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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

デリバティブ取引におけるネッティングとは何か

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本ページでは、デリバティブ取引におけるネッティングとは何かについてまとめたい。

 

店頭(OTCデリバティブ

まずは、デリバティブ取引の中でも店頭デリバティブの説明から始めたい。店頭デリバティブとは、取引所を介さずに、取引の当事者同士が相対で行うデリバティブ取引である。金利・通貨スワップや、CDSクレジット・デフォルト・スワップ)などが中心。OTCデリバティブともいう。

 

そして、こうした店頭デリバティブを通じて、プラスあるいはマイナスのキャッシュフローが発生する。この将来キャッシュフローは額の変動のリスクに「さらされている 」ため、「エクスポージャー」と呼ばれる。株などの他の資産は保有額そのものが価格変動のリスクにさらされているためエクスポージャーと呼ばれるが、デリバティブは差金決済による取引であり、将来キャッシュフローエクスポージャーとなる。

 

相対取引である店頭デリバティブにおいては、一方がプラスのエクスポージャーを持っていれば、もう一方はマイナスである(いわゆるゼロサムゲーム)。

 

ネッティングの概要

ネッティングとは一言でいえば、取引相手との複数の債務・債権関係を相殺し、最終的に残った差額のみの授受を行うことである。

 

例えば、AとBが3つの取引を行っていて、各取引におけるそれぞれのエクスポージャーが①A: +10 B: -10 ②A: -15 B: +15 ③A: +20 B: -20であったとする。各取引のプラスマイナスを相殺すると、A:+15 B: -15 となる。よって、BからAに15を支払うことによって、一連の取引の清算を完了させる。

 

ネッティングの有効性

これらのネッティングの法的な有効性を担保するのが、ISDA( International Swaps and Derivatives Association)という国際組織である。ISDAは、デリバティブ市場の活性化を目的とし、契約書類等の制定などを行っており、日本を含めた世界各地に拠点がある。このISDAが作成する「ISDAマスター」に基づく契約を取引当事者間で締結し、その中に含まれるネッティングに関する条項により、取引に際してのネッティングが法的に有効であると認められる。日本では、ISDAマスターを締結していることにより、「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」(一括清算法)に基づき、ネッティングの法的有効性が担保される。

 

ネッティングが法的に有効であることが認められることにより、取引を行う金融機関にとっては規制対応上のメリットがある。具体的には、リスク資産に対して一定の自己資本を求めるバーゼル規制において、デリバティブエクスポージャーのネッティング(つまりプラスのエクスポージャーとマイナスのエクスポージャーの相殺)が認められることで、規制上リスク資産と認定される額を一定程度削減することが期待できる。

 

(参考):

三菱UFJ銀行市場企画部/金融市場部(2014)『デリバティブ取引のすべて 変貌する市場への対応』