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シリコンバレー銀行はなぜ破綻したのか

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本ページでは、アメリカのシリコンバレー銀行が破綻した理由についてまとめたい。現時点で分かっていることを文末の情報ソースなどからまとめている。

 

カリフォルニア州に本拠地を置くシリコンバレー銀行は、ベンチャー企業(とりわけテック系)を主要顧客として抱えている銀行である。

 

シリコンバレー銀行破綻の経緯

2023年3月10日、シリコンバレー銀行が経営破綻に陥った。この背景として、FRBによる断続的な利上げが挙げられる。シリコンバレー銀行は長期の住宅ローン担保証券MBS)等の有価証券を多く保有していたが、利上げにより価格は下落、多額の含み損を抱えることとなった。

 

金利上昇局面においては、期限前償還(プリペイメント)リスクにより、MBSの価格低下がいっそう進む傾向があることが知られている。この点については、以下のページを参照。

hongoh.hatenablog.com

 

また、FRBによる利上げを受け、投資家はよりリスク回避的になったと考えられる。このことはシリコンバレー銀行の主要顧客である新興のベンチャー企業等にとって、特に資金調達の面で大きなマイナスとなる。そして、金利上昇はこうした企業の企業価値(バリュエーション)を下げる形となった。これらベンチャー企業は、流動性の確保等のためにシリコンバレー銀行の預金を引き出し始めた。

 

増加する預金の引き出しに応じるために、3月8日、銀行は保有している有価証券の大規模な売却(上述の通り金利上昇により価格は大幅に下落しており、損失の計上を伴った)を行い、それに加えて追加的な株式の発行を計画していることを公表した。これらの発表により市場の間で銀行の財務状況への不安が高まり、かえって預金流出が加速し、いわゆる取り付け騒ぎのような状態になったと考えられる。

 

また、銀行の株価は大暴落した。こうなると株式による資金調達は困難となり、殺到する預金引き出しに応じるために会社の売却を含めて検討がなされたが、最終的に預金保護を担う連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation, FDIC)が銀行を閉鎖する決定を下した。

 

流動性リスクの顕在化と金融システムへの影響

今回のシリコンバレー銀行の件は、流動性リスクが顕在化した好例であると言える。

 

ここからは一般論になるが、銀行は、いつでも引き出しに応じなければならない(つまり流動性の高い)預金によって資金を調達し、すぐには換金が難しい(つまり流動性の低い)貸出等によってその資金を運用している。つまり、資産と負債で流動性にズレがあり、これを流動性ミスマッチという。この流動性ミスマッチは銀行が本質的に抱える流動性リスクであり、例えば経済的なショックが起きて一斉に預金者が預金の引き出しを求めた時、それに応じるために資産を換金しなければならないが流動性が低いために換金できず、最悪の場合破綻してしまうといった恐れがある。


ある銀行における流動性リスクの顕在化は、金融システム全体に影響を及ぼす可能性がある。例えば、ある大規模な銀行が預金の流出に対応するために保有資産を低価格で投げ売った場合、市場の資産価格の下落を通じて他の銀行のバランスシートも棄損し得る。各銀行の財務状況が悪化し、預金への不安が市場全体に広がった場合、各銀行は急激な預金の流出に備えてキャッシュを手元に保有しようとする。その結果、インターバンク市場は機能しなくなり、各銀行の資金調達はますます困難となる。このように流動性の危機が悪循環の中で増大していく恐れがある。さらにこうした状況下では銀行は貸渋りをするようになり、実体経済にも影響を及ぼすことになる。

 

流動性リスクの顕在化により、銀行の健全性が損なわれると、金融システム全体、ひいては実体経済にまで影響を及ぼしかねない。今回のシリコンバレー銀行の破綻が金融システムや実体経済にどのような影響を及ぼすのか注目が集まっている。

 

(出典):

Why did Silicon Valley Bank fail? | US news | The Guardian

Silicon Valley Bank is shut down by regulators. Here's what to know. - CBS News

SVB Strategic Action Q1'23

米銀行シリコンバレーバンクなぜ破綻? テック金融の要、不安連鎖 - 日本経済新聞