本ページでは、構造VARとは何かについてまとめたい。
VARとは何かについては以下にまとめている。
以下で用いる数式は、Enders and Walter(2015)を基にしている。
構造VAR
時系列データであるyとzの関係をVARモデルで記述することを考える。VARモデルは、同時点の変数が互いに影響を及ぼさないことを仮定したものとなっているが、構造VARは、この仮定を緩め、
のように定式化する(この2つの式を①としよう)。①式の例では、yは一期前のyとz、それに同時点のzで説明されることを示している。また、zは一期前のyとz、それに同時点のyで説明される。
同時方程式バイアス
上記の構造VARにおいては、yとzは同時に決定される。この場合、通常の最小二乗法を用いた推定を行うと、推定値にバイアス(同時方程式バイアス)が生じることが知られている。そこで、以下のような式変形を行い誘導形という形にすることで推定を行う。
まず、t期の変数を全て左辺に移項してから、以下のように行列を用いた表現に書き直す。
ここで、上段・中断・下段の式はすべて同じことを言っている。
そして、両辺に逆行列B^-1をかけて整理すると、
となる。Xはベクトル(y,z)である。よって、以上の式変形を経て、t期の各変数が過去の時点(上記の例ではt-1期)の変数のみによって表現されていることが分かる。これを誘導形という。これを行列を用いずに表すと、
となる(この2つの式を②としよう)。
識別の問題
誘導形である②を用いて最小二乗法による推定を行うことができる。ただ、あくまで求めたいのは構造形であり、誘導形→構造形の復元作業を行う必要がある。しかし、ここで識別性という問題が生じる。
構造形である①式にて、パラメータの数は全部で10である(b10, b12, γ11, γ12, b20, b21, γ21, γ22, var(εyt), var(εzt))。ここで、εytとεztの共分散は0である。
一方、誘導形である②式においては、パラメータの数は全部で9である(α10,α11,α12,α20,α21,α22,var(e1t),var(e2t), cov(e1t,e2t))。ここで、e1tとe2tの共分散は0ではない点に留意。
つまり、構造形の方がパラメータ数が多いので、誘導形を構造形に復元できる(つまり、構造形を識別できる)ようにするためには、構造形に制約(ここでは10-9=1個の制約)を課す必要がある。
それでは、どのように構造形に制約を課せば良いか?上記の場合について言えば、例えばb12=0という制約を課すことを考える。これはつまり、yが同時点のzに影響を与え得る一方、zが同時点のyには影響を与えないという仮定である。こうすることで、構造形のパラメータの数を1つ減らすことが可能となる。
この例では、行列Bの(1,2)成分を0にするという制約を課していることになる。これを一般化して、n×nの行列B:
を考えると、上三角部分への制約、すなわち、
-b12=-b13=-b14=...=-b1n=0
-b23=-b24=...=-b2n=0
-b34=...=-b3n=0
...
-bn-1n=0
を仮定することで構造形を識別できるようになる。よって、一般に必要な制約の個数は(n^2-n)/2となる。
(参考):
Enders, Walter. (2015) ."Applied EconometricTime Series, 4th edition". Wiley Publishing.
沖本竜義(2010)「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」朝倉書店