<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

動学的不整合性について

金融政策における動学的不整合性について。

 

中央銀行が直面するトレードオフ

中央銀行の金融政策の目的として、物価の安定や、景気対策(失業率上昇の防止)等が挙げられる。そして、物価の安定を左右するインフレ率と、失業率の間には、負の相関関係がしばしば観察される。これをフィリップス曲線という。

 

このような関係が観察される理由として、労働者の短期的な行動が考えられている。

実質賃金が上昇すると労働供給量は増加する。これが労働供給曲線である。インフレが生じると、名目賃金も上昇する。賃金が上昇することは労働者にとって一見嬉しいことだが、実際には物価全般も上昇しているため、実質賃金でみると変化がない(少なくともインフレ率と名目賃金上昇率が等しければ)。しかし、労働者は短期的には物価全般の上昇には気づかず、名目賃金の上昇を実質賃金の上昇と勘違いし、労働供給を増やすことが考えられる。結果、失業率は減少する。よって、インフレ率と失業率の間に右下がりの関係があることを説明できたことになる。

 

失業率が下がればインフレが生じてしまい、インフレを抑えたら失業率が高まってしまう、というトレードオフ中央銀行は直面していることが分かる。

 

(注)しかし長期的には、労働者はインフレ率を正しく認識する。よって、実際のインフレ率と期待インフレ率が等しくなる。こういう状況では、上記のような「勘違い」は生じないので、失業率は均衡値(自然失業率)に収束すると考えられる。長期的には、インフレ率がどんな値でも、人々の期待インフレ率との齟齬がなくなるため、フィリップス曲線は垂直(縦軸のインフレ率の値に関わらず、横軸の失業率は自然失業率の値となるため)になる。

 

動学的不整合性

中央銀行としては、なるべくインフレ率も失業率も抑えたい。しかし、失業率とインフレ率の間にトレードオフがあるため、中央銀行は、うまくバランスをとって、両者によるダメージが最小になるように、金融政策のスタンスを決定しなければならない。

 

中央銀行の政策運営の方法としては、ルールに基づいて一貫した金融政策を行うか、裁量的に、そのたびごとに最適な金融政策を行うか、の2つに大別される。

 

ルールに基づく場合、人々の期待インフレ率と実際のインフレ率は一致する。人々は中央銀行が一貫したルールのもと政策を行っているので、正確にインフレ率についての予想ができるためである。そうすると、失業率は自然失業率の水準で落ち着く。

 

では逆に、裁量的な政策を行ったらどうなるか。中央銀行は、失業率が自然失業率以下に抑えることが最適だと考え、貨幣供給量を増やしてインフレ率を上昇させ、失業率を低下させたとする。人々はこの動きを予測できず、期待インフレとインフレ率との間に乖離ができることになる。しかし、いつまでも乖離が残っているわけではない。やがて人々は期待インフレ率を上方修正する。そうすると、期待インフレ率と実際のインフレ率が等しくなるので、失業率は元の水準(自然失業率)に戻ってしまう。

 

このとき、失業率を自然失業率以下に抑えることに失敗し、さらにインフレ率も上昇していることになる。このように、裁量的な政策運営を行い、その時に最適だった政策を実行してみたところ、後になってその政策が最適ではなくなってしまう、という現象を、動学的不整合性という。