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損失補填とは?損失補填が禁止される理由とは?

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本ページでは、損失補填とはなにか、 そして損失補填が金商法上なぜ禁止されるのかについて考えてみたい。
 

損失補填とは

損失補填とは、 証券会社等が顧客の取引によって生じた損失を補てんすることである。たとえば投資家が証券会社Aの口座を通じて株取引を行い、 100万円の損失が発生した場合、 証券会社Aがその損失を埋め合わせることである。損失補てんは、 金商法39条にて禁止されている行為である。
 

損失補填が禁止される理由

では、なぜ損失補てんが禁止されるのか。顧客との関係の中で、「損失分を補償する」 というサービスを提供することは別に自由なのではないか、 と考える人もいるかもしれない。
 
損失補てんが禁止される理由として、「公平性」 の阻害が挙げられる。 証券会社は顧客すべてに損失を補てんするのは難しいので、 大量に注文してくれる大口顧客に絞って行うだろう。しかし、 同じ株式に投資していてもある投資家は損が出ないのに別の投資家は損失が発生している、という状況は、 資本市場の原理原則である「フェア」な状態とはほど遠い。
 
さらにもう一つ、「価格形成機能」の阻害という問題がある。
 

金商法が対象にするのは資本市場である。資本市場では、企業の開示情報をもとに、投資者が投資判断を行い、企業に資金が流れていく。そして、公正な市場価格が形成される。成長が見込まれる企業の株価は上昇し、結果多くの資金を集めることができる。一方、成長が期待できない企業の株価は低迷し、資金調達が難しくなる。こうして、資本市場を通じて、真に必要な企業に資金が分配されていく。これが、効率的な資源配分である。

 

マクロでみると、成長企業に資金が集まり、企業がさらに成長していけば、国全体の経済も成長する。こうして、資本市場が十分に機能することは、「国民経済の健全な発展」に資するのである。

 

適切な資源配分がなされるには、「公正な価格形成」がなされることが前提となる。公正な価格形成がなされ、適切な資源配分を通じて成長企業に資金を供給し、経済を発展させるためには、公正な価格形成を阻害するような不公正な取引は避けなければならない。そこで、金商法では企業に適正な(嘘偽りのない)情報開示を求め、マーケットの参加者に公正な価格形成を阻害するような不公正な取引を禁じているのである。損失補填もその一つで、投資家が「どうせ証券会社が損失を埋め合わせてくれるから」と、よく考えもせず株を買っていたら、株価が企業の実力を正しく反映せず、市場の価格形成機能を阻害する可能性がある

 

透明性の高い市場が実現され、より多くの投資家がマーケットに参加し、資金がより市場に多く出回るようになるだろう。そうすると、企業はより積極的に資金調達を行えるようになり、ひいては経済全体の成長につながっていくだろう。

 

上記のような理由から、損失補填が禁止されていると考えることができる。

 

(参考):
芝園子(1999)『証券取引における「公正」と「 損失補てん等の禁止」(一)』