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個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

ソーシャルレンディングにおいて存在した匿名化と情報開示の問題

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投資家から集めた資金をファンドを通じて企業等に貸し付ける「ソーシャルレンディング」を行う業者は、第二種金融商品取引業貸金業の登録が基本的に求められる。このうち「貸金業」について、ソーシャルレンディング特有の論点がある。それは、「投資家が貸金業とみなされないために必要な匿名化というしくみが、投資家保護を妨げるのではないか」というものである。以下、噛み砕いて説明していく。

 

投資家は貸金業登録が必要か

ソーシャルレンディングにおいては、一定の要件を満たした場合、資金の出し手である投資家が貸金業者に該当すると判断されてしまう場合がある。貸金業に登録するには、純資産が5000万円以上で、貸付業務経験者や貸金業取扱主任者を確保し、貸金業法に定める行為規制を遵守する必要があるが、一般の投資家がいちいち業登録などできるはずもない。

 

金融庁では、以下のようなスキームをとれば投資家がファンドに出資する行為を貸金業とみなされないとの見解を出している。

 

・借り手(貸付先)の「匿名化・複数化」

・借り手が法人である

・ファンドは商法上の匿名組合契約によるものとする

 

ポイントは、もし投資家が具体的に特定された投資先について融資を行えば、たとえファンドという「器」があったとしても、ただ資金が通過するだけの存在となり、貸金業と何ら変わらないのでは、という点である。そこで、貸付先を具体的に特定せず(匿名化)、さらに貸付先を分散させることで、この懸念を回避することができる。また、「匿名組合契約」によってファンドを組成することで、ファンドの運用者が事業を行い、資金の出し手(投資家)には決定権がないものとすることができる。

 

 

匿名化と情報開示の整合性

しかしながら、上記の「匿名化」には難しい面もある。投資家保護の観点からは、投資家に対して投資先に関する十分な情報開示が必要である。過去には、投資先の情報について投資家に誤解を与える表示をしていたとして、行政処分が下された業者もある。

 

投資商品における十分な開示は基本中の基本であるが、これは投資家が貸金業認定されないための「匿名化」という仕組みと、根本的に相反する考えである。そこで金融庁は2019年、投資者と借り手が接触を禁止する措置が図られている場合には、借り手の情報を開示しても、投資者の貸金業登録は不要とする解釈を示した。業界ではこの金融庁の見解をもって、匿名化要件は解除された、と受け止められている。

 

(参考)

・森・濱田松本法律事務所 増島雅和, 堀天子, 石川貴教, 白根央, 飯島隆博(2017)『FinTechの法律 2017-2018』、日経FinTech選書

金融庁HP『ソーシャルレンディングへの投資にあたってご注意ください』