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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

PEファンドのビークルについて

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本ページでは、PEファンドを組成する際に用いられるビークルの種類についてまとめたい。

 

ファンドは「器(ビークル)」である。どの器を用いるかによって、運営のし易さや、課税方法などが変わってくる。

 

ファンドにはどのようなビークルの種類があるかについては、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

 

ビークル選定にあたって考慮すべき点

PEファンドのビークル選定にあたっては、一般に以下の点が考慮される。

①二重課税を回避できるか

器(ビークル)に「法人格」があると、発生したリターンに対してまず法人税が課され、その後投資家に分配される段階で「所得税」が課されてしまう。このように税金が二重に取られてしまう構造を「二重課税」という。これを防ぐために、多くのPEファンドでは法人格を有さない「組合型」のファンドが選択される。組合型ファンドは法人ではないので、法人税は課されず所得税のみの課税にとどめることができる。このように、ファンド段階では課税されず、投資家段階でのみ課税されるスキームを「パススルー」という。

 

有限責任が認められるか

有限責任とは、ファンドの債務返済が困難になったときに、自らの出資額を超えてその返済に責任を持たなくてよいことを意味する。反対に無限責任の場合、ファンドへの出資額を超えて、自らの資産を使ってでも返済を行う責任がある。投資家にとっては、有限責任の方が都合がよいことは間違いないだろう。

 

有限責任の組合員をLP(リミテッドパートナー)、無限責任の組合員をGP(ジェネラルパートナー)という。

 

一般的によく用いられるビークル

以下、具体的にPEファンドでよく用いられるビークルについて述べる。

任意組合(民法上の組合)

任意組合とは、民法上定められた組合契約である。組合型であるため、パススルーが適用され、二重課税を回避できる。任意組合の特徴は、出資者全員が無限責任を負担するという点である。

 

任意組合のメリットとして、投資対象に特段の制限がなく組合に対する監査も必要がないので、運用者にとっては扱いやすいという点が挙げられる。

 

投資事業有限責任組合

経産省が所管する「投資事業有限責任組合契約に関する法律」によって定められている「投資事業有限責任組合」は、PE組成において一般的によく使われる。こちらも組合型なので、パススルーが適用される。

 

最大の特徴は、一部の組合員が「有限責任組合員」になることが認められている点である。その代わり、有限責任のみを有する場合はファンド運営を行ってはいけない。よって、ファンドを運用する運用会社が無限責任組合員(GP)となり、投資家が有限責任組合員(LP)となる。

 

運用者にとって制約になるのは、出資額の50%以上を国内に投資しなければならないという点である。これは、この法律の基本思想が「国内企業に資金を供給する」ことを前提としているためである。よって、海外に投資するファンドを組成する場合は、投資事業有限責任組合によく似た海外籍のファンドである「リミテッド・パートナーシップ」が用いられる。

 

もっとも、海外投資家をもっと呼び込んで市場を活性化させる観点から、この「50%要件」の見直しを求める声は大きい。

 

(参考)幸田博人ほか(2020)『プライベート・エクイティ投資の実践 オープン・イノベーションが企業を変える』、中央経済社