本ページでは、保険における逆選択の問題についてまとめたい。
保険会社と加入者の間には情報の非対称性が存在する。とりわけ、加入者に隠された特性(情報)がある場合には、逆選択の問題が生じるとされる。では、逆選択とはどのような問題なのだろうか。
保険の加入者には2種類のタイプが存在し、高リスクな個人がpの割合、低リスクの個人が1−pだけ存在するとする。
低リスクな個人は、10%の確率で損失(−100)を被る。そして、所得は以下のようになるとする。
10%: 0
90%: 100
高リスクな個人は、50%の確率で損失を被る。所得は以下のようになるとする。
50%: 0
50%: 100
保険会社は加入者から保険料を徴収し、加入者が損失を被った場合には、その全額を補償するとする。もし保険会社側が加入者のリスクの高低を判断できるならば、それぞれに別の保険料を適用すれば良い。しかし、情報の非対称性により加入者のリスクの高低が分からないので、市場全体の高リスク者の割合pから、例えば以下のように保険料を算出し、一律で適用することを考える。
p×0.5×100+(1−p)×0.1×100=40p+10
高リスク者、低リスク者それぞれに補償する損失額の期待値を、高リスク者の割合pでウェイト付けしている。損失を補償する分だけ保険料を徴収すれば、保険会社の期待所得は0となる。
では、低リスク者は保険料をどれだけ支払っても良いと考えるだろうか。これは効用関数の形状に依存するが、低リスク者の期待損失(0.1×100=10)を保険料として支払えば、損失の発生の有無にかかわらず、低リスク者は90の所得を確実に受け取ることができる。
しかし高リスク者が50%存在する(p=0.5)としたら、保険料は上記の計算から30になる。これは低リスク者にとって相当の割高である。低リスク者が相当程度リスク回避的であれば支払う可能性はあるが、この保険料は高すぎるので加入を止める、と判断する可能性はある。
逆に高リスク者の期待損失は0.5×100=50であり、30という保険料は、期待損失に比べて低い。高リスク者が得られる所得は損失の有無に関わらず70となり、期待所得の50(=0.5×0+0.5×100)よりも高くなる。
こうして、リスクが高い者のみが保険を購入するとき、保険会社の期待所得は30−0.5×100=−20となり、赤字になってしまう。
このように、情報の非対称性により、加入者の特性に関わる情報が保険会社から見えないことで、リスクの高い加入者ばかりが残ってしまうという問題を逆選択という。