<金融アトラス/a>

金融アトラス

個人の勉強も兼ねて、少しずつまとめます。

間接金融から直接金融にシフトするべきなのか?

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金融とは読んで字のごとく「金を融通する」という意味である。当然、融通する人がいて、融通される人がいる。


融通の仕方は大きく分けて2通りあり、融通する人と融通される人の間に銀行がおり、銀行が融通先を決定する仕組みを「間接金融」、融通する人が市場を通じて直接融通する相手を選ぶのを「 直接金融」という。


日本の金融システムは伝統的に、間接金融つまり銀行が主体であったということができるだろう。 一方で、近年はその間接金融の比重を見直し、直接金融をより発展させるべきとの声もある。
果たして間接金融から直接金融へのシフトは必要なのだろうか。
 
初歩的な経済学の教科書に必ず出てくる「生産関数」 という概念がある。一国の生産量(GDP)は、資本投入量、労働投入量、そして全要素生産性(いわゆる技術進歩と解釈できる)によって決定される、というものだ。


その国で生産活動を行う企業において、以上の3要素が上昇すれば、ひいては国全体が成長できることになる。


日本の高度経済成長時は、 継続した人口増加に伴う労働投入量の増加、多額の設備投資による資本投入量の増加が、企業の成長の鍵であった。このようなフェーズにおいては、銀行を中心とした金融システムが効果的に機能する。


将来の成長の見込みがある企業に対して銀行が融資をし、企業はそれを受けて設備投資や人員の増加を実施し、着実に事業規模を増加させていく。 銀行は過度なリスクテイクに陥ることなく、着実に収益をあげることができる。
 
しかしながら、経済が成熟し、成長率がフラットになり、人口減少が続く昨今においては、資本蓄積や労働投入を増やしていくのは容易ではない。 こうした段階において、経済成長の重要な要素となるのは技術進歩、さらに言えばイノベーションである。


そのため、イノベーションを起こす企業にお金が集まる環境が整備されることが重要であるが、銀行がこの担い手になるのはハードルが高い。銀行からの借入金は、基本的には将来必ず返さなければならない。ただし、企業が将来確実に顕著な技術革新を達成できるかどうかは不透明であり、どの企業が技術革新を成し遂げられるかを予測するのは難しい。


このように、「将来うまくいけば大成功となるけれども、うまくいかない場合もある」といった企業に貸し出しを行うの銀行にとってはリスクである。こうしたいわゆる「リスクマネー」の供給の担い手は、銀行ではなくマーケットを通じて株式等に投資する投資家である。具体的には、大規模な資産運用会社・機関投資家や、ベンチャーキャピタルプライベートエクイティなどである。


彼らは、投資したお金が戻ってこない(=損失を出す)可能性があることを承知の上で、リスクを伴うものの高いリターンを求めて、 自己責任で投資を行う。
 
成熟した経済において経済成長を実現させるには、イノベーションが不可欠であり、そのためには市場を通じて投資家が直接投資先を決定する「 直接金融」の仕組みの方が適している。
 
以上のように、経済成長の観点からは、直接金融の発展をを一定程度促すことはメリットが大きいと考える。しかしながら、今の日本において間接金融・ 直接金融の比重をどうするのが良いか、その適切なバランスを探っていく必要がある。


イノベーションと一口に言っても、 画期的な技術革新だけではなく、作業フローの改善を通じた生産性向上も成長に大きく寄与するわけで、そのような着実な生産性向上を行う企業に対しては、銀行は引き続き有力な資金供給主体となり得るだろう。


個人的には、経済の安定と成長に資する金融システムの設計に当たって、この論点は重要なリサーチクエスチョンなのでは、と考える。