に交わる)していることが分かる。

 

最小二乗推定量

2つのベクトルが直交しているとき、内積は0になる必要があるため、X'・e=X'・(Y-)=0となる。

このとき、最小二乗推定量は、

となる。

 

最後に、冒頭の回帰式の最小二乗推定量を行列を使わずに表現し直してみる。

であり、

となる。そして、

したがって、

説明変数Xの係数であるβ_2の値は、

となる。


(出典):

浅野 皙 、中村 二朗 (2009)『計量経済学 第2版』有斐閣

需要と供給の均衡についての考え方

需要と供給の均衡は、大学の経済学で一番最初に習う事項だろう。右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線の均衡点で価格が決定される。

 

初歩的な経済学のテキストでは、需要曲線、供給曲線ともに直線(一次関数)であり、連立一次方程式を解くことで容易に均衡点を算出することができるようになっている。

 

ここで忘れがちなのは、需要についての式、供給についての式の2本の式だけで均衡が決定されるわけではないということだ。

 

連立方程式は、未知の変数の数と、方程式の数が一致している場合にのみ解くことができる。方程式の数以上に変数の数があると、解を導くことはできない。

 

ある財についての需要供給の均衡を考えるとき、ここでの変数はいくつになるだろうか。需要量Qd、供給量Qs、価格Pの3つである。

 

つまり、需要・供給それぞれの式(合計2本)に対して、変数が3つ存在する状態となる。このままでは解を導出することができない。

 

ここで、もう一つの式を導入する必要が出てくる。それは、「均衡条件」である。

需要と供給の均衡点を求めようとしており、均衡点では需要量と供給量が等しくなる。つまり、

Qd=Qsが成立するということである。

この3番目の式により、3本の方程式、3つの変数ということになり、無事に解を求めることが可能となる。

 

こういったことを考えずに、ただ単にQとPの連立方程式を解く、ということでも初歩の段階では解けてしまうが、この「均衡条件」の考え方はより複雑な状況においてより重要なものとなる。