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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

MBSの期限前償還リスク(プリペイメントリスク)とは何か

本ページでは、MBSにおける期限前償還リスク(プリペイメントリスク)とは何かについてまとめたい。

MBSとは

MBS(Mortgage-Backed Security、住宅ローン担保証券)とは、住宅ローンを担保にして発行される証券である。RMBS(Residential Mortgage-Backed Security)と呼ばれることもある。MBS証券化という仕組みを活用している。詳しくは以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

hongoh.hatenablog.com

住宅ローンの期限前償還

一般に住宅ローンは期限前償還が可能である。35年で住宅ローンを組んでいたとしても、途中で資金がまとまって入ったので返済スケジュールを切り上げて一括で返済する、といったことが考えられる。期限前償還を行うモチベーション、きっかけは家計によって様々である。

 

期限前償還は、金利の低下局面で増える傾向にある。なぜなら、金利が低下した場合、借り換えを行なうことでより良い条件でローンを組み直せるためである。このとき、当初に契約したローンを繰り上げて返済する家計が増えることが予想される。反対に金利上昇局面では期限前償還率は下がる。

 

期限前償還がMBSに与える影響

一般の債券同様、金利MBS価格の間には負の関係がある。では、金利が変化したときに価格はどの程度変化するのか?価格の金利感応度はデュレーションと呼ばれる。デュレーションの考え方については以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

純化すれば、

金利低下幅×デュレーション=価格上昇

金利上昇幅×デュレーション=価格低下

 

の関係にある。デュレーションは償還までの残存期間が長い債券の方が大きく(デュレーションは債券の平均回収期間を示している)、つまりこうした長期の債券においては金利が変化したときの価格への影響がより大きいことが知られている

 

ここで、通常の債券とMBSが異なるのが、期限前償還の存在である。既に見たように、金利低下局面では期限前償還が増える。これは、MBSが束ねている住宅ローンの残存期間が小さくなることを意味する。つまり、金利低下はデュレーションの低下を招く。よって、金利低下による価格上昇の幅が小さくなってしまう。

 

反対に金利上昇局面では期限前償還が減り、これはMBSデュレーションの上昇を意味する。よって、金利上昇による価格の低下幅がより大きくなる。

 

まとめると、期限前償還リスクがある場合、金利低下局面には思ったほど価格は上がらず、逆に金利上昇局面では価格が大きく下がることになる。MBSのこうした性質はネガティブコンベクシティと呼ばれる。ネガティブコンベクシティがある分、一般にMBSは利回りがやや高めに設定されている。

 

いわゆる「パススルー型」と呼ばれるMBSの場合、この期限前償還リスクはそのまま投資家に転嫁される仕組みとなっている。

 

シリコンバレー銀行の破綻

2023年3月、米国のシリコンバレー銀行が経営破綻した。直接的にはいわゆる"取り付け騒ぎ"が破綻の原因であるとされているが、その背景には銀行が金利上昇局面で多額のMBS保有していたことが指摘されている。上述の通り、金利上昇局面においては期限前償還率の低下によりMBSデュレーションは上昇し、より価格の低下をもたらす。よってシリコンバレー銀行のバランスシート上、MBSの価格低下により多額の含み損が発生することとなった。流動性確保のため銀行がこれらを売却し、損失を確定させてしまったこともあり、銀行の財務状況への不安視が顧客や市場参加者の間に広がり、多額の預金引き出し(取り付け)が起こったと考えられている。

 

(参考):

田渕直也(2012)「入門実践金融 証券化のすべて」日本実業出版社