本ページでは「保険」という機能がどのような役割を担っているかについて考えてみたい。
リスク回避的な個人
まず、リスク回避的な個人の行動について考える。
例えば農家を例にとってみると、天候や災害等により農家の所得は変動する。
災害が起きない時の農家の所得を1000、災害が起きた時の所得を100とする。災害が起きる確率は50%であるとする。このとき、農家の所得の期待値は、
0.5×1000+0.5×100=550
となる。
ここで、農家に2つのオプションが与えられたとする。1つは、何らかの方法で"確実に"期待所得550を受け取れるというオプション。もう一つは、災害が起きるリスクを引き受けて、50%の確率で1000の所得を受け取り、50%の確率で100の所得を受け取るというオプション。
どちらのオプションにおいても、期待所得が550であることには変わりない。しかしもし農家が一つ目のオプション、すなわち確実に550を受け取ることを選んだとき、この農家は「リスク回避的」と呼ばれる。期待所得が同じでも、リスクがある状態よりも確実に得られる方を選好している(効用が高い)ためである。
逆に、どちらのオプションを選んでも構わない、と考えている人は、期待所得が同じである限りリスクの有無は考慮していないため、「リスク中立的」と呼ばれる。
保険の機能
リスク回避的個人とリスク中立的個人が取引を行うことで、リスク回避的個人の効用が上がることが考えられる。リスク中立的個人をAとしてみよう。
例えば農家が災害によって被る損失額900を、Aが支払うとする。反対に、災害の有無に関わらず農家はAに対して、450(損失額の期待値900×0.5)を支払うとする。
このとき、農家の所得は
災害が起きた時: 100+900−450=550
災害が起きなかった時: 1000−450=550
となり、災害の有無に関わらず確実に550を得ることができるようになった。
反対にAの所得は
災害が起きた時: 450−900=−450
災害が起きなかった時: 450
よって、Aの期待所得は
0.5×(−450)+0.5×450=0
となる。Aはリスク中立的なので、何もしなかったとき(つまり所得0)と、農家のリスクを代わりに引き受けて上記のような取引を行ったときと比較しても、効用は変わらない(つまりどちらでも良い)。
ということは、この取引を通じて、農家の効用が向上した分だけ、社会全体の効用が上がったことを意味する。
これが保険の役割で、リスク中立的な保険会社がリスク回避的個人の抱えるリスクを代わりに引き受けることで、リスク回避的個人の効用が増大することが分かる。誰の効用を下げることなくリスク回避的個人の効用を上げることができており、これをパレート改善という。