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金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

コピュラの考え方とリスク管理への応用例について

本ページでは、コピュラの考え方とリスク管理への応用例についてまとめたい。

 

コピュラの理解のための下準備

まず、コピュラの理解には同時分布に関する知識が必要となるため、以下のページを参照されたい。

hongoh.hatenablog.com

そのうえで、後に登場する正規コピュラのための事前準備として、多変量正規分布についておさらいする(上記のページにも同内容が掲載されている)。

確率変数X1、X2が正規分布に従っていたとすると、同時確率分布は相関Σの正規分布に従う。

Σは2変量の場合、

となる。σ1はX1の標準偏差、σ2はX2の標準偏差、σ12はX1とX2の共分散である。

さらに、X1とX2の相関係数ρは、

で表すことができる。

そして、正規分布であるn変量の同時確率分布は、

となる。ここで、xは確率変数x1からxnのベクトル、μはその平均のベクトルである。

なお、2変量の場合、ρを用いて、

と表すことができる。

 

コピュラとは

前置きが長くなったが、以下、コピュラの考え方について整理したい。

いま、n個の確率変数(X1,X2,...Xn)があり、それぞれの確率分布は異なるとする(更に言うと、正規分布やポワソン分布など、よく知られた形状の分布である必要もない)。


ここで、確率変数Xi (i=1,2,...n)の累積分布関数 Fiを考えてみる。累積分布関数は0から1の値を取り、Xiがxi以下の値を取る確率を

と表すことができる。


そして、この累積分布関数の(y軸の)値をUiという新たな確率変数として以下のように定義する。

積分布関数は0から1の値を取るので、Uiも0から1の値を取る。このとき、Uiは、[0,1]の一様分布に従うことが知られている。この一様分布に従うUiの同時分布関数をコピュラという。コピュラ(C)は、

と表すことができる。


コピュラにはいくつかの種類があるが、ここでは正規コピュラ(Gaussian copula)を取り上げる。Fiの実現値をuiと表すこととすると、

となる。ここで、φnはn変量の標準正規分布を表す。本記事の前半で説明した通り、それぞれの確率変数の周辺分布が正規分布であるとき、それらの同時分布(n変量)は相関行列Σのn変量正規分布となる。


この正規コピュラを利用するために、各uを平均0、分散1の標準正規分布の分布関数に従う確率変数に変換する。これがの部分であり、標準正規分布逆関数である。uというy軸の値が与えられたときに、この逆関数を通じてx軸の値が算出される。このx軸の値は、当然、標準正規分布に従う。

 

コピュラのリスク管理への応用

コピュラは金融機関におけるリスク管理に応用される。ここでは、信用リスクを例にとって考えてみる。


銀行は、さまざまな種類なローンからなるポートフォリオ保有している。このポートフォリオの信用リスクを管理する際、個々のローンの相関を考慮する必要があるが、個々のローンがどういう分布に従っているか定かでないときに、コピュラを通じてローンどうしの相関関係を考慮したデフォルト確率を考えることができる。


例えば、X1とX2の二つのローンからなるポートフォリオを考えてみる。それぞれが1年以内にデフォルトする確率がa%、b%だったとするつまり、x1=a, x2=bである。このデータをもとに正規コピュラを用いて、二つのローンが1年以内にデフォルトする確率を求めることができる。

 

正規コピュラはバーゼル規制における信用リスクアセットの計測の際にも用いられている。


(参考):

吉羽 要直(2009) 「金融リスクとコピュラ~依存構造がリスクに及ぼす影響~」

森平爽一郎(2014)「コピュラ: 信用リスク管理の新たな視点」証券アナリストジャーナル

Attilio Meucci(2011) “A New Breed of Copulas for Risk and Portfolio Management”Risk, Vol. 24, No. 9, pp. 122-126